■本稿の目的
曹叡の生き様を明らかにすること。いつも通り、結論から行きましょう。
曹叡は統一王朝の皇帝と自己規定していた。
無理してそう振舞ったのではない。本当にそう信じた。
事実、そうだった。
三国時代という用語で語られる時期ですが、曹叡にとってはその呼び名はジョークです。漢に代わった魏が、中国を統一しているんです。父の曹丕が劉協から禅譲を受けてた時点で、戦乱の世は終わったんです。戦に決着が付いたんです。
ご存知のように、曹叡の時代にも蜀と呉がある。でも両者は、地方のちっぽけな反乱勢力だ。一時的に割拠しているけど、機を見て叩き潰せばよし、という感覚。漢代にだって、辺境で反乱はありました。でもそのたび「漢が中断した」なんて歴史的評価はしない。それと同じだ。
折りしも蜀は、諸葛亮の北伐×5の時期です。司馬懿のカゲで見えませんが、諸葛亮の北伐を5回とも受け止めたのは曹叡です。
『演義』は諸葛亮目線で書かれるから、さも中原奪還キャンペーンが中国で張られていたような印象を受ける。呉だって、諸葛亮と呼応して中原を取りに行ってるように見える。でも実際はそうじゃない。魏が、残存したシラミをプチプチと潰してる時代なんだ。
孫権は北伐に、いまいち消極的に見える。「諸葛亮との同盟を軽視して、自分の都合で動いた。無礼で信頼できない奴だ」と評価される。それは間違いだ。魏という統一王朝に攻め滅ぼされないように、自己主張してただけだ。「実は呉が本気出したら怖いねんで」という魏へのメッセージを送っているだけなんだ。視線の先には魏しかないんだ。諸葛亮はおまけなんだ。
■曹叡の父親
各論者が言ってることなので、陳寿の記述を根拠にした考察はしない。そんなものはwikiで読める時代だ。
どういう話か手短に言う。曹叡の父親は曹丕ではなく、袁煕かも知れない。なぜなら、曹丕が甄氏を鄴で拉致る前に、曹叡(と後に呼ばれることになる胎児)を妊娠していた可能性があるからだ。
07年の04月にこの文章を書いてます。ちょっと前かな。女性が再婚するまでには、法律上ブランクをどれくらい設けるべきか、という議論をしてました。ちょうどあれです。
袁煕は、曹操の最大の敵・袁紹の次男。曹操が血を流して建てた王朝を、敗北者の袁氏が継ぐ。痛快な構図じゃないか。やばいよ!
ただし、前夫の袁煕は、際どい時期に鄴に不在でした。だから曹丕の子でいいじゃん?という話もある。あるものの、この問題は、学問的には結論が出ないことが証明されている。想像力で補うことが許される領域だ。
ぼくなりに『三国志』を自由に描くのだ。
■ぼくの描く誕生ストーリー
曹叡の父親は曹丕だ。そこは面白くしない笑
ただし、曹丕と甄氏があんまり円満じゃない「交際」をする。
甄氏が誘導する笑 曹丕が辱めを受ける。
曹叡は曹丕の嫡男になってるから、初めての子作りだという設定にしても不自然じゃないよね。曹操から受けた英才教育?のおかげで、曹丕には「教養」があった。しかし節操なく子供を作ってたら、後継者争いに不利に働く。だから楽しむだけで、慎んでいたんだ。
経験が比較的、少なめだった。
華北に鳴り響く美女+相手が5歳上とはいえ、あくまで戦利品として手に入れてきた女だ。プライドの高い曹丕なら、優越感たっぷりに子作りをしたかった。でも甄氏が心理的に上位に立ち続けた笑 それとなく、袁煕の存在を仄めかす。若い曹丕は、へそを曲げてしまった。
甄氏は、曹丕の愛情をシャットアウトした。乱世に弄ばれた運命への反発だ。曹丕に私怨はないものの、勝利者の若い息子を閨で手玉にとって、密かに復讐してたんじゃないかな。
曹操の祖父は宦官だ。曹操はコンプレックスを持っていたと言われる。あまりクローズアップされないが、曹丕にも同じコンプレックスがあっても不思議じゃない。名門の袁氏の正妻をやってた甄氏に(口に出さなくても)侮辱を受け続ければ、気分が滅入る。殺したくもなる。かも笑
■甄氏の悪戯
甄氏は幼い曹叡に、袁煕の話をしてたかも知れない。言葉の分からない曹叡に、主語を故意に省略して英雄談を聞かせたりね。
曹叡が十代半ばで、甄氏は死んだ。死を予感した甄氏は、十を越えて「教養」が付き始めた曹叡に囁くんだ。「これは女にしか分からないことだけどね。鄴が陥落する少し前に、実は」なんて、思わせぶりなことを言う。曹叡の頭の隅っこには、何とも言えない疑惑が残り続けた。周囲に聞きまわって検証することも出来ないしね。
過去の敗北者・袁氏兄弟の動向を、十歳ちょっとの子供が嗅ぎまわるのも変だ。曹丕の目が光ってそうだ。曹叡は自分の祖父が、曹操なのか袁紹なのかずっと分からなかったのかも。
DNA鑑定でもしたら、曹叡に袁紹の血が入っていないことは分かる。でもそんな技術はない。甄氏の悪戯によって、曹叡は「袁紹の孫」だとも思っていただろう。
曹丕すら、閨で主導権を取られてしまったから、疑心暗鬼になっているんだ。もしかしたらあいつは、袁煕の子供なんじゃないか、と疑っている。でも曹操は、曹叡を可愛がって手元に置いている。言い出せない。
子作りすらコントロールできないなんて、後継者候補として大失点だ。曹操は甄氏を欲しがってた。父との関係性を考えても、やはり本格的に検証をするわけにはいかない。曹操は地獄耳だし。
■曹叡自身の血統意識
「オレの血には、乱世の全てが溶かし込まれている」
漢末の混乱で影響力のあった者は、すべて曹叡の血に混じっている。
○漢の皇帝・劉氏=劉協から禅譲を受けた、曹丕の息子だ。
○清流派を自認した名門官僚=四世三公を輩出した袁氏の血を受けた。
○皇帝の側近として宦官=曹操の祖父は大長秋まで昇った曹騰だ。
○皇帝の母系である外戚=叔母が献帝に嫁いでいる。曹氏は外戚だ。
曹叡こそ、乱世の全てを一身に溶かし込んだ、全土統一するに相応しい皇帝なんだ。自分でそう思っていたに違いないんだ。
次回で曹叡の皇帝ぶりを褒めます!