雑感 > SAVE THE CATで書く袁術に天下を取らせる話

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01 物語のジャンルを選ぶ

この記事は、SAVE THE CATで書く「三国志ファンが袁術に天下を取らせる話」です。作成のプロセスから公開してゆく、歴史小説の作成プロジェクトです。

なんのことだ??って感じだと思うんですけど、順に説明にすると、
ジェシカ・ブロディ(著)、島内哲朗(翻訳)『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』という本があります。
これに基づいて、システマチックに、おもしろい小説を書いてみようという訓練です。三国志の小説を書くのは、ぼくのライフワークのひとつですし、学問からの現実逃避でもあります。
ぼくは過去に、それなりに小説を書いてきたんですけど、毎回苦戦するので、今回は、ノウハウ本に丸ごと頼ってみようという趣向です。

ジャンル:絶体絶命の凡人

まず、物語のジャンルを選びます。
ぼくがやりたいのは、現代人(三国志ファン)が過去にタイムスリップして、後漢末に飛ばされて、三国志の知識を活かしながら、袁術に天下を取らせる話を書いてみたいと思います。
10あるジャンルのうち、絶体絶命の凡人に分類できるでしょう。

今回の小説は、主人公が世界を救う「選ばれし者」の話ではありません。

たとえば、『蒼天航路』のように、才能に恵まれた曹操が、後漢末に大活躍する話ではありません。

平凡なひとが、あり得ないような挑戦に打ち勝つ。極めて普通なひとが、普通じゃない状況に巻き込まれる。
読者に、「これは私の話!」と思ってもらうもの。三国志ファンであるぼく、そして、このサイトの閲覧者である「あなた」が主人公です。

普通のひとですから、世界を救う宿命を(少なくとも物語の冒頭では)負っていません。ところが、何も悪いことをしていないのに、始末に負えない大問題が起きます。対処する方法を知らない。そして、どうしてそんなことになったのか、見当もつかない。逆境が大きいほど、いい物語。

ただし、逆境の難易度は「相対的」である。凡人の背景や性格、知識や技術を考慮し、難易度を調整しなければならない。たとえば、熟練した宇宙飛行士が、火星に取り残されるのは、アリ。しかし、訓練を受けていないひとが火星に送り込まれても即死するのでNGだと。
今回の作品は、主人公が、三国志の知識を持っているという点で、知識や技術を「考慮」したものとします。まったく三国志を知らないひとが、後漢末に飛ばされたら、即死して終わりです。面白くもなんともない。

火星の苛酷な環境のように、主人公をいじめる「悪者」が、悪ければ悪いほど、凡人の行動が英雄的になり、物語が面白くなる。悪者は、自然の猛威でもよい。凡人が、逆境の裏をかいて勝つことで、読者は満足ができる。そのバランスが、完璧でなければならない。
問題解決に必要な知識や技能は、最初から与えておきましょう。その凡人のDNAに組み込んでおく。
同じく重要なのが、
究極の試練をつきつけられるまで、潜在的な知識や能力をどのように使って逆境を抜け出せるか、凡人自身が(読者も)把握していないようにする。

顕在化した知識は、三国志について知っている、で決まり。しかし、その凡人自身が気付いていない、潜在的な知識や能力というのは、宿題とします。


凡人の物語の構成要素

凡人と逆境を組み合わせる、構成要素。
①罪のないヒーローが1人
②突発的な事件が1つ
③生死を懸けた戦いが1つ

主人公が何も悪いことをしていない①が、巻き込まれる②のが大事。自分のせいで災難を招くのではない。主人公に、困難に陥る原因を作らせてしまっては、読者が「私の物語だ」と思ってくれない。ここがポイント。

『三国志平話』では、主人公が、三国時代の歴史について悪態をついたところから、冥界?を怒らせて、三国時代に転生させられる。歴史について批判する、ぐらいは、三国志ファンならば、誰でもやるだろうが、今回は採らない。

中国旅行をしているとき…というのは、コロナ禍でリアリティを失ってしまった。海外旅行ができないから、グーグル・アースで、擬似的に観光地をめぐっていたというのは、どうでしょう。誰でもやりそうだし、罪はない。

中国旅行をしていて、飛行機のなかで、龍に飲み込まれて、三国志の世界にいく…というのが、『龍狼伝』でした。あれも、当人たちに罪、原因がないという条件は満たしていた。


②主人公を痛めつける事件。これは、後漢末の戦闘でよい。見つけるのは簡単ですね。いきなり。理由もなく襲いかかる。主人公は、どうなっているか把握できずに慌てる。悩む時間がなく、③生死をかけた戦いとなる。

②③は、すんなり過ぎるほど決まりましたけど、それは、ぼくがやろうとしている小説が、うまく類型にハマっているからです。成功に近づけるための好条件です。

読者が、「どうすればいいの?」「ドツボじゃない?」と思ってくれたらよし。
あとは、緊張と緩和のバランスを取るため、主人公を慰めてくれる係が必要。恋愛対象など。これは、異性である必然性はないでしょうし、要検討。

このジャンルは、最後には人間の精神が勝利して終わる。凡人が生き抜いた!として終わる。試されたからには、簡単には引き下がらない!最後には困難を克服する!として、読み手を勇気づける。
ぼくの今回の話では、主人公が身の安全を確保して、建国の功臣になることがゴールか。
いちおう検討すべきなのは、現代に帰るのをゴールとするか。でも、そうすると、現代に帰る条件を分かっていなければならない。そこの設定を膨らませても、べつに面白くならない。やはり、その時代から戻れないとして、もしくは現代に戻りたくもない、ぐらいにして(要検討)、立場を確保させるのがゴールでしょう。

小説をマニュアル化する是非

成功する小説が、どう機能するのか。成功に必要な要素はなにか。これを学ぶのは、医学生が、人体を学ぶのと同じ。
「すべての物語は、もう語り尽くされている」というひともいる。しかし、新鮮さというものはある。新鮮に再解釈された、昔からの物語、読者と出版社が望んでいるもの。作者なりの語り直し。
読者がほしいのは、「いつもの同じもの…、でも違うやつ。読めば絶対好きになると分かっている物語が、今まで思い付かなかった方法で語られている」。ケーキを焼くとき、基本的な材料を外すとケーキにならない。しかし、アレンジやスパイスを利かせることができる。

読者や監督、出版社に売り込むとき、作品の流れを手短にまとめ、なぜ相手が読むべきか伝えなければならない。一番手堅いのは、他のどの作品と似ているか伝えること。「何に一番似てる? で、それとどこが違う?」に答える。

ぼくが今回、『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』を使うのは、この考え方を支持したからです。210315

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02 語るに値する主人公

上の記事で、絶体絶命の凡人の物語を書こう、と決めました。主人公は凡人(三国志の知識がある)ですけど、かれが、問題解決をしていく重要な人物でなければならない。
主人公に必要な3つの特徴。
1 問題(どうしようもない欠点)
2 求めるもの(主人公が求めるゴール)
3 本当に必要なもの(人生の教訓)

不完全で勘違いしている主人公

主人公は、完全無欠であってはならない。そんな物語は、読みたくもない。その問題は、その人の人生のある部分だけの問題に留めておかない。一度発症したら、みるみる問題を拡大し、感染する。問題が1つでも多数でも、絶対に主人公の家庭に、職場に、人間関係に、かれの世界全体に影響させること。

「この人生は、完全にドツボでは?」と思われれば、その主人公は、きちんと仕事をしているということになる。私たちがなぜ小説を読むのか。登場人物が問題を解決して、人生をより豊かにして、欠点を持った自分を改善するから。極めて不完全な主人公を、ちょっとマシな人間にしてこそ、素晴らしい小説となる。

それだけでは足りない。主人公は、何かを(死ぬほど!)求めていなければいけない。それを手に入れるために、行動を起こさなければならない。主人公は、自分に問題があることぐらいは知っており、どうすれば対処できるか(表面的に)分かっている。何があれば人生が良くなると考えているのか。それを求めて奮闘する。

ぼくの話では、主人公は、30歳手前の三国志ファンだが、現実をあまり受け入れていない。ここ以外のどこかに、自分が受け入れられ、活躍できる世界があると思っており、自己変革を拒む。ゆえに、会社?でうまくいっておらず、家族とも対立しがち。
かれが、ひょんなことで(グーグル・アースなどを見ていて)後漢末にタイムスリップする。科学の知識がある。歴史の結末について知識がある。というわけで、ここでならば活躍できると考える。優位に立てると考える。
表面的に思い付く、生き残るための目標は、最大勢力の「軍師」になること。たとえば、曹操が最終的な勝者になることが分かっているが、曹操の勝利は、綱渡りであったと分かっている。袁術か袁紹に自分を売り込んで、認めさせれば、それで安泰だと思っている。三国の鼎立すら回避して、袁氏に勝利を確約することで、自分は、建国の功臣として、豊かな生活をできると思っている。

主人公が求めるものが、具体的なものであれば、なおよい。その意味では、「官爵」が目標になる。
安易に手に入ることなく、「葛藤」「対立」「仇敵」が必要になる。この話では、知識でマウントをとれば、袁術に認められ、史実以上に袁術を勝たせることができ、自分は安泰だと思っているが、袁術当人や、袁術の部下、その他にジャマをされる。ここでも活躍できないのか?まさか、そんなはずはない。
求めるもの(高い官爵)を求めて、積極的に行動し、物語を推進。

主人公にとって本当に必要なもの

自分の人生をよくしてくれるものについて、主人公は勘違いをしている。深いところで自分を見直す。
自己啓発本のようになってくるが、よい小説とは、作者が主人公にとって、よき臨床心理士の役を演じること。主人公の抱えている本当の問題を特定し、診察して直してあげる。
主人公の皮膚のなかにあり、傷口が閉じて見えなくなった「ガラスの破片」を治してあげる。その傷こそが、主人公の行動の動機を決定し、間違いを犯させている。それを解決させる。

この2階層があり、主人公・読者を、ひとつ深いところに連れてゆくのが大切。


主人公が求めるのは、物語の外側、おもてにあるもの(Aストーリー)。カーチェイス、戦争、ケンカ、魔法をかける、毒殺するというもの。
ぼくの作ろうとしている話なら、袁術軍で軍師になること。袁術を史実以上に勝たせて、袁術から認められること。歴史に先回りして、天下統一を終わらせること。

しかし、おもて(Aストーリー)だけでは、小説にならない。
もうひとつ、主人公が人生を変えるために、本当に必要としているものを設定しなければならない。主人公を、語るに値する主人公としてくれるのは、もうひとつのBストーリー。主人公が自覚することなしに、思いもよらない答えにたどりつく。その教訓は、普遍的なものを選ぶべき。

いきなり、AだのBだのが出てきて、ぼくも軽く混乱しました。「おもて」と「ウラ」ぐらいの認識で十分です。たとえば、『ドラえもん』は、「おもて」は、不思議な道具の出てくる話、「ウラ」は、少年が成長する話、みたいな。

ウラのテーマになるのは、どんなものか。
自分や他人への赦し、愛、自分や状況や現実を受け入れる、自分や他人への信念、恐怖を乗り越えること、他者や未知のものへの信頼、生き残りたいという心、無私と自己犠牲、責任と任務遂行、罪滅ぼしや罪の受容。
ぼくの今回の話の、ウラのテーマBは、「受容」。自分自身や置かれている状況、現実を受け入れることが、隠れた旋律であり、物語の後半で、達成されていく…ということにしよう。

物語の書き手は、「いや、べつに教訓の本が書きたいじゃないんだ」、「普遍的な深い話じゃなく、ただアクションが書きたいだけ」と思うかも知れない。しかし、アクション小説も、名作であれば、魂の教訓が隠されている。ヒーローは、必ず何かを学び、変容して終わるもの。
読者はこれに飛びつく。魂の教訓があるから、読者はどこか別の(小説の)世界にいって、何かをした気分になり、経験をした満足感を得る。わざわざ何百ページも読むことに費やした時間が、ムダでなかったと思ってくれる。

その作者の本を、再び手に取ろうと思ってくれる、という効果を付け加えてもよいと、ぼく(佐藤)は思います。


主人公や舞台の設定の仕方

もっとも変容する主人公を選び、その主人公が変容できるような題材や舞台を選び、小説にする。もっとも変化をこばむ主人公となるのは?もっとも読者に近い主人公となるのは??

ぼくの今回の企画の場合、「21世紀日本の三国志ファンが、後漢末にタイムスリップする」です。これは、『SAVE THE CAT』の本を一読しながら、当てはまるものとして設定したので、これと整合しています。つまり、現実を受け入れることを拒んで、いろいろ上手くいかない主人公。現実逃避の妄想として、「オレが三国志の時代に行ったらば…」と考えている。
しかし、いざ後漢末に飛んでみたら、かえって受容しなければならない現実があまりに多くて、複雑なので、変容を迫られる。そういう話にしようと思います。

これは、三国志のファン像として、そこそこリアリティがあります。誤解を恐れずに言うならば、歴史好きは、現代や現実が嫌いです。不満があり、溶け込めていません。もし、現代に適応しまくっていたら、わざわざ過去に何かを求めたりしませんしね。


と、『SAVE THE CAT』に折り合わせながら、設定をしてきました。まさに、このサイトの文を書きながら、構想を練っています。

いろいろ言っていますが、単純に、「自分が後漢末に飛んだら?」という妄想をするのが好きです。つまり、ぼくが現代に適応できていないんでしょうね。
単純に、ぼくが過去に行って、『三国無双』するだけの話は、やっぱり面白くないだろうし、こっぱずかしいし、わざわざ印刷して売るほどのものか??という自問自答を乗り越えられなかったんです。そこで、『SAVE THE CAT』のセオリーに乗ってみようと思います。きっと、おもしろく書けると思います。210316

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03 15段階のプロット

絶体絶命の凡人が、生き残る話。21世紀日本の三国志ファンが、なんの理由も前触れもなく、後漢末に飛ばされる話。
不完全な主人公(現実を受け入れることを拒否)が、表面的なゴール(最大勢力である袁術軍の軍師)になることを追い求めた結果、読者の心にひびく本当に必要なもの、内面的なゴール(現実を受け入れること)に到達する物語です。

この不完全なキャラクターに、小説のなかで、なにをやらせるか。『SAVE THE CAT』式のビート・シートというものを使う。

ビートとは、キャラクターあるいは物語の流れを変える、物語のなかにある1つのイベントを指す。

途中の目標となる道路標識。寄り道は好きだけど、あらかじめ遠くまでの行き先を決めておけば、何ヶ月ものリライトの時間を節約できる。調整したり、場面を切ったり、登場人物に肉付けしたり。これらは後からできることだが、その前提には、中心となる道案内がなければならない。

リライトしまくっているうちに、何ヶ月も時間がすぎ、何の話だか分からなくなる。ぼくは経験あります。重症なのは、面白いのかつまらないのか、自分でも分からなくなるというやつ。これを避けるために、『CAT』の教本の力を借りようと思ってます。


全三幕、15段階から成る。引用者(佐藤)の理解、解釈を追記しながら、見ていきます。違和感のあるタイトルは、適宜、変更してます。

第一幕

01 始まりの光景(0~1%)ダイエットのビフォーの写真。主人公と世界が変わる前のスナップ写真。
02 語られるテーマ(5%)主人公以外のだれかが口にする一言で、主人公のこれからの道程(小説の終わりまでに、何を学び、何を発見しなければならないか)を予感させる。

ほのめかす。屋根の上で絶叫して説明したり、5ページを費やして説明してはいけない。読者に気付かれないように配する。どの観点で主人公が変容するかという、物語の軸の設定。

主人公は、たいてい忠告を無視する。

脇役、通りすがりのひと、一緒のバスに乗っているひと。よく知らないひと、信頼する理由がないひとが口にするならば、主人公が聞き流すのは自然だし、読者もスルーを受け入れやすい。変化を拒むというのは、リアリティを生む。

03 お膳立て(1~10%)主人公がいま生きている人生と問題を説明する。変身を遂げる前の世界。脇役を紹介し、主要なゴールを導入する。変わることに消極的な(学びたくない、テーマを修得したくない)主人公を見せる。変わらなかった場合の代償を示唆する。

主人公の問題を、最大限に見せる。その欠点は、人生のあらゆる場面に影響する。家族、友達、仕事、遊びのときにも、同じ欠点を見せる。これにより、人間としての主人公が読者に理解される。「修理が必要な部分」。なぜ主人公は、このストーリーのなかに旅立たないといけないか。その欠点を持っているからだよ。

04 触媒(10%)きっかけになる事件、人生を変える出来事。主人公は、否応なしに新しい世界に追い込まれ、二度と同じ考え方ができなくなる。能動的なアクションの場面。二度と、「お膳立て」の現状に戻れないように、大きく扱う。

多くの場合、悪い知らせ。郵便、電話、死、解雇、不治の病として知らされる。この知らせが届くまで、主人公は変わろうとしない。読者は暗黙のうちに、この悪い知らせがきて、主人公が状況に投げ込まれるのを待っている。「絶対に解決が無理」な対立がよい。主人公が変容せずとも切り抜けられそうなら、対立が弱い。

05 問答(10%~20%)触媒に対する反応をみせる。主人公は、これからどうしようと悩む。損得勘定により、自問自答として表現される。変わることに消極的な主人公を見せる。

訓練、心や体の準備、感情の整理をする。止められても、このままいくか。主人公に、そして読者に覚悟を決めさせる。
今回のぼくの話では、戦争に参加せずに、民に紛れることで、後漢末をやり過ごそうとする。現実を受け入れることを拒否して、回避につぐ回避で、乗り切ろうとする。しかし、在野のほうが命の危険が大きいということで、主人公が決意をする。


02 語られるテーマと、04 触媒は、ピンポイントで起こる事件です。01 始まりの光景も、幅を持たない「点」の出来事ですね。アンダーラインを付けておきました。一方で、03 お膳立てと、05 問答は、前提と、前提への執着。
03 お膳立てでは、前に進まなかった場合のペナルティが示されることが大切で、主人公=読者が、この物語に付き合うことの必然性を生む。05は、その世界観に投入されたことに、主人公が抵抗する。

第二幕

06 二幕に突入(20%)居心地のよい日常を抜け出して、行動を起こせという運命に応答を始める。新しい見方で世界を眺め始める。主人公が、決定的で能動的になることで、「第一幕とはひっくり返った世界」が始まる。

主人公は、必ず新しいことを試みなければならない。弱気でも、優柔不断でも、賢くなくても、とにかく主人公が動くことが、読者から応援を受ける資格となる。ここでの行動は、能動的であるが、「直すつもりで壊している」。一足飛びに、ウラテーマを解決させてはならない。

07 ウラテーマの導入(22%)新しいキャラを、1人か複数入れる。主人公がそのテーマを自分のものとして受け止める、手助けを担う。恋愛対象かも知れない。宿敵、指導者、家族の誰かかも知れない。

主人公が、ウラテーマを助けてくれる。第一幕からひっくり返った、第二幕の世界の住人。ひっくり返った世界を、何らかの形で体現している。何らかの手段で、主人公がテーマを受け止める助けになる。
先取りすると、ぼくの今回の話では、袁術集団がここに入る。第一幕では、どこかの軍閥に属さずに生き残ろうとするが、それじゃあムリだと気づき、最大勢力として袁術軍に就職する。

08 お楽しみ(20%~50%)新しい世界にいる主人公を見せる。新しい環境を、楽しんでいるか嫌っているか。うまくやっているか、全然ダメか。ここは、読者が期待している場面であり、お約束の場面。「弾むボール」。あの手この手で変化をつけて、読者を楽しませる。主人公を加虐していくのがよい。

この「お楽しみ」は、作者が書きたいところであり、読者が「これこれの話が読みたい」と思って、手に取るところ。読者ならば、そこで扱われる題材を期待して小説を購入すればいい。しかし作者は、01~07で土台を固めてから、08 お楽しみに入らねばならない。読者の期待に引き摺られて(期待に応えるかたちで)お楽しみばっかり描いていると、途中で行き詰まる。もしくは、完結しなくなる。
ぼくの話では、「歴史の結末を知っているという特権を駆使して、史実ではボロボロだった袁術軍を勝たせる」というのが、この「お楽しみ」パートになる。

09 偽りのゴール(50%)お楽しみのプロセスを回遊した結果、主人公は、偽りの勝利、もしくは偽りの敗北をして、突然終わる。まだ人格的に欠陥を抱えたままの主人公が、とりあえず新世界に適応し、かれの見える範囲で努力した結果が示される。主人公は、おおいに整合的にがんばってきたが、まだまだ、ウラのテーマには接近していない。

ぼくの話では、主人公が、めでたく袁術軍の軍師に就任する。最大勢力で、高い官職に就いてしまえば、外部から攻め込まれることもないし、前線に立つ必要もないし、これで安泰だ。後漢末で生き残ることができた!と、ぬか喜びする。


突然、前半戦が終わったとき(作中で何かが起きて)、もしも主人公が人格的に変容せず、ウラのテーマに到達しなかったときの代償が大きくなり、ハードルを上げる。変わる必然性を高める。読者をドツボにはめていく。

ここで読者を引きつけておかないと、この作品は失敗。だって、08 お楽しみは、もう十分に見せ終わっている。後半も、この繰り返しだったら、もう読まなくていいですよね。同じタイプ、直線的な進捗や成長が描かれるだろう…と思われてしまったら、主人公はレベル1→レベル50になったところで、読者は満足する。レベル50→レベル100に行くんでしょ、はいはい、分かったよ。レベルが1桁のときのほうが面白いし、マンネリだねと。

この中間地点で、主人公が、「量的に不完全」ではなく、「質的に不完全」なのだと。前半で見せてきた 08 お楽しみとは、別のベクトルのがんばりを見せないと、物語は完結し得ない(主人公は救われない)ということを、読者にきちんと分からせる。だから、この本を途中で置かないでね!!

作中で、主人公に、「本当の欠点と向き合わないと、時間切れだよ」「本気を出さないと、まずいよ」と分からせる。
ぼくの作品だと、生半可に袁術軍の重鎮になってしまったがために、皇帝即位の問題に深く関与せざるを得ない。史実のイベントでは、195年末~196年に、献帝が長安を出発する。それにどのように対処するか、意見を求められる。前半は、歴史の後知恵だけで、戦闘に先回りすることはできた。しかし、現実をきっちりと受け入れて、漢帝国をどうするか、自分の頭で考えなければいけない。いよいよ、袁術を勝たせて、自分の地位を上げるだけでは、解決しない大問題に直面していることに気付かせる。


中間地点では、パーティや祝宴が出てくる。主人公は、じつは心では、第一幕のまま。大勢の前で、第二幕の一員になったことを宣言させる。これにより、引っ込みが付かなくなる。
ここで、前半(A)で仮初めに得たものと、後半で得るべきもの(B)が交わる。Aで得たものを解除しなければ、Bが達成されないという状況に主人公を追い込めたら吉。主人公に、今まで(前半)のやり方では、これから(後半)を乗り切れないことを分からせる。

10 忍びよる困難(50~75%)中間点で偽りの勝利ならば、ここから主人公は下り坂。中間地点で偽りの敗北ならば、ここから主人公は上り坂。表面的には、ペキンと折れ曲がっているが、その表面的な好調・不調とは関わりがなく、主人公を深くむしばむ欠点が忍びよる。このままでは破局する。前半と同じように、その世界のなかで頑張っていても、未来がないぞ!!というパート。
困難というは、外部から来てもいいけれど、主人公自身の欠点が、この困難に含まれ、関わっていなければならない。いよいよ主人公が、逃げることができないのだ、となる。正しくテーマに適った方法を選択しない限り、この困難は暴れ続ける。

11 完全なる喪失(75%)完全なる喪失。主人公にとって、どん底を経験させる。能動的に、主人公に行動させ、その結果として、内なる欠点と一緒なって、困難に叩き落とされる。

うまくいくだけの話は、ひたすら面白くない。だから物語を2つに割って、「前半は苦労し、後半は改善される」となる。これでも単調なので、さらに2つに割る。つまり、4つに割るという教え。
まず、現状から引き剥がされて「量的に」苦労し(~20%)偽りのゴールに到達する前半(~50%)と、偽りのゴールに甘んじることが許されず、むしろ仮初めにゴールしたからこそ、より事態が深刻になったんだ、という「質的」な苦労が、75%でどん底を形成する。
仮初め、生半可な努力により、かえってドツボだぞ…ということを、読者に分からせながら、50%~75%を描かねばならない。単純に、20%~50%で積み上げたがんばりが、それと同じレベルで、「量的に」否定されてはいけない。読者が、20%~50%を読んでくれたことを、ムダにしてしまうから。
欠点のある主人公が努力するとしたら、20%~50%のやり方であったし、それは悪いものではなかった。しかし、50%時点に到達したからこそ、初めて見えてきて顕在化する困難が、副作用スイッチが発動する困難が、あったんですよ。ということを、50%~75%で見せる。

喪失には、「死」を伴うと便利。とくに師匠キャラが死ぬ。主人公が、はじめて内面を深く見つめることになり、自分のなかに答えを持っていることに気付く。古い世界が完全に破壊されないと、生まれ変わることができない。

12 どん底を彷徨う(75~80%)前段の11 完全なる喪失を受けて、主人公がこれまでを振り返る。状況は、小説の序盤より悪くなっている。夜明け前が、一番暗い。主人公が自分の抱えている、ウラテーマの問題に気付き、それを解決する方法を考え、人生の教訓を得る。

分数の計算で、1/2+1/4+1/8+1/16 … =1
というのがあります。物語は、ダウン&アップの反復。あまり複雑にしても、グチャグチャになるから、4分割、もしくは8分割が推奨されている。その分割は、量的な変化(小手先の変化)→質的な変化(教訓を含めた変化)のように、階層やパターンの違う反復でなければならない。変化のパターンが同じまま、むやみに往復をさせると、読者が付き合い切れない。周期が短くなっていることに注意。

主人公は、過去を反省して分析する。ここだけ、後戻りが許される。慣れ親しんだところに帰ることも。出発点に戻すのが便利。昔の友人や配偶者と再会するのもよい。しかし、昔の居場所に戻ったところで、ちっとも居心地が良くない。もう第一幕の人間ではない自分に気付く。第一幕に戻ることで、ここまでの変化の幅が際立つ。

第三幕

13 第三幕に突入(80%)主人公が、「あは!そうか!」となる瞬間。変わるべきは、自分自身。誰のせいでもない。言い訳もない、近道もない、ズルもない。第二幕のすべての問題、すなわち、75%でどん底に叩き落とされたところから、修復する方法に気付く。悟る。ただし、すぐに実践できるわけではない。

実践の試行錯誤が、残りの1/8で繰り返される。「質的な変化」を受け入れたが、それを実現するためのPDCAを回さなければならない。

14 最終戦(80%~99%)主人公が改善策を実行する。ウラのテーマを修得したことを証明する。悪者は破滅し、欠点は克服され、愛する者はよりを戻す。

最終戦は、さらに5段階に分割できる。
①チーム、協力者、道具を万全に集める。②作戦を実行する。万全に準備したものの、その作戦は困難を伴うべき。個人的な見せ場を作ることができる。第二幕で仲間になったひとが、脱落していくのもここ。③高い塔でビックリ仰天。いよいよ攻め込んだ高い塔に、お目当ての姫がいない。主人公は、心の奥底まで潜って、価値を見つけなければならない。④問答をして心理を探り宛てる、小説のテーマ、主人公が克服した欠点、主人公が変容した証拠が示される。聖なるものに触れることができる。⑤新しい作戦を実行し、いよいよ最終勝利。「やらぬ後悔よりも、やって後悔」のポリシーで、いろいろ挑戦してみる。

典型例は、『鬼滅の刃』ですよね。①初めは敵対していた、強い仲間たち(柱)が協力的になり、②ボスの城に飛び込むが、仲間たちががんばって成果を出しつつ、脱落し、③ボスを朝日で焼き殺したと思ったら、じつは戦いは続いていて、④精神世界で問答を仕掛けられ、⑤不老不死への申し出を突っぱねることで最終勝利。
『鬼滅の刃』は、④の出来が悪かった。主人公の利他性は、最初からレベル100だったので、変容する必要がなかった。だから、ボスからの精神攻撃を、容易にはじき返してしまった。ゆえに、⑤最終勝利は、ただの必然に見えてしまった。

15 終わりの光景(99%~100%)始まりの光景を反転させたもの。アフターの写真。75%のどん底を切り返した結果、すべてが解決する。

ぼくの物語は、第三幕は、まだ具体的には思い付いていませんが、『SAVE THE CAT』の15段階は理解できましたし、物語の筋道はできました。210316

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