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- 第74集 献帝が宗廟でわび、仲達が禅譲を提起
ドラマ 「三国志」を借りてきて見てます。
漢魏革命について、『三国演義』をアレンジして、献帝を詳しく描いていた。おもしろいなあと思ったので、日本語吹き替え版のセリフをメモする。けっこう間違ってると思いますが、大筋はこんな感じでした。
許都 漢の宗廟
献帝 「ご先祖様、ご報告に参りました。曹操が死にました。諸悪の根源がとうとう失せたのです。されど私は、不孝者。叩頭の礼を迫られ、宗族に額づきました。大臣とて誰一人として異を唱えませぬ。ご先祖様、この劉協の無能さゆえ、大漢 四百年の基業は、くずれ落ちたのです。曹操も憎けれど、曹丕はそれに勝ります。曹丕は、いやしくも朕の詔を待たず、自ら王位をついだのです」
『三国演義』78回で、司馬孚と陳矯が勧めて、詔を待たずに曹丕が魏王になる。正史では、禅詔が先に発せられる。これも『三国演義』のアレンジだと気づく。侍臣 「お声が高うございます」
献帝 「うるさい。曹操が死んだ今になっても、まだ何も言えぬと申すか」
侍臣 「もう充分でございましょう。それよりが気がかりございます」
献帝 「何がだ」
侍臣 「曹操は憎んで然るべき国賊。されど最後には朝廷を興し、皇位を廃さず、我らの暮らし向きも安泰でございました。されど今や、魏王は曹丕でございます。果たして曹丕が、曹操 同様に陛下を敬いますでしょうか」
献帝 「朕の座を奪うとでも」
侍臣 「噂によると、百官は曹丕のために、魏王を尊ぶための倚子を用意し、即位 大礼の準備をしているとか。その倚子は、陛下の玉座よりも大きい。陛下、曹丕は父よりも腹黒く、悪辣なのです。侮りがたい相手ですぞ」
曹操と曹丕を比べて、曹丕を悪辣に描く。『三国演義』の傾向なんだろう。ちゃんとチェックしてない。読まねば。献帝 「ご先祖さま、お聞きですか。漢室は崩壊寸前。曹賊の粛正に、どうか力添えを」
鄴の魏王府
使者 「申し上げます。天子は斎場から、宗廟へ参られました」
曹丕 「何しに宗廟へ」
使者 「涙を流しながら祈り、それから先王を賊であると」
曹丕 「構わぬ。今までも散々、心で罵っていたはず」
使者 「さらに大漢 四百年の基業を、己が崩壊させたと」
曹丕 「ふっ。やつも馬鹿ではないようだな。見張りを続けよ。宮中のことは、逐一 報告するのだ」
使者 「御意」
許宮
文官 「詔を奉じて、世子 曹丕は、魏王の位をうく。建安二十五年を延康元年と改む。賈詡を太尉に、華歆を相国に、王朗を御史大夫に任じる。先王の諡を武王とし、鄴郡の高陵に葬り、霊廟を建て、とこしえに祭祀す」
漢臣 「万歳、万歳、万々歳」
鄴の魏王府
曹丕が、司馬懿がつくった孫権への返礼品のリストを見ている。曹丕が 「見劣りがする」という。
司馬懿 「その他に、孫権が恋い焦がれているものを与えては」
曹丕 「恋い焦がれる?そんなものがあるのか」
司馬懿 「呉王の座。いまや、わが君は魏王。劉備は漢中王を名乗っています。孫権の胸中はいかほどか。孫権を呉王に封じれば、孫権とひそかに通じ、劉備に対抗できましょう」
曹丕 「仲達よ。天子を除いて、それはできぬ」
司馬懿 「法律も儀礼も心得ております」
禅譲のきっかけを、司馬懿がつくる。『三国演義』では、孫権との外交は、禅譲のトリガーにならない。正史では、孫権の使者は、すでに曹丕が鄴城を出発したあとに到着する。つまり、このやりとりがあるなら、陣中でなければならない。いいけど。
このドラマでは、司馬懿がとてもオイシイ役どころをさらっていく。この回でも司馬懿で終わり、次の回でも司馬懿で終わり、献帝の最後の登場シーンも司馬懿が見届ける。曹丕 「漢帝を廃し、新しく朝廷を起こせとでも・・・」
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- 第75集 華歆が献帝に迫り、符宝郎が斬られる
鄴の魏王府
曹丕 「漢帝を廃し、新しく朝廷を起こせとでも・・・」
司馬懿 「四百年 続いた漢も、もはや名ばかりで、滅亡寸前。漢への絶望がつのる今こそ、天道を受け、民心に従うべき」
曹丕 「仲達、父王と私の策略・名声・人望を比べて、どう思う」
司馬懿 「名声や人望は、先の王に及びません」
曹丕 「ならば私の政治は。比較してみよ」
司馬懿 「先王は困難を乗り越え、偉業を成し遂げた主君であられます。その功績は脈々と語り継がれ、とても及びますまい」
曹丕 「漢帝を廃すことなど、父王でさえ、なさっておらぬ」
司馬懿 「先王に及ばぬからこそ、帝位に即くべきなのです」
曹丕 「解せぬな」
司馬懿 「先王には、その必要がありませんでした。無論、あれほどの才能・智略・恩恵・威光があれば、皇帝にもなれたが、そのおつもりはなかった。皇帝より秀で、皇帝を掌に乗せ、自在に操っておられた。目下の魏王とは、まるで逆です。魏王は位に即かれ、日も浅い。民の心も、落ち着いておりません。
曹仁・徐晃・張遼たち老将も、程昱・賈詡・王朗たち老臣も、先王が抜擢し、育てました。魏王には、さような実績もなく、恩恵も威光も、まだまだです。帝位につき、朝廷をあらため、誠心誠意 仕えてくれる文官・武将を抜擢し、はじめて威光も備わるというものです。どうかご決断を。帝位に即かれることを、魏王ご自身よりも、臣下たちが望んでいます」
曹丕 「話を聞いて、ようやく悟ったぞ。仲達、進めてくれ。そなたに頼む」
司馬懿 「いかに応じるべきか、分かっておられますか」
曹丕 「心得ておる。いちどめは辞退する。無論、にどめも。三辞の礼だ」
司馬懿 「賢明であられます」
司馬懿 邸
司馬昭 「父上、食事の支度が調いました」
司馬懿 「勘定しておる。しばし待て。私は魏王と商いをする。あるものを売るのだ」
司馬昭 「何をお売りになられます」
司馬懿 「漢室だ」
司馬昭 「帝位を、お勧めになったのですか」
司馬懿 「魏王は、とうに、そのおつもりだ。私は魏王が言いたくても言えなかったことを申したまで」
司馬昭 「それは良い。漢室はすでに有名無実。勲功を立てれば、魏王は取り立てて下さいます。建国後、父上は三公どころか、丞相にすら、なれるかもしれません」
司馬懿 「私は、けして丞相にはならぬ。大臣にすらなりたくない。功労は、他の者に譲ろう」
司馬昭 「なぜです?」
司馬懿 「せがれよ。おまえは何ゆえ、そう浅はかなのだ。司馬一族が、後世の者に憎まれてもよいのか?ん?」
司馬昭 「いえ」
司馬懿 「司馬一族は、長い年月、国の禄を食んで参った。わが一族は、百年も続く名門なのだ。ご先祖の功徳と名声を傷つけてはならぬ」
司馬昭 「おっしゃるとおりです。ならば、誰にその役割を任せます」
司馬懿 「華歆だ。功を立て、主君の恩に報いることを望んでおる」
『三国演義』で、華歆が活躍する。これすら、司馬懿の陰謀というか、計画だった。ドラマ 「三国志」では、司馬懿の役割が、とても大きい。献帝と司馬懿のための、禅代衆事である。
許都
華歆 「陛下、上奏のお許しを願います」
献帝 「よいぞ。申してみよ」
華歆 「陛下。臣下は皆な存じております。隆盛をきわめ、繁栄を誇った漢室も、四百年を経て衰退し、命数も尽きようとしております。魏王は父子 二代にわたり徳政を布き、万物を慈しみ、天地を照らして来られました。陛下。尭舜の道にならい、ここは天意と民意に従って、魏王に国家を譲られ、静閑をご享受なさるがよろしいかと。陛下、臣下はすでに協議を済ませておりますゆえ、ご承認下さるようお願い申し上げます」
献帝 「朕に退位せよと申すか」
華歆 「禅譲です。尭が舜に譲ったことは、賢明でした。文王が武王に譲ったことは、功徳の表れです。聖君ならずとも、聖君の道を歩まれたいと思いませんか」
献帝 「皆な、同じ思いか」
郡臣 「 「華歆殿の忠言をお聞き入れ下さい」」
献帝 「ふ、忠言だと。君主を滅ぼすことが、忠言だといえるのか」
華歆 「お分かりになりませぬか。天下が移り変わり、万物が一新されるのは、まこと自然の道理。暴君や暗君が阻める由はありません」
献帝 「親愛なる臣下よ。才徳に欠ける朕が、天下の君主の器でないことは自覚しておる。されど、高祖は蛇を切って挙兵し、生涯 戦った。秦を除いて、楚を滅ぼし、漢の天下を切り拓いたのは、わが祖先ぞ。そなたらは、代々 漢の禄を食み、恩恵に与ってきたであろうに。何ゆえ、かくも義に背く仕打ちができる。国を失えば朕は、あの世でご先祖さまに会わせる顔がない」
華歆が図讖を投げる。
華歆 「この図讖をたずさえて、ご先祖に会いに行かれよ。あの世でも、心静かでいられましょう」
老臣 「陛下、何とぞ天の意に、お従い下さい」
この老臣は、王朗だろうか。郡臣 「 「陛下、何とぞ天の意に、お従い下さい」」
献帝 「図讖など、まがい物。こんなものには従わぬぞ。朕は従わぬぞ」
老臣 「陛下。いにしえより天下は、栄枯盛衰が習いにて、興る者は滅ぶがつね。凋落せぬ者など、ございません。四百年を越え続いた漢室も、命数は尽き、いまや風前の灯火。かくなる上は、一刻も早く太尉なさるのが賢明かと。恐れながら、老臣の進言をお聞き入れ下さい。機を逸しては、異変が生じましょうぞ」
おどした!おどした!献帝 「禅譲となれば、ことは、きわめて重大。朕は、朕は、ご先祖さまにお伺いを立てるため、宗廟にゆく。決断はその後だ」
『三国演義』では、ただ内側に引っ込むだけ。行き先を宗廟にして、宗廟で嘆くシーンは、オリジナル。すごく効果的。郡臣の見る前を抜けて、退場する献帝。ふらつき、転倒する。
許都の宗廟
献帝 「ご先祖さま。賊臣や謀反人が、ご先祖さまの国を奪おうとしております。私が無能なばかりに、ご先祖さまに辱めを。面目次第もなく。もはや生きてはおられませぬ」
曹皇后 「陛下」
献帝 「出てゆけ。そこに立つでない。ご先祖さまは、曹家の者を見るのも、お嫌だ」
曹皇后 「陛下。たとえ姓は曹であっても、私は劉家の者です。皇后にして下さったのは、陛下であられます」
献帝 「さっさと出てゆけ!」
献帝が曹皇后を突き飛ばし、口から流血。
献帝 「は、、皇后、皇后。怪我はないか」
曹皇后 「皇后と呼んで下さいましたね」
献帝 「乱暴して悪かった。取り乱していたのだ、朕は。もう『朕』とはいえぬな」
正史では、退位した後も 「朕」と称せる。曹皇后 「陛下を苦しめて、悪いのは兄です。どうかお気になさらず、私を殴ることで陛下の気がすむのであれば、毎日でも殴られましょう」
曹休と曹洪が入ってくる。
曹洪 「陛下、何ゆえ、皇后に乱暴など」
献帝 「男は妻を殴る。皇后に手をあげてはならぬか」
これな故事なのか?故事なのか?曹洪 「他の妃なら、いざ知らず。皇后はなりません。お忘れではあるまいな。皇后は先王のご息女ですぞ」
献帝 「曹洪、曹休。なに用で参った」
二人の出現は、『三国演義』に準拠。曹洪 「陛下、皇后。お迎えにあがったのです」
曹皇后 「覚えておきなさい。私は陛下の皇后であり、陛下の臣民なのです。殴られても命を奪われても、陛下に道理があれば、已むなきことでしょう。そなたたちも、曹氏の子孫とはいえ、それにもまし、陛下の臣民。悪事を働いたとあらば、その場で命を奪われたとて、已むないのですよ」
曹洪 「けっこう。剣ならここにあります。私を斬るというのなら、へん!どうぞ抜かれるがよい」
曹皇后 「曹洪、なんと無礼な」
このセリフで、どっちが曹洪なのか分かるのだ。曹休 「皇后、我らは同じ曹氏の生まれなれど、こたびは私情を差し挟み、公務を怠るわけには参りません。陛下、行きましょう。文武百官が外で待っております。どうかお戻り下さい」
曹皇后 「曹洪、曹休。名声を轟かせた父王ですら、皇帝を奪わなかったのに。そなたらは、曹丕に加担し、不遜にも皇位を簒奪するのか。必ずや天罰が下りましょう」
曹休 「ふん!陛下、お戻りにならぬなら、力尽くでお連れすることになりますぞ」
曹皇后 「陛下、二人に構うことはありません。天子を脅かすなど、できるはずもないのです」
献帝 「天子は、操られる定め。追い詰められて、もはやどうにもならぬ」
許宮
華歆 「先祖に伺いを立てられ、お心は決まりましたか」
献帝 「そなたたちは、長年 漢の禄を食み、中には漢の功臣の子孫も、数多くいる。にも関わらず、かくも不忠を働き、胸が痛まぬのか」
華歆 「陛下。国家への忠誠心から、私どもは禅譲をお勧めしております。先の魏王は、新しい朝廷を起こされることが、切なる願いだったのです。無念にも崩御され、願いは叶いませんでした。目下の魏王は、承諾なさっておられぬが、私どもは、たとえ斬られようとも、帝位に即いて頂く所存です。陛下が禅譲なさらねば、宮廷に禍いが起こりましょう」
威厳がなく、何を言うでもなく、ヒマそうにしている曹丕が映る。献帝が皇帝としてダメであっても、なぜ曹丕に禅るべきなのか、よく分からない。そういう映像づくりでした。献帝 「朕を殺すのか」
華歆 「ふん、陛下の暗君ぶりは、天下に知られています。朝廷においても、そばに魏王がお控えでなければ、お命を奪いたい者は、数限りなくおるのですぞ」
献帝 「魏王、この事態を、そなたはどう思う」
曹丕が前進する。
曹丕 「私は、詔をお待ちします」 すぐに退く。
曹休 「従うか否かは、ただちに仰せあれ」
献帝 「ふはははは、漢室は四百年も続いたというに、いまや、口を聞いてくれる忠臣が一人もおらぬ。これもみな、朕の咎であろう。もうよい。たくさんだ。符宝郎はどこにいった」
祖弼 「ここにおります」 玉璽をささげる。
献帝 「あの者らに渡せん」
祖弼 「え、いいえ、皇帝の玉璽は、天子のものです。賊には渡しませぬ。たとえ首をはねられても、承伏できません」
曹休 「祖弼。そなた、死にたいのか」
祖弼 「あ?はん。春秋の史官 董狐は、義を貫かれた。私は、それに倣いたい。お前たち逆賊が、朝廷を簒奪したとて、歴史の真実は奪えぬ。後世に悪名を残し、万人の誹りを受ける。それがお前達の末路なのだ」
曹休 「ふん!」 祖弼を切り捨てる。
献帝 「立派だ。一介の符宝郎に過ぎぬが、そちら賊臣より、遥かに勝る」
曹休 「詔を。さもなくば、血を流すことになりますぞ」
郡臣 「 「詔を賜りたく存じます」」
献帝 「誰かこれへ。詔を」
許宮の廊下
曹丕が歩き、曹皇后と出会う。曹皇后が拝礼。
曹丕 「いけません。皇后がなさることではない。お辞め下さい」
曹皇后 「魏王、本当に私を皇后だと思っていますか。兄妹だと思っていますか」
曹丕 「もちろんです。私たちは実の兄妹。とこしえに変わりません」
曹皇后 「ならば、私の話を聞いてくれますか」
曹丕 「お話し下さい」
曹皇后 「魏王よ。そなたが王位を嗣いで、何日なりますか。天下に君臨したいのでしょう。今は亡き父王に呪われるとは思いませんか。恐くはないのですか」
曹丕 「恐くはないか? 呪うどころか、父王は、天で歓んでおられましょう。恐れることなどありません」
曹皇后 「なれば、天下の臣民は」
曹丕 「臣民を恐れるですと。ははは。民なら、衣食住が足りればよい。功労者には褒賞を、罪人には罪を与えさえすれば、誰もが私を聖君と称えましょう」
曹皇后 「聖君ですか。曹丕よ、そなたは、何という恥知らずなのです」
曹丕 「恥知らずですと。いったい私のどこが。とんでもない言いがかりだ。私は偉業をなしたのです。この際、ひとつ忠告しましょう。皇后は曹氏に生を受けた。体には曹家の血が流れているのです。父王は、あなたを皇后の座に座らせた。ご自身に、その理由がお分かりですか。父王は、何としても天子を、曹家の婿にしたかったのです。曹家の先祖を裏切ることあれば、父尾はあの世から、あなたを呪いましょうぞ。どうぞ宮殿へ」
曹皇后 「曹丕よ。そなたは本当に漢を廃し、建国するつもりなのか」
曹丕 「ともあれ私は、天意に従います」
曹皇后 「そうですか(泣いて)分かりました・・・。ならば、ともに死ぬまでです」
曹皇后が曹丕の背中を刺す。鎧に弾かれる。侍者たちが、曹皇后を取り押さえる。
曹丕 「手を放せ。この鎧は父王の形見だ。天に逆らうことはやめて、宮殿に戻られよ。請け負いましょう、あなたは生涯、富貴の身ですぞ」
居宮 内宮
献帝の声 「朕 位に在ること、三十二年。しばしば天下の動乱に遭うも、幸いにも祖宗の御魂のご加護により、危うくもまた存する。しかるに今、仰ぎて天象を見、俯して民心を察するに、漢室の命数、已に終わり、五行の運は曹氏にあり。ここを以て先王はすでに威武の功を立て、今王もまた明徳を光輝かせ、その定めに応ず・・・」
この詔が魏王府に届けられ、曹丕の前で開封され、それを華歆が読み上げる。という場面の転換がある。
魏王府
華歆の声 「天命は明らか。まことに知るべきなり。それ大道の行わるるや、天下を綱となす。唐尭はその子を以て私せずして、その名を無窮に伝う。朕ひそかに、それを慕う。いま尭の法を追って、位を丞相の魏王に禅る。王、それを辞することなかれ」
『三国演義』のままの書き下しなのだが。漢字のチェックまで、してません。曹丕 「華歆」
華歆 「はっ」
曹丕 「その詔の文面を、どう思う」
華歆 「言葉は丁寧にございます」
曹丕 「丁寧というより、むしろ悲哀を感じさせるぞ。まるで私が、刀を突きつけて、禅譲をさせてるかのようだ」
オリジナルの解釈、セリフ。おもしろい。華歆 「魏王のお返事は」
曹丕 「辞退する。上奏文は、そなたが、したためよ。慎んで辞退し、小人との誹りを断つのだ」
華歆 「御意」
許宮
華歆 「魏王が、ここに辞退のご意思を上奏してこられました」
献帝が上奏を開く。
献帝 「魏王が、そうも謙虚では、朕はどうしようもない」
華歆 「陛下、この詔をしたためたのは誰です」
文官 「私でございます」
華歆 「これでは、魏王には徳がないと誤解されかねぬ。このような文面は、なにか魂胆あってのことか。引きずり出し、首を跳ねよ」
文官 「陛下、陛下、お助けください。陛下!」
正史では、衛覬が詔書をつくる。魏側の人間が、漢官に移って、代筆する。このように華歆に斬られるはずがない。華歆 「いま一度、詔を」
献帝 「わかった。文面を改めよう。絹をもて」
侍官 「はい」
献帝 「華歆よ、頼みがある。次はそなたが、したためてくれぬか」
華歆 「詔をしたためるなどは、甚だ分を弁えぬことです」
華歆にはそんな教養がないw 責任も取れない。曹丕が、第一次禅詔を、正史にも依らず、『三国演義』にも依らず、自分への批難だと受けとってしまった。だから起草者を殺したり、誰が書くかでモメたり。おもしろくなったが、あまり設定を複雑にすると、ついてゆくのが大変。献帝 「朕 自ら、したためよと申すのか」
華歆 「はい。そうなされば、天子の誠意が示されましょう」
献帝が机につき、手許を映す。
「禅、位、…、魏、王」
献帝 「終わった。これでよい」
華歆 「それでは、玉璽の押印を。然る後、、朝廷にお出ましになり、陛下 自ら、禅譲の詔を魏王にお授けなさいませ」
献帝が玉璽をおす。
許宮の朝廷
文官 「皇帝陛下の、おなり」
献帝 「魏王は、どこにおる」
華歆 「参内の詔がないため、魏王は宮殿の外でお待ちです」
献帝 「魏王を参内させるのだ」
魏王は謙譲するどころか、その場にも入る権利がないと、うそぶいている。曹丕のウザさがよく伝わる話。これも『三国演義』にはない。華歆 「陛下のご命令だ。参内なさるよう、魏王に」
侍臣 「詔により、魏王 参内す」
曹丕が入ってくる。
曹丕 「陛下」
献帝 「朕は乱世に遭い、天下は三分され、戦乱はいまだ息まず。朕は魏王の恩徳を被り、漢室を嗣ぐこととなった。然るに、仰ぎて天象を見、俯して民心を察するに、漢の命数は已に尽き、天意も民心も、魏王に集まる。依りて朕は天命を受け、民心に遵い、先賢の尭の則に倣い、魏王に帝位を禅譲す」曹丕がいやがった禅詔と、ほぼ内容が同じじゃん。『三国演義』では、一回目は『後漢紀』、二回目は『献帝伝』乙卯(十三日)の第一次禅詔から引いてくる。
ドラマの吹き替え版では、書き下し文を、もう1つ作ることなく、『後漢紀』に出典のあるものを使い回してしまった。これじゃあ、献帝が斬られちゃう。
献帝が曹丕に向けた皮肉、という見方もできるだろうが、そういう感情描写はない。単純にミスと見なして良いのだろう。魏王 「皇帝陛下、徳の薄いこの私が、帝位に就くわけには参りませぬ。天子の位は、他の賢人にお譲り下さい。これからも私は、命を賭け、陛下に忠誠を尽くします」
献帝は詔を丸める。
献帝 「朕は、再び禅譲の詔を下したのに、魏王はまたも受けようとしない。朕には、もう手立てがない」
華歆 「陛下。天子より禅譲を受けるものは、三たび辞退するのが礼儀なのです。主上の徳の表われが、お分かりになられませんか」
種明かしをしちゃう華歆。粗忽者。これじゃあ、曹丕が恥ずかしいじゃないか。献帝 「何を求めている」
華歆 「三たび詔をお出しになって、天子の誠意をお示し下さい」
献帝が詔を投げ捨てる。
献帝 「なんと、三たびにいたるまで、朕を侮辱しようと申すのか」
せっかく自分で書いたのに、ボツられたら、献帝は、そりゃ怒る。でも、一度目と同じ内容しか書かなかったのだから、ボツられても仕方ないよ。
許都 内宮
曹皇后 「お帰りなさいませ。陛下、さぞや辛い思いをされたのですね」
献帝が剣を手に取り、抜く。
曹皇后 「は、陛下。どうかお辞め下さい。お願いでございます」
献帝 「皇后よ、死は恐れぬが、やはり痛みは味わいたくない。それに生ける屍の朕に、ご先祖の剣は似合わぬだろう」
献帝が剣を納める。
曹皇后 「陛下、帝位をお譲り下さいませ。私は一生、陛下にお仕えいたします。いつまでもおそばに」
外から人がやってくる。
侍臣 「司馬懿どの、どうぞ」
司馬懿 「司馬懿、皇帝陛下に拝謁致します」
司馬懿がひれふす。
献帝 「司馬懿よ、もはや朕にひれ伏す者などおらぬ。ひれ伏すには及ばぬ」
司馬懿 「私は漢の臣下です。陛下が天子であられる限り、私は君臣の道を守ります」
また、なんだか狡い言い方をする。献帝 「君臣の道か。覚えておる者が、残っていたとはな。おもてを上げよ」
司馬懿 「仰せの通りに」
献帝 「こんな遅くに、なに用だ」
司馬懿 「華歆が、陛下の詔を受け、城外に受禅台を築いております」
献帝 「詔だと」
司馬懿 「陛下が下されました。華歆の間違いだとでも仰せになりますか」
抵抗するなよ、コラ。ひれ伏したのは安心させるためのテクニックで、司馬懿も曹丕の側の人間なんだぞ。恐いだろ!恐いだろ!という場面で終わる。閉じる
- 第76集 受禅台で皇位が移り、献帝の船が沈む
許都 内宮
司馬懿 「陛下が下されました。華歆の間違いだとでも仰せになりますか」
司馬懿が黒幕であることが、明確に描かれる。このときの司馬懿の顔が、とても悪い。画像をキャプチャして、貼っておきたいほど。献帝 「続けよ」
司馬懿 「受禅台 完成の折には、陛下は吉日をお選びになり、文武百官を一同に集め、魏王に天子の印璽をわたし、魏王に禅譲なさって下さいませ」
献帝 「おお、まるでかつての銅雀台の会だな」
司馬懿 「よくお分かりです」
銅雀台の会を見てないから、ぼくは、よく分かってない。借りてこよう。献帝 「いまさら詔など」
司馬懿 「詔なくして、かように大きな儀式はありえませぬ」
献帝 「おのれ」
司馬懿 「落ち着かれよ。ご諒承くだされば、私も漢室のため尽力いたしましょう。こたびのような役目は最後でしょうな」
献帝 「その役目とは、なんだ」
司馬懿 「詔を起草いたします」
献帝 「なるほどな。曹丕の腹心である、そなたをおいて、ふさわしい者はいない役目だ」
司馬懿 「おおせつかります」
献帝 「司馬懿よ。朕が墨を擦ってやろう。その筆が刀の如く走り、辛辣になるように」
曹皇后 「陛下、お待ちを。それは私がいたします」
司馬懿 「感謝いたします」
許都 受禅台
献帝 「爾 魏王。昔 尭は位を舜に禅り、舜は位を禹に禅る。天命に常なく、有徳の者に帰す。漢の道おとろえ、宇内は転覆す。さきの武王の神武に頼り・・・」
『三国演義』どおり。テープ起こしも疲れたので、省きます。献帝が璽綬を曹丕にわたす。立ち位置を代える。
郡臣 「 「皇帝陛下に拝謁致します」」
曹丕 「我は天意を受け、帝位に即く。即日、国号を大魏と号し、黄初に改元す。洛陽に都を建て、父王に太祖武皇帝と謚す。帝位を譲りし劉協は、山陽公に封ず」
郡臣 「 「皇帝陛下。万歳、万歳、万々歳。万歳、万歳、万歳」」
許都近くの渡し場
曹皇后 「陛下、早く船の中へ」
献帝 「そなたの兄の天下だ。命を狙われては、どこに隠れても無駄」
司馬懿 「山陽公に拝謁いたします」
献帝 「司馬懿よ。なに用で参った」
司馬懿 「魏帝が妹ぎみを思い、お二人の出立のお見送りに参れと命じられたのです」
献帝と曹皇后が船にのる。
司馬懿 「さすが魏帝は、仁愛ある君主。お言づてです。山陽公が都に戻らねば、富貴の身を保障すると」
献帝 「そなたは、その言葉を信じるか」
侍臣 「司馬懿、山陽公は酔っておいでです。今の話は、どうかお聞き流しを」
司馬懿 「信じています。私は、皇帝の仁愛を信じます。さあ、飲みましょう」
献帝 「前の者の幸いを、後の者が受ける。されど、歓んではおられぬのだ。その幸いは、さらに後の者にわたる」
魏晋革命の暗示であることは、言うまでもない。献帝は酒を飲み干す。
船がたつ。司馬懿は沿岸に残る。
司馬昭 「父上、もう遅いです。風もあるゆえ、もう戻りましょう」
司馬懿 「まだ見ていたい。いま見なければ、二度と見られぬ。長きにわたり、皇帝であられたお方だ。亡国の君主の去り際を、しかと見届けたい。かような景色は、誰もが見られるものではない」
船のなか
献帝 「皇后よ。私はつくづく、おかしな皇帝であった。皇帝になるときは、人に強いられて位につき、位を下りるときも、同じく人に強いられた。九つのとき、董卓が私を帝位に推挙し、私は言うなりに動く人形となった。そのとき以来、私は日々、涙にくれた。上は先祖に、下は民に恥じ、一日たりとも心は晴れなかった。したがって、そなたの兄には感謝すべきだ。私を苦しい境遇から、救い出してくれたのだ。今日は、生涯でこれ以上ないくらい、愉快な日だ」
曹皇后 「曹丕は、兄ではありません。漢臣にして逆賊。私も、怨み骨髄に徹します」
献帝 「兄を怨むでない。私はこれまで、野望を持つ臣下に、四人 会った。それらはみな、皇帝という人形を操っていた主人だ。董卓、郭汜、曹操、曹丕。思い返せば、そなたの兄がもっとも親切だった。こうして、美しい山河へと送り出してくれるのだから。行く先は、詩で読んだことがあるのみで、一度も行ったことがない地だが」
従者 「船が沈むぞ! 」
曹皇后 「陛下、大変でございます」
従者 「わが君、お逃げください。この船は沈み・・・」
献帝 「さがれ!」
従者 「御意」
曹皇后 「これは司馬懿の企みです。いえ、司馬懿でなく、曹丕です。曹丕がお命を狙って、船に細工を」
献帝 「さあ、座れ。考えるな。さあ、酒を注いでくれ。たのむ、たのむ。教えてやろう。船底に穴を開けたのは、司馬懿ではない。私が開けさせたのだ。ご先祖の山河を、賊の手に渡してしまった。私は漢の大地に眠らず、川に深く沈み、魚の餌となるべきなのだ。皇后よ、そなたは、もう行け。わたしを一人にしてくれ」
献帝は、本音では、禅譲に承伏していなかった。曹皇后 「生まれて初めて、陛下は、英雄になられたのです。私は、どこへも行きません。お供します。陛下のおそばを離れません」
献帝 「皇后よ。来世があるなら、決して皇帝の家には嫁ぐでないぞ」
曹皇后 「陛下も来世があるなら、二度と皇帝の家には生まれないで下さい」
船が沈む。暗くなる。蜀漢の場面に変わる。140227劉備の皇帝即位を正しく見せるため、献帝は退場してもらうべきだ。ドラマ 「三国志」に、献帝がもう出てこないのか、この巻しか見てないから分かりません。閉じる