| | 『史記』より、尭舜禹の禅譲劇 | 1)性格の悪い、帝尭 | 三国ファンが避けて通れないのが、禅譲というイベントです。よく聞くんだけど、実はよく分からない。 「同姓の親族ではなく、異姓の有徳者に位を譲る」 とは言える。高校の定期試験の記述問題なら、これを書けば格好は付くかもしれない。だがファンは、そんな辞書的な理解に甘んじるほど、ぬるくないはずです(笑) そこで今回は、『史記』の本紀から該当箇所を抜き出して、勝手に物語り調にアレンジしてしまいます。 ◆尭の政治 いまは、舜の時代。 西暦に直すと・・・とか、野暮なことを言ってはいけない。司馬遷が各地を歩き回り、 「たしかに伝承は息づいている。これは神話ではなく、実話だ」 と確信して、『史記』に書き留めた聖人のエピソードだからだ。
帝尭は、天のような仁愛、神のような知恵を持っていた。富貴でも、黄色の冠と黒色の服を着て、赤い車を白い馬に引かせた。司馬遷は、この記述によって、 「帝尭は質素な人だ」 と読者に印象付けたいようだが、失敗である。だって、『史記』どおりにコスプレしたら、かなり派手だ。五行思想に基づいたカラーリングで、漢字ばっかの難しい理論的裏づけがあるんだろうが、センスや見た目の自然さは別の話である。
帝尭は、人間関係の調整が上手くて、親戚の全員が仲良くなった。仲良しの親戚の範囲は、「九族」らしい。祖父の祖父から、孫の孫まで、仲良くなったらしい。 核家族な日本の、人がまばらな正月風景は論外としても、範囲が広すぎる。
親戚はむつまじく、互いの才能をよく知って、役割分担をうまくやった。
みな職分に成果を出したから、万国は和やかになった。 暦を整えて、農耕や牧畜に成功した。
◆後継者選び 帝尭は、天下を譲ることを考えた。 「次の天子は、誰がいいかな」 「帝尭さまのご嫡子がいいでしょう。物知りで、洞察力があります」 「あいつは頭が固くて、訴訟が好きだ。いけない」 この帝尭の発言で、天子に不適格な性質が、ひとつ示された。理屈ばっかり捏ねて、融通が利かないと、天子にはなれない。皮肉な話だが、史上初めての禅譲を受けた王莽は、このタイプだよな。 「じゃあ、共工さんなら・・・」 と別の候補を重臣が挙げると、 「共工は、口がうまいだけ。恭しくしているが、胸のうちでは、天を侮っている」 と却下した。
自分で却下しといて、帝尭は苦しんだ。 「ああ、洪水がひどい。治水できる人はいないのか!」 けっきょく土木工事のリーダーが欲しかったということが、ここで暴露された。人と話しているうちに、ニーズが明確になることは、よくある。ショップの店員に期待される役割である。 治水は自然相手の仕事だから、現場系の人材を、次の天子にしたい。 「それなら、鯀が適任です」 鯀は、コンと読む。名前に「魚」が入っているから、半魚人みたいな人だろう。魚なら、黄河を熟知できるから、治水はお手の物だ。 だが、帝尭は拒んだ。 「あいつは、私の命令を聞かず、一族に迷惑をかけた。ダメだ」 禅譲を受けるには、先代の命令に忠実でなければならない。後世、禅譲という演出をする人にとっては、目障りなルールだ。
さて、ここで疑問。 帝尭は、本当に聖人だろうか。だって、代わりのアイディアがないのに、他人の提案を批判ばかりしている。あまり付き合いたくないタイプである。睦まじく付き合えない。 群臣は、飽きたんだろう。 「とにかく、鯀に任せて、しくじったら交代させましょう」 「・・・それでいい」 帝尭は、交代させる可能性を残して、後継者を借り決めした。為政者として、大失敗である。きちんと後嗣を決めなくて、国が乱れた事例は多い。いくら帝尭が超古代の人で、失敗した先例を記した歴史書を読めない立場だからって、それぐらい想像力で補ってほしい。 9年後、 「やっぱり、鯀ではダメでした」 という結論が出た。 内定者という不安定な身分のまま、9年間も天子並みにツラい仕事をさせられ、クビを斬られた鯀は、被害者です。 「帝尭の一族は、互いに特性を熟知し、適材適所した」 という、ちょっと前の記述は、真っ赤なウソだったことが判明しました。帝尭の一族は、人なしか。 っていうか、9年と言わず、9週間で判断してくれよ。ヨーグルトなら2週間で結果が出るのに。
◆舜の登場 帝尭は、困り果て、重臣たちにグチった。 「私は70年も天子をやっている。もう疲れた。お前たちを今日まで見てきたが、政治をソツなくやれる。誰か、天子を代われ」 自棄になった丸投げである。 「適当なことを言ってはいけません」 と群臣が断ると、 「もう血筋が貴かろうと賤しかろうと、世捨て人だろうと、誰でもいい。とにかく天子の後任を探せ。私はもう隠居したい」 ムチャクチャな命令だ。 「畏れながら・・・盲人の子で、虞舜という人がいます」 「ほお、どんな人物か」 「いい歳をして、妻を娶りません。父は頑固で、継母は誠意がなく、口うるさいだけの女。弟は傲慢なヤツです。ですが虞舜は、最低最悪の性格の家族たちを取り持ち、姦者にならないように導いています」
特に『史記』は言っていないが、虞舜が結婚していないのは、家族のせいだ。そんな家庭環境に、誰も嫁ぎたくない。しかし、帝尭は根性が悪い性格を発揮して、 「私の娘2人を、虞舜にやれ。虞舜が、私の娘をどのように教育・感化するのか見てみたい」 と言い出した。 ウソである。本音は、 「いかに虞舜と言えども、父・継母・弟の世話だけで、手一杯だ。娘たちがストレスを抱えて、出戻ってきたら、虞舜を責めてやろう」 だね。帝尭は、他人の提案をつぶすのが好きだ。 「やっぱり虞舜もダメだった。適任者はいないのか」 と、言いたくて仕方がない。
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このコンテンツの目次 『史記』より、尭舜禹の禅譲劇1)性格の悪い、帝尭 2)虞舜に死んでほしい 3)割を食わされた帝禹 4)マジシャンの王莽 |
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