■三国志キャラ伝>使い捨て!惨めな呉の老将、甘寧伝(4)
■甘寧の天下二分の計?
諸葛亮の天下三分に先立つものとして、周瑜や魯粛の戦略が引き合いに出される。ちょっと詳しい人が楽しめる本になると、甘寧が二分の計を進言したと書いてある。
「孫権さんに提案します。曹操は強いです。黄祖を討ち、劉表を討ち、劉璋を討って、対抗しましょう」と甘寧は伝の本文で言ってる。だがこれは、軍師や優れた都督の発言と同列にしてはいけない。
甘寧が言ってるのは、
「オレが下ってきた逆の段取りで、長江を攻め上りましょう。国家の大計っていうよりは、オレの復讐っすわ」
ということだ。それだけだと思う。過大評価は禁物だと思うわけですよ。
 
張昭が反論した。「孫呉はまだ不安定です。そんな大遠征したら、足元を掬われるのがオチだよ」と。これに対する甘寧の反論は秀逸。
合肥奇襲の戦績より、こっちの方が好きだ。
「孫権さんは、張昭さんに内政を任せてるんです。留守を守るべきなのはあなた。自信ないんすか?」おお!ノーベル賞ものだ。
心を打たれた孫権。杯を甘寧に差し出して言った。
「今年の軍事行動は、この酒のように全てあなたにお任せしよう。黄祖を確実に討ってこい。張昭のおじちゃんは無視っていいから」と。
黄祖は、孫権の父の仇だ。それの征伐を委任したんだから、すごいよ。
「甘寧伝」で、孫権は甘寧に特別待遇を与え、もとからの臣下と変わりなく扱った、とある。信頼してるね!
・・・
というのが表向きの話。ぼくは孫権の裏の顔が伺える。
孫権は、甘寧の足元を見ている。
ここで黄祖を討てなければ、甘寧は死ぬしかない。
黄祖に負ければ、裏切りを咎められて殺されるだろう。
黄祖から逃げ切っても、孫権に殺されるだろう。甘寧は張昭を退けて、全権を預かってしまった。これは孫権からの責任転嫁なんだ。君主権力の弱い孫権は、張昭に頭が上がらない。もし甘寧がミスったら、責任を背負わせて殺す。それで円満を手に入れる。そういう段取りで、投降してきた甘寧を値踏みしてるんだ。
甘寧には、もう逃げ場がない。長江を下ってきた人生は、ここで二度と失敗が出来ない正念場を迎えた。孫呉より下流には、海しかない。
 
前門の虎、後門の狼なんだ。
甘寧は孫権に与えられた酒を飲み干すと、焼き物でできた杯をバリバリと噛み砕いて、全て飲み込んでしまうんだ。プレッシャーで錯乱してるんだ。完璧に引き受けたぜ!という不良の気合を見せたんだ。歯茎に破片が刺さって、口から血を垂らしても気づいてない。※全て妄想
 
■捕縛された蘇飛
甘寧は黄祖を破った。蘇飛がセットで殺されそうになった。甘寧は孫権にお願いして、蘇飛だけは助けてもらった。『蒼天航路』の甘寧が「報恩報復は絶対」って言ってたけど、その精神なのかなあ。「悪たれ」の行動規範みたいなやつ。
それとも「オレは単なる流れ者じゃないんだ。恩を感じる人間なんだ」という必死のアピールかな。孫権の次に仕えるところはないから、宗旨替えしなくちゃ。「決して裏切らない男」として再デビューしたんだ。ひねくれた見方をし過ぎか笑

 ■外様の悲しさ
甘寧はもう宿将レベルのお爺ちゃんなのに、主戦場の際どい前線にばかり配置される。
孫権は、いくらでも理由をつけて甘寧を殺せるんだ。裏切りを繰り返してきた前歴から、謀反の嫌疑をかけることは簡単だ。誰かに挑発させて甘寧の癇癪球を爆発させ、それを口実に裁いてもいい。
凌統が孫権に「甘寧は親父のカタキだから殺したいです。いいですか」と何度も言っただろう。もし孫権が「甘寧は無能だからイラネ」と判断したら、甘寧は死ぬしかない。孫権の命令は、もはや絶対なんだ。
孫権に「いやいや凌統くん、甘寧は我が軍に必要なんだよ。我慢してね」と言わせるために、死地に立ち続けるっきゃない。
 
呂蒙くんが仲裁に入りたくなるほど有能で、作戦に不可欠な将であり続けないと、凌統に剣舞にかこつけて殺される!※呂蒙は、凌統と甘寧の剣舞競演の間に入ったと『呉書』にある。
苦労人は、他人に苦労をさせたがる。悪いクセだと思いますわ。呂蒙くんに気に入られるには、苦労するのが効果的だ。
  
甘寧の輝かしい(というか悲惨な)戦の数々。
赤壁戦後は、夷陵に突っ込んで孤立した。魯粛の下で、軍神関羽の牽制のために少数で出陣。皖城攻略では、自ら城壁を登って特攻した。濡須で曹操を奇襲して、数十の首級を斬った。合肥で孫権の盾になった。張遼怖ええ!
 
■甘寧の武勇伝?
甘寧は夷陵で曹仁に包囲された。長期間攻められて、城壁より高い櫓から、矢が雨のように注いだ。兵士は青ざめた。だが甘寧は楽しげに談笑し、いささかも怖れることはなかった。
曹操が濡須に侵攻したとき、甘寧は先鋒を仰せつかった。出陣前、配下の都督が床に突っ伏して、甘寧の銀椀を受け取らなかった。甘寧は怒鳴った。抜き身の刀を膝の上に置くと「私は覚悟している。どうしてお前だけが命を惜しむのだ」と叱った。
 
甘寧の肝っ玉の太さを示すエピソードに見えます。
でも、ことはそれほど単純じゃないと思う。甘寧は孫権に仕えているだけで、もういつ殺されてもおかしくないんだ。曹仁に射られようが、曹操に迎撃されようが、同じことなんだ。甘寧の悲壮さを、ぼくはこの2つの武勇伝から読み取ってしまうよ。
付き合わされる配下は、たまったもんじゃないけどね。

 次回、最終回。甘寧が呂蒙にいびられます。
悲劇のコック事件。お楽しみに。

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