■三国志雑感>日本版『資治通鑑』で、黄巾の乱を読む。(2)
■お待ちかね、馬元義の車裂き 馬元義は、プロパーの黄巾とは描かれない。王朝転覆に黄巾を利用するため、張角の信頼を得た「策謀家」および「革命家」という設定。 中常侍の封ショや徐奉に内応を約束させた。黄巾と宦官を結びつけたという役回り。黄巾は「新しい倫理を展開し、官人に浸透する力をもっていた」とも書いてある。 馬元義の計画は、「荊州と楊州の信徒数万人を統率して、冀州魏郡の鄴県で挙兵することになっていた」と。袁紹と曹操の根拠地を活動ポイントに選んでる眼力は、さすがなんじゃん?   張角の弟子(「方」を仕切ってるような大物じゃなさそう)の唐周が密告したので、馬元義は殺された。 霊帝はやっとビビッて、宦官の周ヒンに宮中・民間を探索させ、黄巾の魔女狩りをやって「千余人が誅殺された」と。霊帝は「張角を逮捕させようとした」と。   ■184年2月決起 36万余人が黄巾を付けて、「州郡の本拠が急襲された」と。 3月、何進を大将軍にし、洛陽郊外の都亭に駐屯させた。八関都尉を設置して、洛陽を守らせた。 黄巾の乱は、まだ読者の頭の中に地図が描かれる前に読みきっちゃうからさ、地政学みたいなものがまるでイメージ出来ないんだ。 河北に張角がいて、洛陽は防御を固めた。董卓と袁紹を思い浮かべても、大間違いじゃない。   「呂強という良識を持った宦官」は、党錮の禁を霊帝に解かせた。 「張角と共謀したら、取り返しが付かなくなりますよ」と。 宮城谷さんは「党人ときかされると異常な反応をしめすのが霊帝である。黄巾の賊より党人のほうが恐ろしいのであろう。その党人が黄巾の賊と手を結ぶといわれて、恐怖の色をあらわにした」と、霊帝の状況認識のぶっ飛びぶりを表現してる。   皇甫嵩からも、党錮の禁を解こう(微妙にダジャレ)と言われ、大赦が下った。 「公卿に詔令をくだし、馬と弩をださせた。さらに歴代の将軍の子孫および吏民のなかで戦略に明るい者を推挙させて、公車司馬令のもとまでくるように命じた」と。軍人の子孫を引っ張ってくるくらいしか、洛陽が防衛戦を制する手立てがなかったというのはお笑いだよね。
  ■波才による洛陽陥落? 盧植に張角を打たせ、皇甫嵩と朱儁に頴川の黄巾を打たせることにした。朱儁は孫堅を指揮下に入れた。このとき孫堅は下邳に赴任してて、旅商人+淮水・泗水あたりで千余人を集めて合流した。 中常侍の趙忠らは、呂強を潰そうとした。謀反の言いがかりを付けられた呂強は「丈夫は国家に忠を尽くそうとするものであり、獄吏にかまっていられるか」と自殺した。宮城谷さんは、こういう人物が大好きなんだ。きっちりと描きたがるクセがあるよね。 さすが説教臭い、現代日本版『資治通鑑』ですよ。   3月、南陽郡太守が張曼成に攻め殺された。後に劉表が荊州を治めたら洛陽への北の接点としてクローズアップされる場所だね。さっそく王朝サイドがヤバいじゃん。   頴川に向かった軍は、義勇兵を集めて四万余人。朱儁と皇甫嵩は別の進路を取って、頴川に進んだ。宮城谷さんは直接は書いてないけど、頴川は名士の生産工場。言わば王朝を正す人々を輩出する土地。地理的にも政治的にも洛陽に近い。黄巾の根拠地がその頴川って、どうよ笑 4月、朱儁が波才に敗れた。朱儁は会稽郡出身で、交州刺史をやってる。先走ったことを言えば、孫呉政権の基盤となる土地を男一匹で(官吏として)まとめ上げた人物ですね。波才って強えー! 波才は長社の皇甫嵩を攻めた。長社から北に行くと管城で、管城を西進すると洛陽。「波才は、洛陽を攻める意図をもっていたとみてよい」とある。孫策の兄貴よりも、都攻めの実現性は上じゃないか。   汝南(袁氏の本拠地じゃん)で太守が殺され、幽州刺史(めっちゃ大物じゃん)と広陽太守(ごめんなさい場所がわからん)も殺された。 郎中の張釣が「宦官が農民を苛めるから、黄巾に同調するんすよ」という、もっともらしい理屈をつけた。ぼくが思うに、張釣の指摘は正しいんだが、とにかく敗戦に理由付けが必要だという心理も働いていると思う。 霊帝は張釣の上書を宦官たちに見せちゃって(この皇帝は、宮城谷さんの設定ではよくこうなる)可哀想に張釣は宦官に殺されちゃった。「いのちがけで霊帝を諌めようとした者が、むなしく死んでゆくたびに、この王朝は死に近づくのである」という一文を書きたくて仕方がないのだろう。 蔡邕は死んでないけど笑   洛陽を真剣に脅かしたという意味では、波才は関羽に匹敵するよね。まあ防衛側がナッテナイという見方もできるけれど、戦乱で腕を磨きに磨きあってレベルの高い戦略・戦術で応酬しても、ただ死者が増えるだけで賞賛されたもんじゃない。 波才がここで洛陽をとっちゃえば宝島社から『僕たちの好きな三国志』は出版されなかったよ笑
  次回は長社のチョイ役・曹操を見た後、黄巾平定まで進んじゃいます。
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