■お前が不敬だ
「揚州刺史の劉繇、会稽太守の王朗は、土地を治めていました。でも、ダラダラ議論ばかりしていて、戦闘に繰り出すこともなく、孫策に飲み込まれました。このままじゃ、我が国も同じ運命ですよ」
劉繇も王朗も負けちゃったのは事実なんだが、、
いちおうは皇帝を名乗っている劉禅と、刺史や太守を同列に論じてもいいのだろうかと、ぼくはびっくりした笑
彼らは献帝の命令でそこを治めていて、皇帝権力そのものが霧消したときに、そのまま現地に残っちゃっただけだ。割拠した群雄っぽくシミュレーションゲームで扱われるが、ローテーションで解任されるのを待っていただけだろう。華歆の帰朝しかり。
自ら「徐州を譲る」なんて言い出した陶謙とか(このおっさんに任命権はない)、わざわざ通行路を焼き払った劉焉とか、彼らには「群雄」の自覚があったんだろうけどね。
地上で唯一の存在である皇帝と、一地方官の末路を、照らし合わせて説いてる時点で、諸葛亮(もしくは真の筆者)の本音が見え隠れしちゃう。ただ外征の必要性を説くためにしても、やっていい比喩と、そうじゃない比喩があるだろう。
もしくは、あえて危機感を煽るために、禁忌すら犯して「劉禅は劉繇と同じだ」なんて言ったのかも知れないけどね。※浅い三国志ファンなら、「名前が似てるし、一緒でいいじゃん?」というレベルの誤差だ笑
■小学生のいいわけ
悪事を怒られると、「他の子もやってるよ」と言い始める子供が多い。確かに気持ちの面では、とても理解できるし、大人になっても時々そのままだ。でも、悪事そのものは悪なんだ。
「あの曹操ですら、張繍にやられ、袁紹に追い詰められ、袁尚につつかれ、袁譚に手こずり、夏侯淵を漢中で失いました。外征に危険はつき物です。曹操に比べるとバカな私の北伐は、危険がいっぱいで当然なのです。危険は、外征を思いとどまる理由にはなりません」
「曹操は昌覇に勝てず、孫権に4回も追い返され、王子服は叛乱を狙い、委任した夏侯淵は死んでしまった。曹操ですら失敗するんですから、私なんて、ミスっても仕方ないんですよ」
なぜ同じことをバラして言ったんだろう。事例がかぶって、バラすことにも成功してないし。
夏侯淵の話は、まだ後から1回出てきます。反覆は、アジるときの常套手段だから、意識して使ってるんだろね。曹操の失点のうち、唯一劉備がやったことだから、鼓舞の効果が強い。
渡辺氏は、引用する形で「3回も夏侯淵の話が出てくるのは、書くときか伝わるときに、混乱があったから?信憑性も落としてる」と書いているけど、ぼくはワザとだと思いますねー
「北伐の危険は、しょーがねーんだ」と言われても、だからどうするの?と聞き返したくなりますね。
反論を封じ込めるのは、開き直るとか、バカのふりをするとか、その辺りが有効なのは分かるけどね。他には「怒ってみせる」という手もありますが、ここでは使われていない笑
交渉術としては認めるけど、一国の丞相がこんな小手先テクで戦略を取り仕切っているとしたら、それは問題だよ。諸葛亮ファンの視点からは、是非ともこれが「偽作」であってほしいんだろうなあ。
■うわさの「喪趙雲」よりも
さらに諸葛亮の言葉は続きます。
「趙雲以下、諸将が死んでしまい、異民族を含む精鋭も、あと数年で3分の2が失われてしまうでしょう。これでは、魏に対抗できません」
これこそ笑いグサです。
趙雲が死んだ死んでないの議論は、もう飽きたので、放置で笑
この「数年で3分の2」というのが、面白い。渡辺氏は「蜀にはそんなに老病の兵しかいないのか、と疑問が生じる」と書いている。
そうじゃないよ!
「早く!早く!早く!」と諸葛亮が急かしているだけだ。営業マンが「この商品は、他からの引き合いも多いですよ」「今だけのキャンペーン価格で」「限定数量300で」「来月になると、この特典がなくなります」と、顧客の決断を急かすのと、まるで同じだ。
諸葛亮の性格のせいか、彼自身の健康問題なのか、兵というよりは将の質の逓減を心配しているのか、よく分からないけど。
良くも悪くも「桃園三兄弟の仲良しクラブ」でしかない国だから、劉関張の死から時間が経過するほど、求心力は低下するんだろうなあ。
■宝くじの発想
「領民も兵士もヘトヘトです。でも、攻めても守っても、民は兵を養うために疲れ、兵士は訓練で疲れます。どうせ同じなら、天下統一の可能性にかけてみた方がイイでしょう」
もう詐欺師の領域だ。
宝くじのCMが、こんな感じだと思う。「宝くじを買わないと、家計は苦しい。宝くじを買っても、家計は苦しいまま。どうせ苦しいなら、億万長者になれる可能性に賭けてみませんか」と。
一見、そんなもんかなあ?と思うものの、宝くじの購入費を損してるのですよ!1枚300円の紙切れって、実はけっこう高いよ?確率を上げるためと称して、連番で3000円分も購入しちゃって、外れても「夢を買ったんだ」なんて言って。
いやだねえ笑
下世話な話にしてしまったが、領民にとっては文字どおりの死活問題を、こんな詐欺師話法で丸め込んじゃいけないだろう。丞相なんだから。
■最後は精神論
「先帝は、長阪で逃げ切り、赤壁で勝ち、巴蜀を得て、夏侯淵を討ち、呉に裏切られて関羽を失い、夷陵で陸遜に破れ、曹丕の即位を許しました。
万事がこんな感じで、どうなるか分からんのです。私にできるのは、死ぬ気で頑張ることだけです。ことの成敗利鈍(成功と失敗、うまく出来るかどうか)は、私なぞに予測できません」
これで終わりですよ。ええええ?
「無責任に投げるな!」と怒鳴りたい笑
涙が溢れてきて、筆を置いた「前出師表」とはエラい違いで。もう国家の有事なので(有事を諸葛亮が作り出したので)、疑義を挟もうなら、ビンタを張られるような雰囲気で、読み上げられたんだろうね。
※もし本物であるなら。
■おわりに
諸葛亮の(頭脳明晰で神経質ゆえの)危機感が、こんな支離滅裂で軍国主義なドキュメントを生み出したのかも。それなら、「三国志」の物語としては面白いなあ。青い顔で、問答無用に腹を括っちゃった丞相の悲壮感が、よく伝わってくる。
それにしても、平和な日本で、生命を保証されたぼくが、ネット環境の前で「後出師表」を読ませてもらってると、流れ込んでくる空気の匂いのギャップがデカ過ぎました。080225