■三国志キャラ伝>皇帝になるつもりのおじさん劉表伝(2)■献帝をめぐるスッタモンダ
劉表の目の上のコブは、献帝です。献帝が皇帝ヅラしてる限り、夢が叶わない。しかしこの献帝を利用して、有象無象がモゾモゾするんだな。
李カクと郭氾は長安に侵入すると、劉表に同盟を願い出た。192年6月頃だろう。劉表を、鎮南将軍・荊州牧・成武侯に任じて懐柔しようとした。彼らが官位を発行できるのは、献帝が手元にいるからだ。劉表は、位だけはありがたく頂いて笑、李カクたちを無視った。
荊州を治めるのでも、刺史と牧じゃ全然違うから、そこはもらっとく。節(まさかり・皇帝権力を代行して反逆者を殺す武器)も、もらっといた。もし劉表が即位したら、どっちもゴミになる予定だけど。
袁紹は、袁術を圧倒した。
袁紹の下には、反則級に強い将軍がいた。曹操だ。こいつのおかげで、袁術勢力は弱った。戦勝を繰り返して、曹操は実力を付けていった。
■曹操のいたずら
献帝が長安を脱出して、洛陽に戻ってきた。それを、曹操がパクった。生意気にも、袁紹に謀反しようとしているらしい。後ろ盾のない曹操は、袁紹への対抗手段として、献帝を持ち出した。
劉表は袁紹の盟友だ。曹操を認めない。曹操が、献帝を使って自身を権威付けしようとするなら、尚更認められない。劉表は献帝に貢物を献上したが、そんなのは形だけ。後ろを向いて、舌を出してる。
治中の鄧羲が、劉表を諌めた。「袁紹と同盟を結んでる場合じゃないですよ。成長株の曹操といい関係になっときましょう」。
『漢晋春秋』は劉表の反論を載せている。「鄧羲の馬鹿。内(献帝)には貢物をちゃんとして、外には盟主(袁紹)を裏切らず。両方の顔を立ててこそ、筋道の通った天下の道義だ」と。鄧羲はスネて辞職し、二度の劉表に仕えなかった。
ぼくの推測ですが、曹操の献帝擁立を、劉表は喜んだと思う。袁紹がそのうち、曹操に制裁を加えるはずだ。盟主の権限を以ってすれば、容易だ。そうしたら、曹操もろとも献帝も片付くはずだ。
曹操が片付くまでは、どっち付かずの振りをしておけばいい。それが優柔不断と世間に映っても、誤解はすぐに解けるよ。鄧羲は、余計なこと言わなくていいの!
すでに袁術勢力は、虫の息だ。皮肉にも曹操のおかげなんだけどね。献帝を退位させたら、敵なし。晴れてオレが皇帝!祈願成就。
■荊州支配の充実
張済が軍勢を率いて、領内に侵入した。
張済は董卓の残党の一味だ。張済は穣城を攻撃した。穣城は迎撃し、張済は流れ矢で死んだ。官吏たちが劉表に祝賀を述べた。しかし劉表はキレた。「張済は困窮して流れてきたのに、礼を尽くしてお出迎えしなかったから、戦闘する羽目になった。私の本意じゃない。弔辞は受け取るが、祝辞は断る」。そう言って、張済の軍を迎え入れた。
劉表の態度は何なんだ?
穣城の守将がせっかく頑張ったのに、報われないよ!
劉表は劉秀(後漢初代・光武帝)になぞらえたんじゃないか。※妄想。
すでに彼は、皇帝気取りなわけです。劉秀とは共通の祖先を持つ。前漢の景帝から分かれている。劉秀も傍系の劉氏で、そこから伸し上がった。荊州北部を初めの主戦地にした。有力豪族の協力体制を作って、王朝を築いた。ああ、どんどんシンクロしていく!※ぼくの妄想。
張済は董卓の残党とはいえ、もう献帝を頂いていない。劉表即位の弊害にはならない。軍事に秀でた一団、くらいの位置づけ。だったら寛大に迎えちゃおう。英雄を受け容れる準備があるよ、という気風の良さを示した方が得だ。
張済の軍は、甥の張繍が引き継いだ。張繍は、2度までも曹操を追い返した。傭兵みたいな感じで、養っといて大成功じゃないか。
この時期に劉表は、荊州の南方を固めた。王朝を再建する基盤だもんね。長沙を攻め、零陵・桂陽を抑えた。北方の漢川も抑えた。「劉表伝」には「領地は数千里、武装兵は十万以上に及んだ」とある。
あとは袁紹待ちだよ。
『英雄記』に言う。荊州の境界には叛徒がいなくなった。劉表は学校を開設し、儒者を集めた。宋忠らに『五経章句』を編集させた。すべき戦争がなくなっちゃったから、文化事業に力を入れ始めた。儒教を国境とした漢王朝を立て直すという志があるもんね。もう一度言う。袁紹待ちだよ。
■官渡の哲学
袁術が死んだ。曹操と袁紹が官渡で対峙を始めた。
せっかく手なづけた張繍が、某士・賈詡にそそのかされて、曹操に降伏してしまった。ドアホ。
「劉表伝」にいう。袁紹は使者を送って、劉表に急援を要請した。劉表は承諾しながら、兵を出さなかった。ただし曹操にも味方せず、荊州で天下の形成が変化するのを観望していた(原文:観天下変)。
韓嵩と劉先が警告した「劉表殿に大事をなす気持ちがあるなら、彼らの疲弊につけ込むべきです。両方とも潰しちゃいましょう。もしくは、服従する相手を選んで下さい。このままでは、袁紹と曹操の両方から恨まれますよ。どっちが勝っても地獄ですよ。今なら、曹操に味方するのがお得です」。
劉表の荊州支配のトップオブ功労者・蒯越も同意見だった。
アホ抜かすんじゃないよ!と劉表は叫びたかったに違いない。
■劉表の心の声 ※ぼくの創作
韓嵩と劉先なんて、所詮が荊州の在地勢力だ。荊州の帰趨にしか、頭がいかないんだ。ガッカリだよ。オレにとって荊州は、皇帝になるための地盤に過ぎないの。たくさん利用させてもらったけど、志を同じくしたわけじゃないんだ。そこんとこ、弁えてもらいたいね!
オレと袁紹には、お前たちの思慮が及ばない約束があるんだ。
官渡が天下分け目の戦なんて、ジョークだろ?
これは袁紹の私闘なんだ。部下を制御しそこねた袁紹が、ドジを踏んだ。その始末に手こずっているだけ。オレが手を貸す義理はないよ。
オレはオレの役割を、自分できっちりこなしたよ。荊州征圧に、袁紹の手を借りたか?借りなかったよね。袁術を南陽から追い出したのも(解釈によっては)オレの実力だったんだ。今では文化活動までしちゃってるんだぜ。袁紹も、自分で何とかしな。待ってるからさ。
あんたの仕事は、中原の第一勢力になってオレを皇帝として迎えること。あの晩スカイプで喋ったこと、忘れてないよね。
でも、怖い蒯越殿がどうしてもって言うなら、曹操の実力を見極めてくるのも、悪くないかもね。韓嵩にお遣いをさせてみよう。これで曹操が実際にチンケなら、都合がいい。オレの判断の正しさが補強される。
荊州の在地勢力とは、まだ対立するわけにもいかない。適度なガス抜きも必要だ。政治って難しいなあ、はあ。
※この思考過程を「劉表伝」では「狐疑逡巡した」とのみ書いてある。
ここに書いたのはぼくの想像だけど、何か彼なりの思惑があったはずだ。それを「狐疑逡巡」で片付けられては、失礼しちゃう話だ。
次回は「劉表伝」ハイライト。韓嵩め!裏切ったな事件です。
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