■概要
司馬遷が発明した「紀伝体」に準えて、『三国志』にまつわる人物を整理しようという企画です。
私撰正史という趣向で、好き勝手に人物を配置し、分離統合し、『三国志』の世界観を表してみようと思います。
陳寿がカバーしなかった、後漢や西晋も、『三国志』との絡みで積極的に吸収します。断代史のマナーを、素で無視します。
■狙い
正史の体裁を作ることは、スリリングな知的営みです。「本紀」を誰に設定するか、どの順番に人物を並べるか、誰をペアにするか、などで執筆者の歴史観を色濃く反映することができます。声なき歴史観主張ツールなのです。 「紀伝体」とは、司馬遷が、前漢武帝への静かなるレジスタンスの道具として考案したものです。ゆえに、編者の歴史を見る目を投影する機能が元来より備わっており、それがぼくにとって大きな魅力です。力量と価値観が試されます。
■『易経』を持ち出す理由
ただ人物の解説文を羅列するだけでは、司馬遷や陳寿に敵うわけもないし、「人物辞典」的な優秀なサイトがたくさんあるので、今さらぼくが着手する意味がありません。 そこで、自分勝手に『易経』の卦を借りてきて、人物のキャラを象徴的に表してしまおうと考えました。
既刊の書籍には、レーダーチャートで「人望」「統率力」などをパラメータ化し、人物像を視覚的に表そうとしています。しかし、軍師本人に「戦闘力」を求めたり、生粋の軍人に「洞察力」を求めたり、文化人に「決断力」を求めたり、ナンセンスです。 もしチャートがイビツに歪んだとして、それはその人物の異質性を表していると言えるのか。はなはだ疑問でした。
また、優劣付けがたい「中くらいの評価」が多すぎて、読者も飽きてしまいます。突飛な英雄は、そんなに多くないのが現実。。
■『易経』とは
物事を陰と陽に分け、バー(爻という)で表す知識体系。
それを3本積み上げたシンボル(卦という)に、意味が与えられています。卦には、2の3乗で8つの種類があります。
しかし森羅万象を現すには8通りでは足りないということで、上下に卦を積み重ねて、8の2乗で64通りの「占い結果」が作られました。『易経』のメインコンテンツでは、この64卦の意味について、つらつらと語っています。
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■『易経』の弊害
三国志の人物を、ビジュアルで表すときに、初めは64卦で分類することを考えました。しかし、『真・三國無双4』ですら50人を越えるプレイ可能キャラがいる。 これから誰も付いて来れない史的探検をしようというのに、シンボルが64では、あまりに数が少ない。また、すでに完成された『易経』の解説が、(内容自体は整合性がなくて行き当たりばったりのくせに笑)、やたらとぼくの発想を縛る。
そこで、64の2乗、すなわち64卦を2つ横に並べることも考えましたが、漢代に同じことを試み、4096卦の解説を付けようとして発狂した人がいるらしい。さすがに手に負えないぞ、ということで、これも思いとどまった。
■『易経』アレンジ、鼎立卦
ついに思いついたのが、8卦の3乗。これなら512通りで、まだ処理可能な範疇。もし卦がかぶっても、「似た人物を見つけたよ」と開き直ればいい。コダワリは傷つかない。 たまたま『三国志』がテーマなんだから、魏呉蜀の国があった位置に卦を置いて、それで表してやろうじゃないか!と。
初めて読んだ市川宏先生の『三国志/知れば知るほど』には、天ノ時の魏、地ノ利の呉、人ノ和の蜀という単純化がなされている。 このステレオタイプに乗っかってやろう!と思った。
鼎立に並べる副次効果として、『易経』が64卦の上卦と下卦に呼応させて、小難しく詭弁をこねていた解釈を、リセットできた。自分独自の、3つの卦の呼応ルールを作ればいいのです。
そもそも、8卦は3爻で構成され、これが「天地人」を表すらしいのだが、『易経』ではこの考え方は活かされていないようです。
■鼎立卦の読み方
『易経』では、下から意味を辿る。これに着想を得ました。
左下の蜀(人卦)は、その人物が持って生まれたパーソナリティ。他人が口出すことではなく、本人ですらなかなか帰られない。 右下の呉(地卦)は、人付き合いの中での立ち位置。関係性構築のときに表れる、特性。 上段の魏(天卦)は、天下国家の視点から見たその人の役割であったり、後世評であったり。当事者には如何ともしがたい、天命みたいなものを指します。
『易経』に立ち返って学びつつ、卦の呼応や変爻(老陽・老陰)にまで、ルールを広げていく予定です。
080710
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