■曹操との決別
まず可能性として切り捨てたのは、曹操に従い続けること。
曹操は献帝を手放すはずがないし、万が一献帝に何かがあっても、献帝の子から新しい皇帝を立てるだろう。外様の劉備は「待遇のいい傭兵隊長」として使い続けられ、そのうち関羽と張飛を引き剥がされて、終わりなんだ。
覚醒した天下人はそんなものは許さないし、関羽と張飛に昨夜「オレ天下を獲るから」と宣言したばっかんだ。2人の義弟は「その言葉を待っていた」なんて泣くもんだから、裏切れない笑 ※ぼくの妄想
同時にあり得なくなったのが、董承と同盟すること。
献帝の基盤はあくまで、曹操なんだ。だから董承とつるんでも、曹操を失った劉協は流れるしかなく、袁紹に潰されて終わりだ。李傕から献帝を守ってきた董承は「元に戻った」かも知れないが、劉備には付き合う義理がない。イヤ過ぎる。
もし曹操亡き後に劉協が独立できても、ただ劉協朝廷内での地位向上が、劉備の人生のゴールになってしまう。成功しても劉備は、外戚である董承の下だ。命を失うリスクを犯して、そんな小さな餅を手に入れても、嬉しくも何ともない。イヤ過ぎる。
そんな劉備のところに、曹操から「酒を煮ようぜ」というメールが入った。
考えが煮詰まっていたところだし、英雄の手本である曹操から何かを得ようと思って、劉備は出て行く。
■曹操と劉備の会話
曹操は劉備から「董承と密かに通じてました。ごめんなさい」という言葉を聴くのが最初の目的。それも明言じゃなく、仄めかしで充分。
しかし曹操は、董承の話なんて、どうでもよくなる。だって、今までは兵の強弱とか、女の話しかしなかった劉備が、いきなり言葉の端々に「天とは」「国とは」なんて混ぜるんだ。
曹操は、劉備に興味を持って、からかい始めた。※妄想です。
曹操「どうだね、この許に来て、いい女はいたか」
劉備「それどころじゃねえ」
曹操「ほお、今週の左将軍は、何に関心をお持ちかな」
劉備「天の意だ」
曹操「ははは、天とは良かったな」
劉備「あんたは、天のことをどう思うか」
曹操「どうとも思わんよ」
劉備「はぐらかすんじゃねえよ」
曹操「すまん、すまん。ところで、天下の英雄とは誰かな」
■曹操の意地悪
この曹操の質問が、とてもいやらしい。誰の名前を挙げるかで、今の情勢をどう評価しているか暴露される。どういう価値で国を見ているか、バレてしまう。誰を支持しているかも、分かる。
それだけじゃない。
曹操は、急成長中の「英雄」の代表格だ。しかし、もし曹操の名前を出したら「へつらい」みたいだし、劉備が自分の名前を出したら「うぬぼれ」にもなる。曹操と劉備をここで英雄と評することは、うまくジョークに出来たら面白いが、失敗をすると悲惨なんだ。頭脳や感性レベルを試されているとも言える。
劉備の頭脳では、曹操もしくは劉備の名を出すのはリスキーで、恥をかかされそうなのが分かっているから、無難に群雄の名前をあげた。曹操は、意地悪く、片っ端から否定した。
劉備も馬鹿じゃないから、いま曹操が最も頭を悩まされているのは袁紹だと分かっている。だから、曹操の機嫌を損ねまいと、意図して袁紹の名前を出さなかった。
「袁術は?孫策は?張繍は?張魯は?劉表は?劉璋は?」と、ありったけの名前を挙げ切って、疲れてしまったんだね。
曹操は、劉備を困らせるのが面白いから「それだけか」と詰め寄る。あと残っているのは、袁紹と曹操と、あと劉備だけだ。
「左将軍も、存外にものを知らんのだな。智が暗いんだな。諸国での歴戦は、暇つぶしだったか」なんて、曹操がアルコールを嗅ぎながら挑発した。
もう後がない劉備は、薄い酒を飲み干した。
■曹操の話術
劉備「じゃあ、袁本初はどうだ。英雄つったら、もう他にいねえぞ」
曹操「上辺を飾るばかりで、中身がない」
劉備「本当にそうか。河北四州を統べて、強大だ」
曹操「手を広げているが、兵と税の徴発はザルだと聞いているが」
劉備「優れた武将、軍師がいる」
曹操「袁紹に、彼らを使いきれるとは思わん」
劉備「曹操さん、それはあんたの負け惜しみじゃねえのか?」
曹操「違うね」
劉備「ならば、あんたは誰が英雄だと言うんだ」
曹操「……キミとオレだ」
いやあ、さすが曹操だよね。自分と相手の名前を出すという趣向を、ここまで引っ張って、相手を逆上させた上で、間をたっぷり取ってから繰り出す。思考回路を電流が逆流した劉備は、箸を落として、雷が鳴り、無様な恰好をして縮こまるしかないんだよね。
劉備「いやあ、論語にも、聖人は突然の雷風には、居住まいを正したとあります。ここまで雷鳴がひどいものとはね」
なんて言ってるが、まるで応答になってない。内容が噛みあってないし、シャレにもなってない。曹操とは、頭の回転の速さがまるで違うんだ。
次回、劉備が秘密の盟約を持ち出します。