『華陽国志』曰く、蜀の人々が四相、四英と言うときは、諸葛亮・蒋琬・費禕・董允を指した。
蒋琬が死に、費禕が郭循に殺されてしまって、その後の蜀は「外の姜維と内の黄皓の疎遠」に単純化していってしまいそうになるが、それは早計というもの。董允と陳祗を忘れてはいけないのです。
陳寿を読んでも、蜀の資料不足の感は拭えないのだが、活躍を見てみます。
■董允の父
董和、字は幼宰。南郡枝江県の人。先祖は巴郡江州の人。
一族を引き連れて(先祖に縁のある)益州に移住した。おそらく、曹操が南下を開始したときに、逃げたんだろうね。パックス劉表のときは逃れる理由がないのだから。
劉璋は、董和を成都令にした。
豪族の贅沢を尻目に、董和は倹約して、粗衣粗食を励行した。身分を越えた行為(綺麗な諸侯の衣服をまつ、贅沢な食事、派手すぎる冠婚葬祭)を、法で厳しく取り締まった。
県境の豪族は「厳しすぎます。董和を交代させて」と言ったので、巴東の属国都尉に転任になった。数千人が「交代させないで」と言ったので、2年の留任が決定された。
巴東の任期を終え、次に益州太守になっても、清潔さは変わらなかった。異民族も董和の誠意を慕って、手を貸した。
勝手なイメージですが「暖衣飽食」というのが、劉璋の治世のイメージ。
益州というミニミニ中華の中で、自己完結した人たち。でも董和は、グローバル基準で政治に臨んだんだね。曹操がどうやって力をつけているか、チェックしていたんだろう。
だからこそ、中原から劉備が流れてきたとき、対応できた。
■劉備時代
劉備が入ると董和は、掌軍中郎将になった。軍師中郎将(昇格して軍師将軍)諸葛亮とペアの仕事のようで、劉備の幕府の仕事を一緒によくやったらしい。
劉璋時代から、異民族とのお付き合いも継続し、劉備を助けた。
あんまり目立ってないけれど、劉備が益州に入ってから手に入れた、有能な文官だったんですね。法正が軍事に突っ走っているとき、諸葛亮は地道に政治をやって、つねに董和が補助に回っていたんだ。
諸葛亮が述懐しているように、董和は自分が分からないことは、よくよく検討して、周囲に聞いていたという。諸葛亮は董和より、劉備に前から仕えていて格上で、征服者側で、なおかつ賢いが、ずっと年下だ。
すでに占領地で人望のある董和に、勝手に突っ走られたら御しにくかっただろう。でも、いちいち諸葛亮に質問に来て、慎重にことを進める董和みたいな人材は、使いやすかっただろう。
7回も捕まえなくても笑、董和が依頼をすれば、異民族も協力するのだし。
頭の出来が劣るくせに、年長で自尊心ばかり強くて、仲間はずれにされることを極端に嫌う人は、非常に扱いが面倒くさい。少しでも気に入らないと、「非征服側の気持ちを考えたことがあるのか」なんて言い出すようでは、単なる足かせなんだ。
煙草と珈琲が混ざったような口臭をかけられては、うんざりする笑
しかし、非征服側との人的コネクションが有用なので、切り捨てるわけにもいかない。人手が欲しいときになので、(消極的ながらも)最低限の仕事はこなす人物を、追放するわけにもいかない。追放してしまえば、こちらの雑務が増えるからね。
そういう人物には、董和を見習ってほしいものだ、と思う笑
おそらく220年に死んだ。諸葛亮が「董和は職務を7年やって」と言っている。劉備が入蜀してから、7年目に死んだなら、計算上そうなる。
陳寿は、劉璋時代から20年以上も政治中枢に居たと書いてるから、190年代後半から出仕してたんだね。劉焉の死が194年だから、劉璋が始まってしばらくしてから仕えたと思われる。
死んだとき、家にはわずかな財産も蓄えていなかった。このあたりは、諸葛亮の死に様とシンクロしますね。
■諸葛亮のコメント
諸葛亮は丞相になったときに言った。
「役人をやるなら、人の意見を参考にし、主君の利益を上げよ。小さな不満や感情で、人を遠ざけてはいけない。異なる意見を聞けたら、破れ草履(自分の意見)と珠玉(正しい意見)を交換するようなものである。だが、それはなかなか難しい」
例え話にセンスを感じませんが、内容は正しいね笑
「徐庶は他人の意見が聞けたし、董和は不明点があれば相談に来て、何度も考え直した。徐庶の10分の1の謙虚さと、董和の態度を身に付けられたら、国家に忠誠を尽くして過失も減るだろうに」
また諸葛亮が言うには、
「崔州平と付き合い、私はしばしば欠点を指摘された。徐庶と付き合い、何度も教示を受けた。董和は遠慮なく言いたいことを言ってくれた。胡済と仕事をしたときも、諫言で間違いを正してくれた。私は暗愚で、全てを受け容れられなかったが、彼ら4人とはいつも気が合った。直言をためらわないって、いいですね」
※胡済は諸葛亮主簿。諸葛亮の死後は、中典軍として、諸軍を統率。漢中を指揮し、仮節・兗州刺史、右驃騎将軍。後日きっちり見てみたい、末期蜀を支えた人物です。
次は、董和の子、董允のお話です。