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上巻あとがき+下巻あとがき

歴史小説『魯粛伝』を発刊します。
いま、上巻を書き終えて、下巻をこれから書くという状況です。ですから、これは、「上巻のあとがき」であり、「下巻のまえがき」なんです。
上巻は、原稿用紙800枚相当です。下巻も、同じぐらいの予定です。
下巻の分まで、史料の整理は終わっているし、「こういうことをやりたい」という構想は完成しています。でも、実際に書いてみてはじめて、「そういう作品だったのか」と気づくことってあります。

なぜ魯粛伝なのか_構想8年

2010年ぐらいに名古屋で、三国志の勉強会をしてたんですが、「魯粛が好き」っていう人が多いんです。正史と『三国演義』で、描かれ方というか、評価・印象が変動する人物としては、魯粛って、その代表格の1人だと思います。

三国志を初めて読むと、魯粛はすごく謎なんです。
三国志ってことは、三国が覇を競う物語でしょ。曹操・劉備・孫権が(対等な)ライバル関係だと期待するわけです。ところが、魯粛は、孫権の部下なのに、劉備に便宜を図る。かといって、「孫権を裏切った売国奴」と処罰されるわけでもない。

『三国演義』に基づいたような物語では、劉備にいいように使われたお人好しみたいにも見えるけど、そんな甘いことが、通用するのか?って。 もし魯粛が、「劉備や孔明にだまされて、ウッカリ孫権の国益を損なってしまう、ダメ外交官」ならば、彼を使い続けている孫権集団は、馬鹿バッカってことになります。反対に、孔明は、そんな失脚必至の頼りない人物を軸に、戦略を組み立てたことに。
三国志は、そんな「ぬるい」話ではないはずなんです。

おまけに、魯粛が好きという人たちに、「魯粛のどこが好きか」、「なぜ魯粛が好きか」を聞いても、みんな、うまく答えられないんですよ。
このあたりの、意味の分からなさが、ぼくが魯粛に興味を持ったキッカケで、小説の主人公にしたら、おもしろいだろう、あと思ったんです。しかし、やはり、ぼくにも分からなくて、彼を主人公にした小説を書くのに、8年もかかってしまいました。
いつか魯粛を書きたいなと思っていた(ホームページの題のままだ)が、ぼく自身、どういう人物だか、よく分かっていなかった。この1年、自分が株式投資を始めて、あ、魯粛の話が書ける!って思ったんですよ。投資家心理!

上・下巻に分かれてしまった

もともと『魯粛伝』は、上下巻に分ける予定がなかった。こんなに長くなるとは思わず。2014年に『曹丕八十歳』、2015年に『反反三国志』を書いて、どちらも天下統一までを書いたシミュレーションで、原稿用紙1000枚でした。
1000枚は、「長い話」だと思うんですが、天下統一までを描くから、そんなに枚数が必要なんだ、というイメージを持っていました。

魯粛のハイライトって、周瑜に蔵を贈る(上巻で収録)と、関羽との単刀会だけ。魯粛を主人公にしても、原稿用紙500枚も行かないと思ったんです。だから余裕を持たせ、魯粛の前半生を、少し余裕を持たせて膨らませてみよう…と思ったのが、運の尽きで。300枚くらい書いても、黄巾の乱が起きないぞ?と。
『魯粛伝』は、魯粛のポテンシャルを甘く見積もりすぎたせいで、原稿用紙800枚で、孫権に仕えるところまでしか到達できず。正直に言うと、孫権に仕えるという上巻の結末を先に書いて、そこに向かって物語のペースを上げました。これをやらないと、上中下になる。さすがに、書き続ける自信がないなと。

魯粛の家を、後漢を通じて脱税をしてきた中小豪族と設定し、先祖代々、蓄財と投資のノウハウが継承されてきた、と設定。魯氏の家長は、「利殖の義務」を自らに課し、民の生活を守っていると決めました。上巻の前半は、後漢との戦い。魯粛は孫権に、「漢王朝を諦めろ」ていうから、因縁は深かろうと。

『魯粛伝』上ですが、魯粛って孫権に仕えるまでは、政策運営者じゃないんです。後漢に従うべきか、抵抗してよいか、陶謙には?袁術には?って、投資先・加担先を検討する立場です。しかし、土地に縛られてはいるので、軍を差し向けられたら、服従を強いられる。制約の多いなか、後漢末を生き残る話。
『魯粛伝』上を書いてて(ぼくが)つらかったのが魯氏の先祖代々の蓄積が、黄巾の乱で破壊されるところ。楽しかったのが、後漢王朝の盛衰に対する予測や期待を先読みして、下邳王の発行した債券(下邳国債)を売買して、魯粛が儲けるところ。あと、袁術との関わりも。閻象の社会実験に付き合わされて。

本の完成・イベントでの販売

小説『魯粛伝』上は、昨夜、届いたんですけど、仕事で疲れてたし、開封できなかったんです。最高の表紙デザインを作ってもらったし、中身も全力で書き、自分がおもしろいもの、読みたい・買いたいものを書いて入稿したんですけど、怖くて。見たくなくて。ひと晩たち、あけてみたら、いい本でした!181205
『魯粛伝』試し読み(PDF)

公地、セット完了です。おさっちさんと一緒です!181209


つぎに、頂いた感想を載せます。作者としては、「よかれ」「おもしろくあれ」と思って書いていますが、物語がきちんと成立しているか、読者に届くかは、検証できないわけです。時間をあけて読んでも、自己愛・願望により、歪められる。そういうわけで、以下の感想は、作者にとって、安心材料になりました。ありがとうございました。これを燃料にして、下巻を書けそうです。 では、引用します。どうぞ。

おさっち @osacchi_basstrb さんの感想

佐藤大朗「魯粛伝(上)」。上巻では小豪族の長である魯粛が「金融」を切り口に乱世を生き残っていく様を描く。三国志マニアが陥りがちな過度な状況説明を魯粛が片田舎の豪族で状況が分からないという理由でカットし登場人物も絞っているのは見事で三国志にそれほど詳しくない人でも入っていけるだろう。
「投機」「先物」「国債」などの金融用語が並び最初は歴史小説とのギャップを感じたが、読むにつれ、魯粛の心理や行動を現代の我々が知る助けになることに気付かせる。下手に中国古典を引いて説明するよりは広く様々な方に読まれる小説として賢明であると思う。
もちろん三国志に造詣が深い著者は史実をベースに物語を構築しており若い頃の孫堅、陳登、劉曄などが登場するほか、著者が論考を出した袁術勢の人物も物語上関わる(魯粛の経歴上当然だが)ので三国志界隈が佐藤氏に期待する部分も大いに応えられていると言えるだろう。ぜひ皆様に読んでほしい本である。

引用おわり。知り合いだから、感想が優しいのかも知れませんけど、とりあえず、「見てほしいように、見てもらえた」のは、よかったです。ひと安心です。ほんと、不安だ、不安だ、って、こればかり感じてますので。181212

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