読書 > 李卓吾本『三国演義』第13回の訓読

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第13回上_李傕・郭汜 長安を寇す

呂布が徐州の劉備を頼る

話説 興平二年の夏四月、曹操 呂布を定陶に大破す。布 乃ち敗残の軍馬を海濵に收集す。衆将 皆 会集す。却りて再び曹操と雌雄を决せんとす。
陳宮曰く、「今 操の勢 大なり。未だ先を争ふ可からず。尋いで安身の地を取れ。那の時、再来しても遅からず」
布曰く、「今 当に何こに往むべし
宮曰く、「近く聞く、劉玄徳 新たに徐州を領す。往きて之に投ず可し。気力を養成すれば、別に良図有らん」
布 其の言を信じ、竟に徐州に投じ、過界す。

首め人の玄徳に報知する有り。
玄徳曰く、「布 乃ち当今、英雄の士なり。郭を出でて迎接す可し。

劉備が孔融や陶謙に利用されたように、劉備は呂布を利用としている。社会階層があがると、武力だけの人を、便利づかいしょうとするのだ。

糜竺曰く、「呂布 乃ち虎豹の徒なり。收めて留む可からず。收むれば則ち、人を傷つく」
玄徳曰く、「前者、布の兗州を襲ふこと非ざれば、怎ぞ解けん、此の郡の禍。吾 徐州を得るは、亦 布の力なり。他 若し徐州を要せば、吾 当に相ひ譲らん。何ぞ、况んや布 此の心無きをや」

毛本では、「前者非布襲兗州,怎解此郡之禍。今彼窮而投我,豈有他心」とあり、劉備がさらに義心を起こしており、内容も分かりやすい。

張飛曰く、「哥哥の心腸 忒好なり。然ると雖ども、此の如きや。

優しくて甘いと思ってたが、ここまでかよwと。

当に准備〈呂布の攻撃に警戒〉すべし」

玄徳 軍兵の数千を領きて出城す。出城すること三十里、呂布に接着す。馬を並べて城都に入る。州衙に到り、𠫊上、講礼し畢はり、坐下す。布 曰く、
自ら招く、董卓を討殺する徒を。又 傕汜の変に遭ひ、飄零す。関東の諸侯 並に相ひ容れず。昨、使君〈劉備〉の徐州を力救するを蒙り、布 此に因り兗州を襲ひて、以て其の勢を分く。

劉備が徐州で曹操と戦ったから、呂布は兗州を攻めることができた。逆に、呂布が兗州を攻めたから、劉備は徐州を守ることができた。
ここで呂布が劉備を頼るのは、全く自然な流れだな。最終的に決裂するから、唐突な印象を受けるが、その印象のほうこそ、間違っている。

料らず、反りて曹操の機に遭ひ、累は関張に及ぶ。布 今 使君に投じ、社稷を共扶し、再び漢室を安ぜん。未だ審らかに尊意すること如何」
玄徳曰く、「陶府君 新たに近く天に帰し、人の徐州を管領する無し。此に因り、備をして州事を権攝せしむ。

李卓吾先生は、「玄徳は奸雄に似る」とする。

今、幸にも将軍を得る。此に至り、無徳 有徳に合譲せん」
備の情は願ふ、牌印を将て将軍に之を受けよ請ふを。呂布 却待し接見するに、玄徳の背後に関張 各々抜剱の意有り。布 佯りて笑ひて曰く、
「布を量るに、一勇の夫なり。何ぞ能く州牧と作るか」
玄徳 又 譲る。

関張の脅しが有効だから、それを分かって譲っているのだなら、玄徳は、まさに奸雄だなあ。『三国志』は、2人のおめでたい袁紹・袁術と、2人の奸雄である曹操・劉備の話かも知れない。

陳宮 告げて曰く、
強賓 安にか敢へて主を圧するや。請ふ、使君 焉に疑ひを得る勿れ」

毛本は、「『強賓不壓主』」と、引用扱いになってる。李本よりも漢字が節略されているのに、引用とは、なぜだろう。李本が余計な字を足しているわけでもあるまいに。

玄徳 方に止む。
遂に大宴を設け相待し、宅院に收拾して安下せしむ。

呂布が劉備を「賢弟」と呼ぶ

次日、呂布 席に回りて玄徳に請ふ。関張 諌めて曰く、
「前日、呂布 徐州を奪ふの意有り」
玄徳曰く、「吾 善心を以て人を待す。人 我に負く〈そむ〉を肯ぜず」
遂に関張と同行す。布 飲酒すること半酣、玄徳に請ふらく、
「後堂に入りて臥房の床上に坐し、妻女をして之に拝せしめよ」

劉備の妻子は、のちのち呂布に捕らわれる。面識をつくっておくのは、よいことじゃないかw

玄徳 再三 謙譲するも、布玄徳を扶けて曰く、
「賢弟、礼を受けよ」
関張 目を瞋らせ、張飛 抜剣して大叱して曰く、
「我が哥哥 是れ金枝・玉葉なり。你 是れ人家の奴婢なり。怎ぞ敢へて我が哥哥を叫びて賢弟と做すや。你来、我と你と闘ふこと三百合なり」

虎牢関で戦った、敵同士だったじゃないかと。

玄徳 急ぎ関公に喝し、飛を拖出せしむ。
玄徳 呂布に陪して笑ふ、
「劣弟、酒後に狂言す。兄よ、責むる勿れ」
布 黙して語無く、須臾に席 散ず。

布 玄徳を送りて出門す。張飛 躍馬し横鎗して叫ぶ。
「呂布よ、我と你とは併せて三百合なり」

また言ってる。毛本でも、また言うのだ。

玄徳 上馬し、張飛を拖して去る。

次日、呂布 来りて玄徳に辞し、行くを要すとす。

「張飛とケンカしてしまいました。もう、徐州には居られません。さようなら」と。

玄徳 叫〈よ〉びて張飛を将て拖し、呂布と陪話せしむ。飛 那裏に肯ずるや、玄徳曰く、
此間 一小沛有り。是れ劉備 昔日、屯劄するの処なり。将軍 此処を嫌はず。浅狭なるとも、権に且に馬を歇するは如何。糧食 儘き、軍需有りて欠欠たれば、劉備 謹みて当に応付す」
呂布 玄徳に謝し、自ら軍を引きて小沛に投じ、安身す。玄徳 深く張飛を責む。

楊彪の妻が、李郭を離間させる

却説 曹操 頴汝・山東を平らげ、功奏す。朝廷 操に加へて、建徳将軍・費亭侯と為す。

其の時、李傕 自ら大司馬と為り、郭汜 自ら大将軍と為り、天下に横行す。朝廷 人の敢へて言ふ無し。
太尉の楊彪、大司農の朱雋、暗かに献帝に奏して云〱、
「今 曹操の屯に、馬歩・精兵の四十余万あり。謀臣・武将 数百員あり。若し此の人を得れば、社稷を扶持し、奸党を剿除し、天下は幸甚たり」
献帝 泣きて曰く、「朕 汜傕の二賊に欺凌せらること久し。其の行事を観るに、董卓よりも甚し。朕 行坐して安ぜず。之を除く可きの計無し」
言訖はり、慟哭す。
楊彪 奏して曰く、「臣 一計有り。先に二将をして自ら相ひ残害せしめよ。然る後、曹操に詔し、引兵して之を殺しめ、賊党を掃清すれば、以て万民を安ず」
献帝曰く、「如何に二賊をして自ら相ひ残害せしむ」
彪曰く、「臣 老妻をして郭汜の府中に到らしめ、汜の妻の処に反間の計を献ず。二賊 自ら相ひ害す」
帝 密詔を書し、楊彪に付す。

彪ら二大臣 出でて暗かに夫人をして郭汜の府に入らしめ、其の妻に告げて曰く、
「郭将軍と李司馬の夫人、其の情を染ること有り、甚だ密なり」
汜の妻曰く、「怪しむ、経宿して帰らざるを見る。正に此の事有ること数日なり」

後に郭汜 傕の府中の筵席に却往す。
其の妻曰く、「傕の性 測る莫し。今、二雄 並立せず。倘し酒後、毒有らば、妾 将に奈何せんや」
汜 未だ信ぜず。晩間に至り、傕の府 物を送至す。汜の妻 先に婢妾をして内に毒を置き、方に始めて献入せしむ。汜 便ち之を食はんと欲するに、其の妻曰く、
食 外自り来る。豈に便ち食らふ可きや。犬に之を試せ」
犬 死し、此自り、之を疑ふ。

献帝の長安脱出の話が、起動しました。


傕 一日 朝堂に汜と邀し、家に還り飲酒して酔ひて帰坐す。夜、肚腹に疼を攪る。
妻曰く、「必ず其の毒に中つ」
急ぎ糞汁を将て之を灌し、一吐せしむ。方に定まり、汜 大怒して曰く、
「吾 汝と共に大事を図る。你の今 栄貴たるも、却りて我を害す。我 先んじて発せずんば、必ず毒手に遭ふ」
遂に本部の甲兵を整ふ。意は傕を殺さんと欲す。

又 心腹の人有り。知りて消息を飛報す。
傕大怒して曰く、「郭阿多 安にか敢へて此の如きか」
本部の甲兵を點し、郭汜を来殺せんとす。

両処 合はせて兵は数万。就ち長安の城下に乱殺す。乗勢し、居民を擄掠す。

李傕が、献帝を拉致する

傕の兄子の李暹 数千兵を引きて宮院を囲住す。車三乗を用て、一乗に天子を載せ、一乗に伏皇后を載せ、一乗に賈詡・左霊を載せ、就きて車駕を監せしむ。

監督の仕事があるとはいえ、賈詡が、皇帝・皇后と同じ待遇になってしまったw

其の余の宮人 内侍 並皆 歩走し、後宰門を出づ。
郭汜の兵 到り、両辺 射死するもの其の数を知らず。李傕 随後し、郭汜の兵を掩殺す。車駕を退け、烟火に冐突し、出城し、只だ到る、李傕の営中に。
郭汜 兵を領して入内す。宮𡣕・采女を搶擄す。放火して殿宇・庫蔵を焼き、一空たり。

次日、郭汜 已に知る、李傕 天子を刼せるを。領軍し営前に厮殺す。李傕 殺〈殺到〉し、郭汜 大敗す。
夜に当り、車駕を移して郿塢に到る。

帝 弓箭の声を聞き、戦慄して巳まず。
静軒先生 詩有りて之を嘆じて曰く、(はぶく)

べつに新しいネタがでて来ない。言葉をかざって、復習するだけ。これに煩って、中途で訓読を挫折するほうが恐いのだ。


伏皇后 衣襟を涙濕す。李傕 郭汜を殺退せしむ。

郿塢でくさいメシを与えられる

車駕を移して郿塢に至り、校尉の李暹をして天子を監住し、塢内に在らしむ。内使・侍臣を断絶し、皆 饑色有り。
帝 人をして傕に問はしめ、
「米五斛・牛骨 五具を取りて以て左右に賜へ」と。
傕 怒りて曰く、「朝夕 飯を上る。何ぞ米糧を用てするや」
傕 乃ち肉腐・牛骨を与ふ。皆 臭く、食らふ可からず。
帝 罵りて曰く、「直だ此の如きのみ。相ひ之を欺くこと甚しきや
内侍中の楊𤦺 急ぎ奏して曰く、
「傕 乃ち邉鄙の人なり、夷風に習ふ。今日〈私は〉自ら知る、背逆を犯す所を。常に〈陛下には〉怏怏の色有り、駕を輔けて黄白城に幸かしめ、以て其の憤怨を舒めんと欲す。陛下 之を忍べ。豈に其の罪を顕はす可きや」

出たな、忠臣!

帝 乃ち低頭し、語無く、泪 龍袖に盈つ。

左右 報じて曰く、「一路の軍馬有り、鎗刀 日に映え、金皷 天を震す。前来して駕を救ふ」と。
帝 打聴せしむ。是れ誰や、乃ち郭汜なり。

李卓吾先生が、アイノテを入れたが、郭汜かよw

帝の心 憂に転ず。塢外に喊声 大起す。乃ち李傕 来到し、両邉 擺開す。李傕 出馬し、鞭もて郭汜を指して罵りて曰く、
「我 你を待すること薄からず。你 如何に我を害せんと謀るや」

李傕に主権があり、郭汜は待遇を決めてもらう側だったことが分かります。まあ、「李郭」という順番で書かれるしね。

汜曰く、「爾 乃ち反賊なり。你を殺さざること如何」
傕曰く、「我 駕を保ちて此に在り。何ぞ反賊と為るや」
汜曰く、「乱道 見〈あら〉はる。今、駕を刼して此に在り。何ぞ『駕を保つ』と為すや

贅言してるけど、編者が伝えたいのは、「どっちもどっち」です。

傕曰く、「都て須らく多言して、軍士を用ゐるべからず。我ら両箇 自ら併輸すること嬴嬴たり。便ち皇帝を把して罷らん」
郭汜 挺鎗し、李傕に来戦す。
李傕 舞刀して郭汜を来迎す。戦ふこと十合有り、勝負を分たず。

李郭が、物理的に一騎打ちをした!


仲裁した高官が、郭汜に捕はる

太尉の楊彪 拍馬して来り、大叫す。
「司馬・将軍〈李さん・郭さん〉 且に少歇を請ふ。老夫 邀りて衆官に請ひ、二大夫を和解せしむ」
傕汜 各自 還営す。
楊彪・朱雋 会合す。朝廷の官僚 六十余人、先に郭汜の営中を詣で、和を汜に勧む。〈郭汜は〉衆の官僚を将て、尽く監下に行かしむ。

郭汜を説得に行ったつもりが、郭汜に捕らわれた。

衆官曰く、「何を為さんと欲するや」
汜曰く、「李傕 天子を刼し、偏に我 公卿を刼する得ずや」

李傕が悪事をやってるから、オレも悪くない。

彪曰く、「一人 天子を刼し、一箇 公卿を質とす。乃ち何ぞ行はんや」
汜 抜剣して之〈楊彪〉を殺さんと欲す。中郎将の楊密 左右に勧住し、都な汜に放せと諫む。楊彪・朱雋、其余 都て営中に監せらる。

彪 雋に曰く、
「社稷の臣為りとも、君を匡ひ主を救ふこと能はず、空しく天地の間に生くるのみ」
言 訖はり、相ひ抱きて哭き、地に昏絶す。

朱儁って、そんな軟弱なキャラだっけ。皇甫嵩と朱儁が、うまく消化されていない。『三国演義』に追記する余地があってよかった。

帰家し、雋 病と成りて死す。

此自りの後、傕・汜 相ひ迎へて毎日 厮殺すること五十余日。死者 其の数を知らず。
李傕、平日、左道・妖邪の術を喜ぶ。常に女巫をして鼓を撃ち神を軍中に降さしむ。

献帝が賈詡を頼る

帝、毎日 啼哭す。侍中の楊𤦺 密奏して曰く、
「臣 観る。賈詡 是れ李傕の心腹と雖も、未だ嘗て君を忘れず。陛下 実に之に告げよ」
正説の間、賈詡 到来す。帝 乃ち其の左右を退け、号泣して詡に拝す。詡 地に伏して曰く、
「臣 〈李郭を〉誅するに勝へず」
帝曰く、「卿 此の如くんば、漢朝を憐れみ劉協の一命を救ふを肯ずるや」

賈詡に泣きつく献帝。毛本では「卿 能く漢朝を憐れみ、朕の命を救ふや」とアッサリ。李本では、「漢朝を憐れみ、劉協の一命を救ふことを肯ずるや」とコッテリ。自分で姓名を口に出すし、可能でなく意思を聞く表現。毛本が省略するが、李本で賈詡は「李郭を誅せない」と突き放すから、献帝がせっつく。

詡曰く、「臣の心 未だ嘗て此の如くあらず。陛下 且に言ふ勿れ。臣 自ら之を図る」
帝 賈詡に謝す。

少頃、李傕 帝に入見す。腰に三刃刀を帯び、剣に腕手を懸け、鉄鞭を提ぐ。

ひどい恰好で、ウロウロしているなあ。

帝の面 土色の如し。
内侍 皆 剣を帯びて帝の側に立つ。
傕曰く、「郭汜 不仁なり。陛下を刼して、公卿を監禁せんと欲す。臣非ざれば〈私がいなければ〉、則ち聖上 亦 擄はる」
帝 拱手して称謝す。
傕曰く、「陛下 真に賢聖の主なり」

遂に出でて〈李郭が〉諸将に問ひて曰く、
「内侍 剣を帯びて帝側に立つ。吾を害するの心有る非ざる莫きや」
賈詡曰く、「軍中、帯剣せざる可からず」

皇甫酈が、李郭を仲裁する

傕 笑ひて帳中に入りて罷るの時、僕射の皇甫酈 天子に入見す。
帝 知る、酈の能言なるを。去きて両邉を解和かしむ。詔して先に汜の営に到り、汜に説かしむ。
汜曰く、「如〈も〉し李傕 天子を放出せば、我 便ち公卿を送出し、長安に還る」

李傕が先に有利を手放したら、後から応じてやってもいいと。絶対に李傕が応じないロジックである。

酈 却りて李傕に来見して曰く、
「今 天子 某の西凉人にして公と同郷なるを以て、某に二公を和勧せしむ。汜 已に詔を奉す。公の意は若何」
傕曰く、「吾 呂布を敗るの大功有り、輔政すること四年、三輔は清静たり。天下は共に知る、郭阿多 盗馬の虜なるのみを。何ぞ敢へて吾と相ひ等しきや。吾 必ず之を誅さんと欲す。
君 乃ち西凉の人なり。吾が方略を観るに、士は衆く郭阿多に勝つに足る。否ざるに又 公卿を刼し、為す所は是の如し。而るに君〈皇甫酈〉 苟しくも郭阿多に向はん〈味方する〉と欲すれば、李傕 肝有り。量りて自ら之を知れ」

酈 答へて曰く、「然らず。昔、窮有るの后、羿は其の善射するを恃み、患難を思はずして以て滅亡に致る。近く、董太師の強 君の目に見る所なり。呂布 恩を受くとも反す。之を図るに、斯須の間、頭は高竿に懸けられん。
此れ乃ち、勇にして益無きなり。今、将軍の身 上将と為り、持鉞・仗節す。子孫 権を握り、宗族 寵を得け、国家の爵禄を受く。人は皆 之を仰ぐ。
今、郭阿多 公卿を刼し、将軍 至尊を脅す。誰〈いず〉れをか軽重を為すや

李傕 大怒して、抜剣して鞘より出して曰く、「天子 你をして我を辱しむるや。大臣よ、先に你〈皇甫酈〉の頭を斬り、後に天子を殺す。此れ大丈夫の志なり」
言 訖はらば、皇甫酈を殺す。知らず、性命の如何なるを。141025

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第13回下_楊奉・董承 双り駕を救ふ

皇甫酈がキレてわめき散らす

李傕 皇甫酈を殺さんと欲するに、騎都尉の楊奉 諌めて曰く、
「今、郭汜 未だ除かずして、天使を殺せば、則ち郭汜 興兵するに名有り〈名目を得る〉。諸侯 皆 以て之を助く」
賈詡 亦 傕に怒りを少息するを勧む。
詡 遂に皇甫酈を推し、出でしむ。

賈詡は、実力できるなら、弁論いらんじゃん。

酈 大叫して曰く、
「李傕 詔命を奉らず、漢君を殺して自ら立たんと欲す」と。

皇甫酈は、張済に失敗したのだから、黙ればいいのに。

侍中の胡邈 急ぎ之を止めて曰く、
「李将軍 公を待すること薄からず。如何にして此の妄言を出すや。恐る、身に不利なるを」
酈 之を叱りて曰く、「胡敬才〈胡邈〉、你 朝廷の為の輔弼の臣なり。如何に謟侫するや。

李傕を刺激したら、トラブルが大きくなるからでしょ。

我 累世 恩を受く。身は帷幄の中に在り。君 臣を辱むれば、死して当に国家を佐くべし。吾 李傕の殺す所となるども、乃ち命なり

こんな余計なことばっかり言うのが、能弁かよ。勘違いも甚だしい。トラブルを大きくしないでくれ。

大罵して不止まず。
帝 之の急なるを知り、皇甫酈をして西凉に回す。

皇甫酈が西涼の兵を動員する

李傕の軍 大半は西凉の人氏なり。更めて羌の番兵有り。酈 言はく、「傕 不忠・不孝なり」。西凉の勇士 各々酈の言に随ふもの多く有り。
賈詡 又 羌胡人を説きて曰く、
「今、天子 知る、汝の忠孝を。故に汝を遣はして郡に還らしむ。後に必ず重賞有らん。羌胡 皆 李傕の官職を与へざるを怨む。亦 引兵して出だしめよ」

傕 酈の去るを知り、大怒す。虎賁の王昌を差はし、之を追はしむ。昌 酈の忠孝の士なるを知り、追はずして回り、傕に報じて曰く、
「酈 何に往くかを知らず」
傕曰く、罷休す〈王昌の役割を解く〉」

皇甫酈の動員は、後から効いてくる?


李傕の臣の楊奉がそむく

却説 賈詡 帝に来見して曰く、
「陛下 重ねて李傕に官を加ふ可し
帝 李傕を大司馬に封ず。
傕 心中に大喜して言ひて曰く、
「此れ乃ち、女巫・神鬼の力なり」
遂に重ねて女巫を賞し、軍士を賞せず。

騎都尉の楊奉 大怒して宋果に曰く、
「吾ら 入生・出死し、身は矢石を冐すも、返りて女巫に及ばざるや」
宋果曰く、「何ぞ此の賊を殺して、以て天子を救はざる」

賈詡は、李傕に官職をあげて、歓心を買って制御した。李傕は、官職をあげずに、楊奉の叛心を買った。とても分かりやすい。
のちまで天子に帯同する、楊奉さんは、ここが初出場。

奉曰く、「你 中軍に放火して号を為せ。吾 当に引兵し、外応す」
二人 約定す。此の夜の二更、下手にも、料らずして其事を密とせず。此の夜の事 泄る。人 李傕に報知する有り。
傕 大怒して、人をして宋果を捉住せしめ、先に已に之を殺す。楊奉 外に在り、号火を見ず。
李傕 自ら兵を将ゐて出で、寨中に就き殺到す。四更、奉 勝へざるに因り、一彪の軍を引きて去る。

李傕のもとから、楊奉が分離したと。

李傕 此自り軍勢 漸々衰ふ。更兼、郭汜 常に攻撃し、殺死する者の屍 積むこと山の如し。

忽ち人の来報する者有りて曰く、
張済 大軍を統領して、陝西自り李傕・郭汜の処に来到する有り。各自 人を差はし、両処をして和釋せしむ。如し従はずんば、引兵して撃つ」と。
傕汜 皆 依允す。
張済 上表し、天子に請ふ、駕 弘農に幸くを。天子 大喜して曰く、
「朕 躬ら東に都せんと思ふこと久し。今、此に乗じて得て還る。乃ち万幸なり」
詔して張済を封じて驃騎将軍と為し、開府せしむ。済 糧食・酒肉を進め、百官に供給す。

天子を救う張済が、のちに甥の張繍にバトンタッチして、鄒氏を使って曹操を窮地に陥れる。賈詡もね。張済と賈詡は、長安からの東遷において、最重要キャラである。物語を前に進めた。
董卓の一味という属性は「消毒」されて、どちらかというと「劉備の味方」という感じになるわ。


天子が東遷する

汜 公卿を放ち営を出でしむ。傕 車駕を收拾し、東行せしむ。旧有の御林軍 数百を遣はして各々長戟を持して鑾輿を護送せしむ。夜に新豊を過ぎ、晩に霸陵橋に至る。
時に秋天に値り、金風 驟起す。喊声 大いに作り、数百軍の兵 至橋上に来り、車駕を欄住す。厲声し問ひて曰く、
「此れ何なる人や」
侍中の楊𤦺 拍馬し橋に上りて曰く、
「此れ乃ち大漢の天子の車駕なり。甚なる人も無礼するを得ず」
二将の出づる有りて曰く、
「吾ら 郭将軍の命を奉じ、此の橋を以て守把し、奸細を防ぐ。既に天子有ると言ふ、以て准信し難し。須らく親ら之を見せしむべし」
楊𤦺 珠簾を高揭す。
帝曰く、「朕 躬ら此に在り。卿 何ぞ退かざる」

すげー。天子がサービスして、姿を現した。毛本も同じ。

衆将 皆 万歳を呼び、両邉に分かる。駕 乃ち過ぐるを得たり。二将 回りて郭汜に報せて曰く、
「天子の駕 已に去れり」
汜曰く、「我 正に車駕を刼して再び郿塢に入れ、以て大事を図らんと欲す。你 如何に放ちて過去しむる」
二将曰く、「将軍の本意を知らず」

使いものにならねー部下である。

汜曰く、「吾 瞞きて張済の心を住め、此の事を謀るを要す。你 如何に放ち過去せしむ」
速やかに命じて其の二将を斬り、起軍し赶来す。

郭汜が天子を追う

天子に正に華陰県に到るや、背後に喊声 大震し、軍馬 赶来して大叫す。車駕 動くを休む。献帝 後ろに軍の至るを聞き、大臣に告げて曰く、
「恰〈あたか〉も狼窩を離して、又 虎口に逢ふ」
侍臣 皆 大哭す。軍 至り、将に近かんとし、只 聴得す、一𣲖の鼓声を。山の背後より転出す。一将 先に当り、一面 大旗に書着す、
「大漢の楊奉」 の四字。背後に一千余の軍あり。

天子の護衛において、楊奉も重要人物となる。


原来、李傕の屯兵より離れ、終南山中にあり。特来し、駕を保たんとし、正に帝に遇ふ。後軍を両邉に退けしめ、擺開す。
汜の将たる崔勇 出馬して楊奉を大罵す。
「反賊 無仁・無義なり」
奉 大怒し、陣中を回顧して曰く、
「公明〈徐晃〉 何に在る」
一将、手に大斧を執り、飛驟・驊騮し、崔勇に直取す。両馬 相交すること只一合、崔勇を馬下に斬り、軍中に殺入す。〈徐晃によって〉砍死するもの数ふる無し。
汜の軍 大敗し、退走すること二十余里。

楊奉 軍を收めて天子に来見す。帝 下車し、奉の手を執りて曰く、
「卿 朕の躬を救ふこと、当に肺腑に刻銘すべし」
奉 頓首し拝謝す。
帝曰く、「賊将を斬る者、何なる人や」
奉 乃ち此の将を引き、車下に拝せしむ。奉曰く、
「此の人、河東楊郡の人、姓は徐、名は晃、字は公明なり」

こうやって登場した徐晃が、(史書に反して)孟達に射殺されるのだから、『三国演義』は不条理な物語である。

帝 之を慰労す。

董承が登場して、天子を救う

楊奉 駕を保ちて華陰の寧輯に至る。
将軍の段煨 衣服・飲膳を具えて天子に供給す。是夜、天子 楊奉の営中に宿す。
郭汜 一陣に敗る。
次日、點軍し、又 営前に殺至す。徐晃 先に当り出馬す。郭汜の大軍 八面より天子を囲む。楊奉 困し、垓心在り。
帝 百官に曰く、
「朕 今番 休せり。正に危急の中に在り」
忽然、東南上に喊声 大震し、賊衆 奔潰す。徐晃 乗勢して門外に殺出し、攻撃し郭汜の一陣を大殺す。汜の兵 敗走す。
此人 天子に来見す。乃ち是れ、劉朝の国戚、漢室の忠臣、身に錦衣を着け玉殿に臨み、腰に玉刀を横たへ金階を上る。乃ち是れ、国舅の董承なり。

曹操に殺されるまで、善玉のトップです。登場の仕方からして、いかに主要なキャラであるかが、強調されている。曹操と対立するという死に様が、董承のかっこよさを担保する。

千余騎を引き、特来し駕を救ふ。
帝 前事を哭訴す。
承曰「陛下 憂を免ぜ。臣 楊将軍と誓ふ、二賊を斬りて以て天下を靖すと」
帝 命ず、東都に早赴せよと。連夜、駕 起ちて弘農に前幸す。

李傕と郭汜が手を結ぶ

却説 郭汜の敗軍 回りて李傕に撞見して言ふ、
楊奉・董承 駕を救ひ、弘農に往む。若し山東に到りて立脚すれば、牢を得ること必然。天下に布告し、諸侯をして共に我らを伐しむ。三族 能く保守せず」

よく分かってるじゃんw

傕曰く、「如し今、張済の兵 長安に拠り、未だ敢へて兵を動かさざれば、我と你と兵を一処に合せ、弘農に至り、漢君を殺し、天下を平分せん。何ぞ不可なること有るや」
汜曰く、「若し兄長 小弟を帯挈して一同し共に地面を奪ふことを肯ずれば、二人 兵を路に合して刼掠せよ。過ぐる所 一空とせん」

郭汜が、李傕を「兄」と呼び、手を結んだ。


楊奉・董承 賊勢の遠来するを知り、遂に勒兵して回り、賊と東澗に大戦す。
傕汜の二人 商議し、
「只だ闘ふ可からず、将に只だ是れ混戦せよ。我は衆く彼は寡し。安にか得て勝たざる」

こちらが人数が多いのだから、まともな戦闘にせず、ただゴチャッと突っこめば、何だか勝ったような結果が得られるだろうと。

商議 巳に定まり、李傕は左に在り、郭汜は右に在り、漫山・遍野、擁来す。

楊奉・董承 両邉に死戦し、天子・皇后の車を剛保し、百官を出す。宮人 典籍を符策し、御用の物を一応するも、尽く皆 抛棄す。俱に傕汜の兵卒の搶にて死する者 其の数を知れず。

白波の李楽・胡才が合流する

郭汜の軍 尽く弘農に入り、刼掠す。奉・承 駕を保ちて陝北に走ぐ。傕汜 分兵し赶来す。
承奉 一面に人を差はし、傕汜と陪話せしむ。一面に暗かに人を差はし、聖旨を伝へて河東に往かしめ、急ぎ招く。
故に白波帥の李楽・韓暹・胡才なる三処の軍兵 前来し、救応す。李楽 亦 是れ嘯聚山林の反賊なり。巳むを得ずして召さる。

初めから、裏切るフラグが立っている。

三処の軍 天子に聞く。
「赦罪・賜官す、如何に来らざる」

利益をやるよ、なぜ来ないんだい、と釣り上げた。もう、利益が嬉しくなくなれば、いつでも裏切りますよ、と初期から契約したようなもの。

本営の軍士と並せて来り、董承と約会す。一斉、弘農を再取す。

其の時、李傕・郭汜 但だ到るの処に、百姓・老弱を刼掠し、之を殺す。強壮な者 軍に充ち、敵に臨むの処、民兵を駆りて前に在らしめ、名づけて曰く、「敢死軍」と。賊勢 浩大なり。

〈董承に合流した〉李楽らの軍 亦 是れ嘯聚・貪掠の輩なり。郭汜 軍士をして衣服を将て道に抛棄せしむ。李楽の軍 渭陽に到会す。李楽らの軍 衣服の路に満つを見て、争ひて之を往取し、隊伍を失ふ。
汜傕の軍 四面に赶来し、混戦す。
李楽の軍 大敗し殺得す。屍は野に横遍し、血は流れて河を成す。

楊奉・董承 撑欄して住かず、保駕して北走す。背後に傕汜の軍 赶来す。
李楽曰く、「事は急なり。天子に請ふ、上馬し先行せよ」
帝曰く、「朕 百官を捨つ可ならず。衆 何の辜あるや」
兵 追ひて絶へず、満天 火紅たり。
胡才 乱軍の殺す所となる。喊声 震地し、相連すること百余里り。

天子が黄河を渡る

承・奉 賊の追急するを見て、天子に請ふ、
「車駕を棄てて歩行し、黄河の岸邉に到れ」
李楽ら尋いで一隻の小舟を得て渡船と作す。
時に天冷・厳寒に値る。帝と后と与に強扶し、岸邉に到る。岸 又 高く、下るを得ず。後面、火皷有り、相攻す。甲兵 驟至す。
楊奉曰く、「馬疆繩を解きて接連し、帝の腰を拴縛し、舡内の人叢〈人ごみ〉の中に放下す可し」

楊奉を、袁術の息がかかった者として扱えば、物語の意味が全然かわってくる。イイネ!

皇后の兄たる伏徳 絹十数匹を挾み至りて曰く、
「我 乱軍の中に拾得す、此の絹を。接連して拽輦す可し」
行軍校尉の尚弘 多く絹を用ゐ、帝を后と共に包む。衆人をして往きて之を下放せしむ。乃ち船に下るを得たり。

李楽 仗剣し船頭の上に立つ。后の兄 伏徳 后を負ひて船中に下る。岸上、下船するを得ざる者有り、争ひて傍船に扯る。李楽 尽く水中に推し、渡過す。

李楽は、わりといい仕事をするのね。

帝・后 再び船を放ちて過渡す。岸上の者 哭声して止まず。其の渡船を争ふ者、尽く皆 扯む。船に住き、皆 手指を砍下せらる者 舡中に其の数を知らず。

急ぎ北岸に渡り、楊奉 牛車一輌を尋ね、帝を載せて大陽に至る。食を絶やし、瓦屋中に宿を晩くす。野老 粟飯を進めて上り、后と共に食らふ。麄糲たりて、能く咽喉に下さず。

盗賊たちに官職をくばる

次日、李楽を封じて征北将軍と為し、韓暹を征東将軍とす。
帝 牛車に上りて行く。一大臣 尋ねて至り、前に拝す。乃ち太尉の楊彪、太僕の韓融なり。
帝・后 痛哭し、近侍 等止す〈高官が追いつくのを待った〉。二十余人 有り、下涙せざる無し。
太僕の韓融曰く、「傕汜の二賊 頗る臣の言を信ず。一命を捨てて二賊に説き、罷兵せしめん。陛下、善く龍体を保て 」
韓融 去けり。

李楽 帝に請ひて奉の営に入らしむ。暫く歇すること数日。
楊彪 天子に請ふ、安邑県に都するを。車馬を上御し、安邑に至る。又 高房無く、帝・后 居る所 茅屋中なり。又 門の関閉する無く、四邉 荊棘を旋挿し、籬落す。
帝 大臣と、茅屋の中に議事す。李楽・韓暹 兵を籬外に進めて観望す。互相に鎮圧し、以て歓喜と為す。諸将 専権し、或いは尚書・百官の公卿を打死せしむ。
稍々帝前に觸犯し、将士を毆罵する有り。故に奴婢をして天子に濁酒・粗麄を送らしむ。帝 勉強し〈むりに我慢して〉之を納る。
李楽・韓暹 連名して保ち、無徒・部曲・巫医・走卒の二百余名 並せて校尉・御史と為る。刻印 及ばず、以て之を錐画す。此の如きこと、苟くも且なるのみ。

李楽が、李傕を手引きする

韓暹 傕汜の二賊に説き、方に始めて百官及び宮人を放帰せしむ。
是の歳、大いに饑荒たり。百姓 皆 棗菜を食ふ。餓死する者 地に遍し。河内太守の張楊 米肉を天子に送る。河東太守の王邑 絹帛を送りて以て之を衣とすること此の如し。帝 活を得たり。
董承・楊奉 商議す。一面 人を差はし、洛陽の宮院を修はしめ、車駕を奉じて東都に還らんと欲す。
李楽 従はず。董承 李楽に曰く、
「洛陽 乃ち天子 建都するの地なり。安邑 乃ち小なり。地面なる可し。如何に車駕を容得す。今、駕を奉りて洛陽に還るは、正理なり」
李楽曰く、「汝ら奉駕す。吾 只 此処に居住す」

ぼくはココに残るわ。

承・奉〈董承と楊奉〉 駕を收拾して起程す。

李楽 暗かに人をして李傕・郭汜と結連し、一同に駕を刼せんとす。
董承・楊奉・韓暹 李楽の意を知り、乃ち連夜 擺し、軍士を布して車駕を護送す。起ちて箕関に前奔す。
李楽 尽く本寨の車馬 前来するを望み、追赶す。四更、左側より箕山の下に赶到し、大叫す。
「車駕 休行せよ。李傕・郭汜 此に在り」と。

イヤな奴がでてきた。李楽というのが、とんだ食わせ物だった。

天子 聴知し、心は驚き肝は戦ふ。山上の火光 竟に起る。漢の天子 怎に此の難を離るるや。畢竟、何如。且聴下回分解。141026

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