■三国志雑感>劉備が主役キャラになった日(4)
前回、曹操にやり込められた劉備。しかし、顔を潰したままで帰らせるほど、曹操は小さな人間じゃないんだ。   ■劉備の思いつき 曹操「お立ちあれ。男子がみっともない」 劉備「恥ずかしい限りだ(苦笑)」 曹操「しかし、左将軍の言うは、実はもっともなのだ」 劉備「何がだよ」 曹操「オレは、袁紹が恐ろしい。あいつは、英雄ならずとも大敵だ」 劉備「大敵には、英雄が1人で勝てるものなのか(鼻息)」 曹操「どういう意味か、教えてくれないか」   きっと曹操は、劉備の浅知恵なんてとっくに見抜いているんだろうね。それでもなお、劉備に喋らせてみようと思ってる。喋らせて、劉備自身に考えさせて、そのとおりに彼を動かそうとしている。 もし曹操が遮って、先回りに劉備のアイディアを代弁してしまえば「オレは詰まらんことを考えていた。忘れよう」となっておしまいだ。いざという局面で、他人に命じられた作戦と、自分で考えた(と思っている)作戦とでは、どっちを忠実に実行するか。答えは明白だ。   劉備「英雄は、並び立つものか?」 曹操「違うだろうな」 劉備「分かってるじゃねえか。一緒にいても、天命の空費なんだ」 曹操「確かに。さて、困ったな。袁術が北上を図っていると聞くだけに」 劉備「それだ。袁術は、袁紹との合流を狙ってるんだろう。オレが袁術を討って、袁紹がデカくなるのを防ぐ。あんたは、その隙に袁紹を討て。これで、天下は2人の英雄が治めるということにならないか」   このとき袁術は断末魔で、もう弱くて弱くて仕方がない。袁紹は絶頂期で、強くて仕方がない。「その隙に」倒せるような相手じゃないんだ。 劉備は、二袁が強かった時代の価値観を引きずりつつ、「袁術:袁紹=劉備:曹操」という構図を描いている。そして、目先の楽なほうだけを取ろうとしている。 残念だが、時流を見誤っているとしか言えない。 劉備自身は袁術を倒して、徐州にこもる。曹操と袁紹を戦わせる。「英雄」と「大敵」の抗争が泥沼化したら、漁夫の利をさらえると思っている。兵力も地勢も無視した、事実に基づかない、めちゃくちゃな戦略だ。。   曹操は袁紹との戦いに向けて(滑稽にも)英雄を覚醒させた劉備を、非雇用の傭兵隊として利用しようと思っている。ただの奴隷ですな笑 関羽と張飛は強いし、不都合になったら使い棄てればいい。使い倒すには、劉備の歪んだ時代認識を修正してやる必要がある。ある程度は「賢く」動いてもらわねばならない。   ■曹操の宿題 曹操「あの立派な髭の、武と義を両立させた豪傑は何と言ったかな」 劉備「関羽のことか」 曹操「そうだ、関羽。彼にかかれば、袁術は鎧袖一触だろう」 劉備「(笑顔)よく知ってるじゃねえか」 曹操「瞬時に勝負をつけた英雄は、何をするのか」 劉備「もう1人の英雄の、勝報を待つ(得意顔)」 曹操「キミにだけ打ち明けるが、オレの軍だけで袁紹には勝てない」 劉備「(優越感)だが、英雄は1つの軍内で、並び立たんぞ」 曹操「左将軍は、たいそう頭が切れるだろう。同じ軍内で天命を食らい合うことなく、2人の英雄が共にことを成す、うまい手はないだろうか」   ここで曹操は、酒をブクブクやりながら、雨が強くなってきたな、なんて言って、うろうろしてるんだ。劉備自身に答えを言わせるために。 けっきょく結論が出ずに、この会はお開きになった。
  ■郭嘉の狼狽 曹操は、劉備に朱霊と路招を率いさせ、徐州に出した。徐州牧は車冑がやっている。劉備たちのオフィシャルな役目は、袁術を止めること。   後から郭嘉が「劉備を外に出してはいけません」と諌めたが、曹操は「利用するために、わざと解き放ったんだ」と言った。 郭嘉は、曹操の思惑を全て看破して見せた。曹操は見破られて青くなりながらも、種明かしをした。「郭嘉にはバレたが、劉備にはバレないだろう」と強がったかも。   郭嘉は必死になって「たとえ劉備が曹操殿の術中にあったとしても、それでも外に出すことは危険なのです。彼は何をするか分からない」と言ったんだろう。 陳寿が「曹操が劉備を追わせた」と書いたのは、この後のことだと、ぼくは設定したい。曹操は郭嘉の狼狽を見て、劉備本人すら認識していない魅力や強運が怖くなったんだ。八百長じゃない。 そして、まあ結果論から導いた話だが、成都を取って鼎立しちゃうんだもんね。まあ、20年後の話だから、郭嘉の死後なんだけど。   ■袁術の退場 何のことはない、袁術は病死した。 劉備は曹操に出された宿題に、さっそく答えなければならなくなった。車冑を斬って、徐州を曹操から斬りとって、独立した。    対自分:曹操から独立し、天下を伺ってやろう。       ※多くの小説や『演義』と同じ。  対曹操:曹操に謀反したのはウソ。袁紹支持に見せかけ、実は静観。       ※『秘本三国志』と違い、劉備は野望のため徐州に残りたい。       ※袁紹は「曹操は徐州を失った」と油断 →曹操に貢献!        劉備は、これで曹操の宿題に答えたと思っている。         これを受けて曹操は「制御し損なった!」と思った。 曹操が劉備に期待したのは、袁紹軍に入り込んで、袁紹軍が判断を誤るように導くことだ。「同じ軍に2人の英雄は要らない」というところまで、話を付けたじゃないか!と呪った。 「これだから馬鹿はキライなんだ」と思ったが、郭嘉の前で、誤算を露呈するわけにはいかない。恥ずかしいから笑 曹操にしてみれば、切実に徐州を版図から失うわけにはいかないし、劉備を袁紹軍に送り込むという所期の作戦は、まだ諦めきれない。劉備の手を借りたいほどに、官渡では苦戦が予想されるから。袁紹は強いもん。
  次回、劉備が死に掛けます。曹操こわいね!
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