■本稿の目的
関羽が自分にしか興味がない人間だったことを確認する。
本稿では一般的な関羽の解説はしない。
関羽は『三国志』で最も有名な武将だ。曹操より有名だ。関羽がいつの時代の人物か分からない人でも、関羽を知っているという。伝説も観光地も多い。正史と『演義』とのギャップだって、語りつくされてペンペン草が生えている。その辺は、一切を割愛!
■ナルシストの象徴
関羽と言えば、ヒゲである。あれがまず、ナルシストの象徴なんだ。
よほど自分が好きでないと、あんなヒゲを保てない。※「あんなヒゲ」なんて見てきたようなことを書いているが、このサイトを読んで下さっている方は、鮮明な映像が浮かんでると思います。
女性が長い髪を美しく保つのは、大変な苦労だ。先の方が劣化してきて、お手入れに苦労する。ヒゲだって同じ人毛だ。髪より伸びるのが遅いだろうから、取り扱いはさらに厳重注意だ。
「ヒゲ袋」なるものが物語に描かれる。戦場以外では、ヒゲが傷まないように収納しているんだとか。袋の有用性は納得できる。しかし、恰好を想像するとダサい。おそらく首にかけるヒモがついている。巾着式になっていて、その中に丁寧にヒゲを折りたたんで入れているんだ。
物語に、関羽を襲った刺客が『春秋』を読んでいる彼の威厳に気おされて、感服してしまう場面がある。しかしこのときも「ヒゲ袋」を使っていたはずだ。一人で読書をするのに、ヒゲを見せびらかす必要はない。そんな間抜けな姿を見て、よく刺客は怖気づいたものだ。
吉川英治氏が「酒を飲めば飲むほどヒゲに艶が出る」なんて無責任なことを書いたそうだ。ぼくは気にも留めなかったけど、『三国志』を読んだ女友達に、それは本当なのかと聞かれた。あんなにヒゲを伸ばしたことがないから分からないけど、そんなワケないじゃん!と言いたい。
ただ、汗ばむと髪の毛がベタベタになる感覚?あれと同じなら「艶が出る」に語弊はないのか。
とにかく、こんな下らんことをファンに心配させてしまうくらい、彼のナルシストぶりは堂に入っているんだ。
■関羽の行動基準
オレを救ってくれた人物に尽くす。
これだと思う。一見いかにも「忠」という感じですなあ。神格化された関羽のイメージとも、あんまり対立しないと思う。
しかし、前提条件がちょっと独特なんだ。関羽はオレサマが大事だ。だから、関羽の忠は「オレサマを救ってくれた」という功績に対する報償なんだ。無償の忠なんて、くれてやるものか。
関羽なら腹でそう思っていそうだ。
■劉備に出会う以前
関羽が劉備に仕えた時期は、よく分からない。「関羽伝」には、「劉備が故郷で徒党を集めたとき、張飛とともに護衛官となった」と書いてあるのみだ。『演義』の名場面をぼくも好きなので、黄巾討伐の義勇軍を形成中のこととしよう。
「護衛官」ていうと表現にパンチがないが、原典では「禦侮」だった。侮るって何だろう?ぼくが買ってきた本の誤植か、ぼくが字義に疎いか、簡体字に惑わされているのか。不勉強でごめんなさい。
このとき関羽は本籍(河東郡解県)から出奔してきた。故郷で何をしたのか。各物語は、尤もらしい理由を書いてる。中国の民間伝承も豊富だ。
解県は塩の密売地だったことから、動機をそれに結びつけることが多いみたい。史書には何も書いてないから、故郷での関羽の人生は、著作権フリーの加工自由な素材だ。
ぼくなりに想像してみよう。
関羽は商人(仲買人)の息子だった。病気で父親が死んだ。関羽は家を継ぎ、大切なお取引先(密売業者の親方)に塩を納めに行った。
親方は、岩塩の質に言いがかりをつけて、値段を叩こうとした。親方が値段を叩くのは、いつものことだ。挨拶代わりに値切り交渉をする。
「長生(関羽の元の名)が申した値の、三割ならば買うてやろう」と、ふんぞり返った。関羽の親父ならば、そこは心得たものだった。「それでは元値を割ります。生活できません」と土下座して、値引率を緩くしてもらっていたんだ。それが慣用だった。親方も、そのつもりの呼吸で喋っている。しかし関羽は、そういう商人の「お約束の卑屈さ」に馴染まない。親方の態度に腹を立ててしまう。
「これだけの岩塩を作るのに、誰がどれだけの汗を流したか、知っていてほざくか!」と怒鳴って、親方の横っ面を張り飛ばしてしまう。親方は首の骨が折れて、死んでしまうんだ笑
密売商人たちは、仲間意識が異常に強い。国家への反逆をグループでやってるんだから、結束は固くなるでしょう。関羽の殺人は瞬く間に広がって、故郷に居られなくなった。
関羽の故郷は洛陽の近く。逃げた先は、北の果ての幽州。恐ろしい追っ手を振り切るために、地の果てまで逃げ去る覚悟だったんだ。
…とかどうでしょ笑?
関羽が財神になっている理由に、定説はない。貿易に乗り出した華僑が、駐留先に守り神として祭るうちに、商売と関羽が密着したとか言われてるが。でもさあ、もう一思いに本人に商売をしてもらおう!
塩の生産者たちから、塩を買い上げる。それを流通業者に売る、みたいな仕事をしていたんだ。
次回、劉備が登場。曹操も登場。まあ当たり前の流れですが。