■三国志雑感>程普と韓当のいちご同盟
孫呉の武将が覚えられない。 キャラ立ちしてないから、区別が付かない。 ぼくは悩んでました。そりゃ、孫堅に従ってそうな武将の名前をあげて!と言われたら、何人かはあがる。でも彼らがどんな人物だったか聞かれても答えられない。   ■韓当と程普を取り上げたわけ 坂口和澄『真説三国志』小学館1997年の韓当の項が印象に残っていた。 韓当と程普は、孫氏を3代に渡って支えた武将だ。韓当は遼西郡令支県の人で、程普は右北平郡土垠県の人だ。坂口氏は二人の出身地に着目し、こう書いた。江東出身の将軍が多い孫氏軍団の中で異彩を放っている。程普と韓当の故郷は約40キロを隔てるだけである。『三国志』を主題に小説を書くならば、韓当と程普が、一旗上げようと南下し孫堅と巡りあったとすれば面白いかもしれない。 そう言われてしまっては、程普と韓当を無視しろという方が難しい。 幸いにも、二人とも真・三國無双で個人のビジュアルがない。「たくさんいる孫氏の武将たち」という括りでしかない。自分なりに色を付けるチャンスだよ。まあ際立ったエピソードがないから、ずっと凡将扱いという理由があるかも知れないけど。   食わず嫌いはよくない。韓当と程普は正史『三国志』に自分の伝が立っている。読んでみよう!きっとキャラが立ってくるに違いない。
  ■「韓当伝」を読んだ ちくま文庫で1ページ半。つまんねー笑! ○○に従って○○において○○を破り、○○に任じられた。それがずっと書いてあるだけ。孫呉の主要な合戦には高確率で参加してるから、功労者なのは分かる。しかし、何のアクセントもないよ。弓術馬術が巧みで孫堅に認められたらしいが、武将って大体の場合、そういうのは上手だよね笑 彼のキャラが見えそうなのは3箇所。 (1)将軍としての職務徹底 韓当は地方に出て軍の指揮に当ると、部将や士卒たちを励まして心を一つにして守りを固めた。中央から派遣された目付け役の意見に恭んで従い、法令を遵守した。孫権はそれに満足した。 (2)不遇の下働き 『呉書』にいう。韓当は励んで功績を立てたが、軍隊内で下働きの任に当たり、英傑達の配下に分属させられた。地味なので爵位を与えられなかった。孫堅時代を通じて、やっと別部司馬となれただけだった。 (3)致死軍と解煩軍 上記の特殊部隊1万を率いて、丹楊郡を平定した。致死軍って北方『三国志』『水滸伝』のオリジナルだと思っていたんですが、正史「韓当伝」に名前が。寡黙に仕事しながら、すんごい部隊を自家栽培していたのか笑   黙々と日陰の仕事をしてるんだね。陣頭をかけて目ぼしい戦果を飾る、ということはない。歯車の一として着実に仕事をするタイプだった、という感じですね。   ■「程普伝」を読んだ。 ちくま文庫で2ページ。韓当よりマシだけど、つまんねー笑! 風采が立派で将来への見通しが聞きき、人との応対も巧みであった。まあ伝が残るくらいの人物って、大抵はそう言われるよね。   韓当とのコンビで考えるなら、口下手だけど力持ちの韓当をそそのかして(誘い出して)二人で南下したという感じかな。程普のほうが年齢が上だから兄貴だ。立場的にも兄貴分だ。 全く話は違うけど、『踊る大捜査線』みたいな感じか。 盟友の2人は、世を正すために警察(孫堅軍)に飛び込んだ。韓当は言った「オレは現場で頑張るよ」。程普が言った「オレは東北大(辺境)出身だけど偉くなる。青島(韓当)が力を発揮できる環境を作るだ」とか。ああ警察ドラマ自体をちゃんと見たことないからよく分からん笑   程普の戦果はそれなりに華々しい。 黄巾を宛や鄧で討伐した。董卓を陽人で破った。多くの手傷を負った。孫策が祖郎に包囲された危機を救い出した。周瑜と左右の督となって、曹操を赤壁で打ち破った。 彼がキャラ立ちしそうなのは3箇所。 (1)周瑜との対立 これはよく知られた話。周瑜と程普がいがみ合って、合戦どころじゃないよ!と。 (2)最年長 真っ先に孫堅に仕えた武将で、程普は最年長。尊敬されて程公と呼ばれた。程普は気前よく他人に経済的援助をして、好んで士人たちと交わった。 (3)らい病で死んだ 反逆者数百名を殺すことになったとき、程普は自ら反逆者を火の中に投げ入れた。その日のうちにらい病の症状が表れて、百日あまりで死去した。   若いうちは派手に腕を鳴らし、重鎮として勢力を統制した。晩年は生来の勇猛さが顔を出して、年寄りの冷や水(じゃなくて火遊び)で死んだという感じかな。 主要な合戦に参加してるから、韓当と行動を共にしたことも多い。だけどさ、ドカーン!バリバリバリ!みたいな派手さがないだよね。
  ■『演義』マジック まだ韓当と程普がキャラ立ちしない。すがる思いで『三国演義』を見る。 いちいち読み返す気力がないので、渡辺精一『三國志人物事典』講談社1989年の力を借りる。『演義』での韓当と程普を見てみる。 実に素晴らしくキャラが立っている!『演義』の見せ場である、玉璽・孫堅の死・孫策の快進撃・赤壁・大都督の交代ショウに、上手に絡ませてある。 清代の章学誠は「演義は三割が虚構」と言った。まさにその通りで、いかにもありそうな、正史に矛盾しにくい範囲で絡ませてある。    ■韓当の大活躍 薙刀の使い手(※さっそく設定がある笑) 袁紹が伝国の玉璽を要求したので剣を抜いた(※貴重アイテムに関与してデビュー)。黄祖の背後に回って勝利した。孫堅の将旗が折れたので不吉を予言する(※アイテム絡みに続き、ミステリアスな印象)。 厳白虎の弟・厳輿と戦った(※倒した相手には固有名詞)。赤壁で文聘を圧倒(※上に同じ)。結婚して逃げた劉備を追った。 夷陵の前哨戦では大将を務めた(※陸遜を引き立てるために、大将に抜擢されちゃった)。陸遜の起用に文句を言った。劉備を捕えることを陸遜に止められた。陸遜に感服(※引き立て役として任務完了)。   ■程普の大活躍 鉄脊蛇矛の使い手(※どんな武器か知らんが、とても強そう) 華雄の副将・胡軫を倒した(※倒した相手に固有名詞が付いた)。袁術に食い物の交渉に行った。発見された玉璽の由来を雄弁に解説(※おまえは学者官僚だったんか、と初めて読んだとき突っ込んだ)。袁術への警戒を促す(※権力者への反抗は華)。 孫策を襲った刺客を切った(※仇取りで観客のガス抜き)。周瑜が曹仁に仕掛けた死んだ振り作戦に協力して泣く(オリジナルの計略にお付き合い)。合肥で孫権を張遼から救う。周瑜と程普との絡みが、呂蒙の評価を上げる出汁に使われた(メインストーリへの関与)。
  ■まとめ 『三国演義』ってすげえ! そうやって片付けてしまっては次に繋がらないので、さすがにそれでは終われない。 韓当と程普の伝をじっくり読み返してみた。二人の活躍を『演義』で見た。 『演義』のおかげで、孫呉での彼らの位置取りがイメージできた。ぼくなりに彼らのキャラを立たせるのに役立ちそうだ。※歴史学の論文を書くのが目的じゃないから、これもご愛嬌です笑   ■ぼくの韓当像と程普像 韓当と程普は北方で、いちご同盟(むかし国語の教科書でやったなあ)を結んだ。上に書いた、室井さんと青島の役割分担だ。 ※程普の方が年長だろうけど、黙殺。 ※いちご同盟とかダサいこと言わないで「同志の結義」とでも言えば、三国志っぽいか笑 でもいちご同盟のニュアンスは捨てがたい。これは、若者同士が勢い任せで立てちゃう誓いなんだ。理屈があんまり通ってないけど、本人たちは真剣なんだ。 大躍進する孫堅の下で、二人は同盟で決めた役割分担を着実にこなした。   しかし君主は次代へと移り、彼らに求められるものは変わってきた。二人は話し合い、新たにいちご同盟(改)を結んだ。話し合いのタイミングは、孫策との合流時でいいよね。 韓当も程普も、自分が前に出ることは止めた。若い君主が使いやすい、大駒を演じることに徹してやろう。これが(改)の内容。 ただし二人の本性は変わらぬままだ。 韓当は自分の手足となる、任務に忠実な部隊を鍛え上げることに、職人魂を見せた。程普は武将魂を発揮する機会を狙っていた。   韓当と程普の任地が近くて、死ぬ年が近ければ、最期に2人で戦をやって死に花を咲かせてほしかったなあ。『演義』がよくやる手だし。しかしかなり無理があった。資料と睨めっこして、泣く泣く却下。 韓当が死んだのは226年で、程普はおそらく215年に死んだ。程普は三つ巴の荊州にいた。周瑜の南郡太守を継ぎ、劉備と荊州二分したときには江夏太守になった。韓当は呉郡とか丹楊郡のあたりで鎮圧活動をしてた。遠すぎる。遠すぎるよー!   ■見せ場とオチ 最後にコンビで活躍するなら、赤壁後の荊州争奪戦だね。周瑜の顔を立てて後詰になる程普と、呂蒙を教育しながら南郡を攻める韓当。離れていながら、いちご同盟のことを互いに思い出していたんじゃないか。 艶やかな指揮官・美周郎をサポートするのが程普。兵卒上がりの愚直な呂蒙をサポートするのが韓当。この組み合わせもいい。 孫堅が死ななければ、もしかしたら程普と韓当が、周瑜と呂蒙の立ち位置で荊州を攻めていたかも。※妄想です。    程普の死後に、韓当がもう一回だけ煌く。 夷陵の戦いの後に、曹真が南郡を攻めた。韓当は城の東南を固めて守りきった。堅実な韓当は、勇猛な程普の霊を降ろして(違う話になってる)立派に戦い抜いた。曹真という大物が敵というのもいい。そうやって同盟はまっとうされたんだ。もう韓当、守り抜いて戦死しちゃえ笑 死に際、枕頭に息子を呼んで、いちご同盟の話をするのもいいね。   韓当の息子は韓綜という。不法を働く不良息子。 韓当が死ぬや否や、韓綜は、孫権の処罰が及ぶのを怖れた。韓当の棺を持って、私兵数千人と共に魏へ逃亡。国境をしばしば侵して住民を殺した。 孫権はめっちゃ怒ったという。でももっと怒りたかったのは、韓当とか程普だろ。こんなオチでいいのか笑 この無情さが『三国志』らしいよね!
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