■なんとなく着想
同盟が成立するときの元ネタは、正史にもある。
陳寿の創った「先主伝」に、曹操が「天下の英雄はオレとキミだ。袁紹はものの数にも入らない」と言ったと書いてある。
『演義』では酒を煮てアルコールを飛ばす非常に有名な場面だ。
「酒を煮て英雄を論ず」が本来だが、酒を煮たら、酔えなくて、楽しくないんじゃないかと『演義』を見るたびに思うんです笑
このとき同盟が成ったと見る『秘本三国志』のアイディアは、面白いと思う。自分で三国志を描くときに、お知恵を拝借したい。しかし、そのままパクる気はない。
この同盟を、劉備と曹操の騙しあいにしてしまいたい。劉備も曹操も、最初から「あなたは天下人だ。手を取り合って天下を獲ろう」なんて秘密同盟を信じちゃいない。
ただし劉備は、曹操が騙されたと勘違いして動き回る。
曹操は、もっと上手だ。劉備が「この劉備様が同盟など信じるものか」「曹操の野郎は、本気にしているな。よし利用してやれ」と思っていることを、全て見抜いている。そして、その上でわざと騙された振りをして、劉備を利用する。躍らせる。
同盟を挟んだ騙しあいを見ていこうと思います。
■二流の劉備
曹操が呂布を捕えたとき、劉備は過去にひどい目に遭わされた因縁から、「呂布が丁建陽と董太師にしたことをお忘れですか」と曹操に言った。曹操は、仕方なく呂布を殺した。
このときは、ただ感情で動いているんだ。
いちおう「曹操が強くなりすぎると恐ろしい」という野生の勘も働いているが、呂布を殺した先のことなど見ていない。
詳しくは、このサイト内の「袁術が事件解決!怪奇190年代の謎」で書きました。劉備はザコキャラとして、うろうろしてる。関羽と張飛が強いので、たまたま死なずに残っていただけなんだ。
■天下人の覚醒
劉備は曹操の賓客として、許で過ごした。そのとき、董承に言い寄られて、英雄が覚醒した。これまでは、流浪の傭兵隊長という自己認識しかなく、実際にそうだったんだが、ここで初めて「天下」を意識した。
今までの戦いで「曹操が強い」と知り、何となく「曹操は、かつての盟主・袁紹を凌ごうとしている」ということを、知っていた。その強さの根拠が何だか分かっていなかったから、対抗するなんて考えもしなかった。
許で、漢帝の存在に行き当たった。
皇帝への態度は、そのままリーダーのアイデンティティになる。自ら皇帝を称した袁術、劉協に代わる皇帝を立てようとしている袁紹。この2人は、董卓が作った「関中の天子」と対抗して、「山東の天子」を作ることを綱領としていた。
これに対抗するため、山東の勢力の一員として反則だが、曹操は「関中の天子」を取り込んだ。これが、曹操自立の理由であり、求心力だ。
いま劉備は董承に言い寄られ、曹操勢力の動力源を知り、かつ動力源が軋んでいることまで知った。劉協の周りは、一枚岩ではない。すると、オレにも何か出来るんじゃないのか?という気になってきた。
今さら劉姓であることに気づいたので笑、光武帝のように新王朝を作ってもいいし、劉虞の代わりに袁紹に擁立されてもいい。もしくは、有力な皇族として王になるという手もある。とにかく、このままダラダラしてる場合じゃないよ!と思った。
次回、劉備が天下を描きます。