■三国志雑感>三国志のラストシーン・司馬炎の百物語(2)
■メンバーを確認します。
幹事は司馬炎。ゲストは、曹奐・孫皓・劉恂・劉康です。パッと見ると、お前は誰やねん、というメンバーが混じっているけど、時の流れには逆らえないからね。劉氏の2人がお初にお目にかかります(ぼくが)。
彼らの祖父は、順に司馬懿・曹操・孫権・劉備・献帝なんだね。すごい。家督を継いだ代の数はバラバラだけど、世代は揃っているのか。英雄時代の孫たちだよ笑
■席順
晋が上座。魏と呉は、皇帝だった当人を招くから上座の両脇。孫皓は司馬炎にいちいち絡む。時計回りに、漢>魏>晋という禅譲の順番。呉と蜀は、セットで魏と対峙する位置。特に仇敵の蜀と魏は、真正面。蜀は漢の隣に座りたいけど、間に空席を挟む。退席は滅びた順にしてもらう。まあ献帝の孫とか、あんまり話題もないだろし笑。すなわち漢>蜀>魏>呉と、入り口の近くから帰る。「?」の位置には、手をつけていない料理が置いてある。
会話の内容を考えてみる。後日いくらでも改良するつもりですが。
司馬炎の意図としては、自分が天下を統一したことを祝わせたい。
しかし同時に、司馬炎は皆に励ましてもらいたい。全土を統一した久しぶりの皇帝だ。天をたった一人で祭ることへの不安がある。権力者の孤独を、紛らわしたいんだ。共感できる友だろうと信じて、彼らを招いたんだ。
だが、司馬炎が望むような会にはならない。
■劉康(後漢)の退室まで
司馬炎が最も期待しているのは、劉康(献帝の孫)だ。司馬氏と後漢とは敵対したことがない。仲良くなれそうだ。漢は400年も統一王朝だったから、心の拠り所になってもらおうと親しげに話すんだ。
しかし劉康は、無責任な傍観者の態度を取る。さんざんへりくだって、曹奐に無茶な振り方をするんだ。「私の祖父(献帝)はあなたの祖父(曹操)に万事を委ねておりました」とか言って。実際に、山陽公に過ぎない劉康に、帝王としての心得があるわきゃない。「私が知っている祖父(献帝)は、天のことを何も語りませんでした」てな感じで。
劉康が立ち上がった。それを劉恂(劉備の孫)が止めようとする。蜀漢は後漢を継いだ王朝だしね。しかし劉康が「あなたと私にどんな関係があろうか」と一蹴してしまう。
劉恂は「そうですね」と軽く納得してしまう。「私の祖父(劉備)は、あなたの祖父(献帝)に断りなく、漢中王と皇帝を名乗りました。祖父たちには信じるものがあったのでしょうが、私は知りません」と。
これは、成都で漢室復興を叫んでいた劉備を思い起こすと、泣いちゃいそうなセリフだなあ。諸葛亮が出師の表を読み上げる様子が、セピアにフラッシュバックするんだ。でもこうやって祖国にクールなのが、劉禅から受け継いだ処世術なんだ。劉恂の真意は分からないけど、仕方ないんだ。
劉康さんはシモテにハケる笑
■劉恂(蜀漢)の退室まで
劉恂は、劉康が去ったので、手持ち無沙汰になる。曹奐の名前が出っぱなしだから、劉恂に話題を振ってもらおうか。
劉恂「私の祖父(劉備)とあなたの祖父(曹操)は、許昌で酒を煮て英雄を談じました。天下を二分して争いました」
曹奐「そう聞いています。だが祖父(曹操)は天を祭ることはしなかった」
劉恂「なぜでしょうか」
曹奐「分かりません。誰よりも人間として才気に溢れた祖父(曹操)は、全てを見通したと聞いています。人間が天を祭るなど、どだい無理だと見抜いていたのかも知れません」
劉恂「不倶戴天の孫同士が、親しげに言葉を交わす。これは、祖父たちに率いられた数十万の兵の死を、冒涜したことにならないでしょうか。ちっぽけな私には、分かりかねます。畏れ多いので、失礼します。今日は招いてもらって感謝します」
孫皓がここで「まだ雷は鳴っておりませんが」とか皮肉なことを言うんだ。劉恂はそれに答えることなく、粛々と衣擦れの音をさせて去っていく。
■曹奐(曹魏)退室まで
座が白けてしまったので、司馬炎は曹奐に酒を注いでやる。曹奐は恐縮してしまう。司馬炎が曹奐に「暮らしに不自由はありませんか」なんて言うんだ。曹奐にとっては屈辱だよね。黙り込んでしまう。
曹奐は、司馬炎の父親の司馬昭に、けっこうイビられている。今日は皇帝の命令だから来たものの、気分はディープ・ブルーなんだ。司馬氏から受けたイジメを気に病んでいる。
曹奐のルックスは、15年で大きく変わったはずだ。気弱そうな青年皇帝は、中年太りで目が死んでるおじさんだ(妄想)。ワケが分からずに権力争いのダシにされて、心に傷を持った曹奐は、充実しない日々に甘んじてトラウマをごまかして生きてきた。
司馬炎は、過去の確執をコロッと忘れている。
この15年で司馬炎は、呉の征圧という偉業を為した。それ以外にも、政治に忙殺された。だから、過去のことをさっぱり水に流している。曹奐の風貌が変わったので、関係性はまるで白紙だ。
禅譲劇は司馬炎の中で美談の部類なんだ。曹奐のことを、思い出を共有した旧友と思い込んですらいるんだ。それくらい皇帝業がしんどいってのもあるだろうけど。
彼は曹奐に、無神経なことを言ってしまう。
「私の祖父(司馬懿)は、きみの祖父(曹操)に世話になった。今日の司馬氏があるのは、きみの祖父のおかげだ。英雄・曹操の話を聞きたい。曹家にのみ伝わっている武勇伝を、私に隠さず教えてくれ。治世の参考にしたい。私は英雄を尊敬している」とかね。
曹奐は無言で俯き、涙を落とす。肩を震わせて、這うように退室しちゃう。孫皓が「やーい!奐ちゃんを泣かしたんだ!」なんて囃し立てるのかな。孫皓は魏へのコンプレックスがある環境で育っただろう。呉は魏についに敵わなかった。そんな孫皓だから、曹奐の哀れな姿を見て痛快なんだ。
次回最終回、司馬炎の目的が明らかになる。
■トップ>三国志雑感>三国志のラストシーン・司馬炎の百物語(2) (3)へ