雑感 > ツイートなど、まとめ・追記

全章
開閉

翻訳をめぐる三すくみ

今年(2020年)の『三國志研究』に、
五藤嵩也先生の「毛宗崗『讀三國志法』訳注」が掲載されてます。毛宗崗が、分析的に『三国志演義』を読んでいたことが分かります。

毛宗崗曰く、素人が物語を作ると、曹操・劉備・孫権を同時に登場させ、同時に建国させるが、『三国志演義』ではタイミングが違って巧みだという指摘も(笑)


翻訳をめぐる三すくみ

五藤先生の翻訳を読みながら、考えたんですけど、
翻訳をめぐる三すくみ・トリレンマ的なことがあり、

①専門家は、一箇所でも間違えると評価が下がり得て(百害あって)、業績として評価されにくい(一利なし)。論文において、論旨に不必要なところに敢えて触れるニーズがない。シビアな環境下、経済的メリットが少ないから、時間をかける理由がない(時は金なり)。

人間の行動は、個人の「徳」だけじゃなく、システムや環境で決まる面が多いと思います。誰かを強引に操縦するのは無理で、システムや環境を調整し、もしも行動の変容があったらラッキー、という距離感です。
ある中国の歴史や文学のテキストの「翻訳がない」というのは、相応のシステムや環境の結果と捉えます。
たとえば正史『晋書』の翻訳が出版されていないことは、ファンになりたてのころは、「専門家はご自身で読めるのだから、そこで自己完結せずに出版して下さったらいいのに」と、ポジティブな怨み(?)を持ったものですが、これも個人の「徳」ではなく、システムや環境の問題だとして捉えています。


②ファン(非専門家)は、自分でテキストが読めないし、それ以前にテキストの存在やその面白さを知り得ない。内容を知りたいというニーズを持ち得ない。

たとえば毛宗崗『読三国志法』は、ぼくには認識が薄く、翻訳に出会わねば、読みたいというニーズすらなかったです。


③時代や国が異なるテキストに関心はある、オブザーバー。彼らは「こんな簡単な文の翻訳が、わざわざ発表されるなんて、日本の学術レベルは低下した。世も末だ」といって、翻訳のモチベーションを砕きます。専門家が翻訳することを牽制し、非専門家をテキストから遠ざけます。

塩 @satohkun_ さま曰く、ちょっと方向性違うけど、時々これに近い思いは抱くな……「えっ、これわざわざ訳する意義ある?」ってふと気持ちがよぎる。ただ、その時「ローラー作戦で行く」と決めたことによるいい意味での機械っぽい取り組みであることがねじ伏せてくれる。

ぼくは、塩 @satohkun_ さまに同感です。
『晋書』への入り口を増やすため『資治通鑑』晋紀を訳してますが、誰をこれに任じ、どこに駐屯し、誰と戦い…と、平易に感じられる文が多く、"作業"になることもありますが、とりあえず、「『資治通鑑』晋代の日本語訳が、全体を通じてある」という状況を作ることが、誰かへのgiveになれば…と思ってローラー作戦をしています。

翻訳をめぐる状況は、①専門家、②ファン、③隠然たるオブザーバーによって膠着します。膠着が起きるのは、日本の経済力?国力?、ネット文化?とか大きな分析もできましょうが、さておき、
あるテキストについて、「翻訳が存在しない」という状況、膠着と停滞を打ち破り、シャッフルができるとするならば、①②③のいずれにも属さず(もしくは、いずれの性質・観点も併せ持った)、どっち付かず&蛮勇の持ち主だと思います。そういう人に私はなりたいです。

私がやりたいこと

私が若いときから(ゼロ年代半ば以降)、文系学問をやりにくくなった…という歎きをよく聞くんですが、
いわゆる、「専門家なら読めて当然」のテキストの翻訳がたくさん発表されることって、日本の文系学問にとって、下ひげ、底打ちのシグナル(相場の用語ですみません)になるんじゃないか、というイメージで、買い向かっています(また相場の用語ですみません)。

三国志を勉強するために会社を休職してます。月初・四半期、週末の朝から時期にツイートできるのはその産物でして、 自分でも分かりませんが、専門家とファンのあいだを行き来するトリックスター的な活動(←自分で言うことではないですが、思い付いたので言語化します)をするのが目標で、翻訳はそれに関わる何かって予感があります。

以上のようなことを考えながら、
正史『晋書』完訳プロジェクト/いつか読みたい晋書訳をやっています。
宜しければ、ご覧くださーい。201002

閉じる

『晋書』完訳プロジェクトを盛り上げるために

正史『晋書』完訳プロジェクトを主催しています。
それを通じて、考えたことを連ねていきます。201014

晋代を題材にしたおもしろい作品を作りたい

『晋書』完訳プロジェクトを成功させるには、2つの側面があり、
1つ、コンスタントに翻訳をアップロードできる体制を作る(難しければ自分も手を動かす)こと。
2つめに、翻訳が利用される環境・材料を作る。つまり、晋代はおもしろいですよていう普及活動です。2つめの利用の視点も入ってきました。

『晋書』完訳は、一撃でリリースして終わりでなく、長期戦です。1まず完成させ、2その後に宣伝すればいいというものじゃなく、 日本で、晋代や五胡十六国への気運が高まれば、翻訳をして頂ける専門家と出会える、作業が捗り早期完結が期待できる、支援のお金も集まるはず…という期待ができます。

晋王朝や五胡十六国の気運を高めるため、正攻法かつ本来的な活動は、たくさん正史の翻訳をアップし、Google検索にヒットさせ、興味や勉強意欲が挫かれない環境をネットに作ることなんですが、
他には、『資治通鑑』現代語訳をやろうとしてます。あとは、おもしろい晋や五胡の物語・作品ですよね!!

おもしろい晋王朝や五胡十六国の物語・作品!!
どうやって作りましょうか…。ぼくが1人でやるより、コラボ企画をやれたら、すごくいいと思うんですよね!!
どんな小さくて無謀な思いつきでも、書いておくことに意味があると思ってます。実現する可能性が1%でも上がればラッキーです。考えます!!200929



ファスト・パス

ファスト・パスを作りました。面白いと思って設定をさせて頂いたんですが、リリースして1週間が経過し、ひとつも「販売実績」がないんです。ぼくに対処可能な範囲で、反省会をしてみました。今からツイートしていきます。



ご支援金:20,000円(優先順位指定権+お名前を表示する権利)
2022年末を目標に、『晋書』全130巻の翻訳を進めています。現状、翻訳者の希望により、着手する巻を決めています。翻訳者に選ばれなかった場合、後回しにならざるを得ません。
この「優先順位指定権」をご購入いただきますと、ご希望の巻(1巻分)は、決済完了から "3ヵ月以内" の完成を目標とし、優先して運営者が依頼・調整・作成等をします。…という仕様です。

ネットショップに「陳列」しておくコストはゼロです。プロジェクトのお財布から、金銭的な持ち出しはありません。ですから、1週間であきらめることあく、このご支援の入り口は、掲載を続けていきます
https://3guozhi.thebase.in/items/34496204

ファストパスの失敗を受けて

晋書プロジェクトの発端は、「三国志の続きが気になるが、何が書いてある本なのか、よく分からない。気軽に読めたらいいな」です。
何が書いてあるか分からないが、何となく面白そう?!という前提なので、内容を先取りし、「これを優先して訳してほしい」という声を受け付けるのは、設定からして、矛盾していたかも知れません。

五胡十六国のファンのサイドから、晋書の内容への期待や言及は頂いているんですが、漢民族サイドのファン(へんな言葉ですね)にとって、晋書はあんまり魅力的じゃなく思われるんです。三国志の子孫の結末は気になりますが、そもそも誰の子孫がどこにどれほど載ってるかも、一見分かりません。
西晋の佐命の臣(司馬氏の取り巻きとして晋を建国した高官)の翻訳が、あまり載っていないのも、次の課題だと認識してまして、三国志ファン、漢民族サイドのファンに、「おや?晋書もアリかも?」と振り向いて頂くには、必須なのだと思っています。

『三国志』巻十五は、劉馥伝の裴松之注には西晋末の「群雄」劉弘の列伝が付いてるし、劉馥伝の次は司馬朗伝(司馬懿の兄)だし、賈逵伝(賈充の父親)も入ってるし、実質的に『晋書』ですね。ともあれ、この巻は刺史として治績のあった人まとめ。刺史として成功すると子孫が繁栄しがち。


どういう形がよいのか分かりませんが、晋代の史実を紹介したり、完成した翻訳を活用、引用、考察、そして創作することも、プロジェクトの運営者として仕掛けていくフェーズなのかなと思っています。むしろ、ぼく自身がウェブサイトを通じ、そちら方面から出てきた人間です。やりたいことでもあります。
プロジェクトが開店休業ではいけないので、ぼくが先行して作業し、翻訳の掲載量を増やしました。ウェブ検索の結果に対し、「ここに晋書の情報がある」という旗を立てました。必要なことだから、早い段階でやりましたし、良かったと思ってますが、ベストな形か?ぼくの役割は何か?という自問自答は、毎日やってます。

翻訳は、翻訳として数十年単位で参照される仕事です。考察や分析は、年々更新されていく(べき)寿命の短い(短くあるべき)営みです。古典的な新書、『ゾウの時間、ネズミの時間』です。
ぼくが晋書を訳しながら思ったことがあっても、翻訳に直接書き込むことはできないので、形になってないです。書き散らかしたいです。


おまけのお知らせ:
ウェブで書くべきことではないので書いてきませんでしたが、『晋書』の翻訳を担当してくださる方は常時募集しています。学位で限定せず、興味による立候補もお待ちしています。ツイッターにDM下さい(@Hiro_Satoh)。もしくは、メール hirosatoh0906@yahoo.co.jp にご一報ください。
漢文の力に課題は多いものの、主催者(佐藤)がバックアップします。ネットの衆知をお借りしています。矢面にも立ちます。201014

閉じる