■孫皓が退室するまで
孫皓と司馬炎が2人きり。この2人の会話は、歴史書にも登場するけど、オリジナルに考えてみます。
司馬炎は孫皓に2つ質問をした。皇帝のときどんな気持ちだったのか、降伏してからの気持ちはどうなのか。司馬炎は「同業者」として、孫皓と皇帝の話をしたい。しかし孫皓は答えないんだ。
「皇帝は天の意を理解する、唯一の人間です。天下万民の心を、当然のように知っているのが皇帝だと心得ています。なぜ一介の臣たる私に、そんなことを問われたか」
まあ、ご愛嬌ですよ。孫皓自身が、皇帝をやっていてストレスで発狂しちゃった人だ。皇帝の孤独としんどさは、十二分に理解しているはずなんだ。しかし司馬炎を甘えさせるわけにはいかない。
敗北者なりの、ちょっとした復讐?
自分は呉の皇帝として重圧に耐えた。晋の国土は、呉を含んでずっと広い。司馬炎が自分の数倍しんどいことを、きっと孫皓は知っているんだ。
深々と頭を下げて、退室する。
わざと司馬炎を、置いてきぼりにしてやった。
■司馬炎の独白
司馬炎の正面は、初めから誰も座っていない。司馬炎は身を乗り出して、そこの席に酒を注ぐんだ。そして一人で喋り始める。
彼の目の前には「天」が降りてきている。
この宴の本来の目的は、天と語り合うことだった。
皇帝を名乗る者が大陸に複数いては、天は降りてきてくれない。孫皓が降伏して、全土統一が成った。天と酒を飲むことが可能になった。パリ旅行に挑戦する権利を獲得した笑
天を祭ったことがある人物(及びその子孫)を集めて、天を降ろす儀式をやった。さながら、百物語だね笑
成功した。司馬炎には、天が見えていた。司馬炎がトランス状態だったのかも知れないし、本当に天が訪れていたのかも知れない。どっちとも解釈できる筆法を用いようかなあ笑
夜を徹して、司馬炎がずっと一人で話し込んでいる。どれだけ多くの人命が失われてきたか、ダイジェストで振り返ってもいいじゃん。さすがに、くどいかなあ。
夜明けの瞬間に、司馬炎は杯を取り落とした。彼の呼吸が止まるような喪失感、まなじりが裂けんばかりの刮目だけを余韻として、ぼくの『三国志』は終わる笑!
■成り行きで出てきた背景設定
三国時代に、数百万の人が殺しあった。百年の犠牲が払われた。
なんの目的で?
統一王朝の皇帝を、一人だけ誕生させるためだ。唯一の皇帝にだけ、天を祭る(天と対話する)権利が与えられる。皇帝は天に願いを伝えることだって出来る。真の皇帝を輩出すれば、天下は理想的に治まると、人々は信じていたんだ。
戦乱も病気も飢餓も、日々の小さな挫折すらもなくなるはず!
長い戦乱で、誰も泰平を知らない。上記のような設定の皇帝神話が、真実味を帯びていてもおかしくない。
兵法・法家・儒教・道教などどの知恵も、一人だけの皇帝を生み出すためのツールとして活用されていた。鼎立も禅譲も、一人の皇帝を生み出すための工夫だった。※逆効果ばっかりでしたが。
司馬炎もまた、皇帝という位への信望者だったんだ。
だが呉を滅ぼして天と対話し、皇帝にそんな力がないことを知った。もしくは、天なんて幻だと知ったのかも知れない。
これまでの戦乱の世は何だったんだ。この殺し合いに意味はなかったのか?という問いかけよね。司馬炎はそれにとっさに回答しかねて、杯を落としてしまったんだ。
■おわりに
ぼくの関心事は、殺し合いの過程で、一人一人がどうやって振舞ったのか。だから、長々と霊帝から筆を起こそうとしてる。もし結論(殺しあっても治まらず)だけが言いたいなら、『三国志』を書くのに挑戦する意味がまるでないよ!
今回のコラムで書いた出来事は、司馬炎という一人の人間の生き様を描いているだけかも。歴史はこうあるべきだとか、作品のテーマがこうなんだとか、そこまで決め付けてしまえるものじゃないと思えてきた。
ただし、天というキャラ?は確定しておきたいね。
司馬炎が向かい合うのは、曹節が洛陽から連れ出したものと類似してなくてはならない。曹節は、桓帝の死後に霊帝を迎えに行った宦官だ。傍系皇族としてボケッとしてた霊帝のところに、曹節が帝位を持ち込んだ。それがぼくの『三国志』のプロローグ(になる予定)。
やっぱりイントロとアウトロを対応させてこそ、完成度が高そうな物語になるじゃん!
さっきから言ってる「天」は、まるで『鋼の錬金術師』に出てくる「真理」と同じような位置づけになるんだと思う。こんなこんな、こんな感じのやつ!みたいな笑
『鋼鉄三国志』の「玉璽」も同じ匂いがするね。1回分の前半しか見なかったけど、人智を超越した危険なパワーみたいな感じだった。