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『晋書』列伝70、反逆者の列伝 3)張昌
張昌
張昌,本義陽蠻也。少為平氏縣吏,武力過人,每自占卜,言應當富貴。好論攻戰,儕類鹹共笑之。及李流寇蜀,昌潛遁半年,聚黨數千人,盜得幢麾,詐言台遣其募人討流。會《壬午詔書》發武勇以赴益土,號曰「壬午兵」。自天下多難,數術者雲當有帝王興于江左,及此調發,人咸不樂西征,昌黨因之誑惑,百姓各不肯去。而詔書催遣嚴速,所經之界停留五日者,二千石免。由是郡縣官長皆躬出驅逐,輾轉不遠,屯聚而為劫掠。是歲江夏大稔,流人就食者數千口。

張昌は、もとは義陽郡の蠻族である。
若いとき平氏縣の役人になった。張昌は、武力が人より優れていた。張昌は自ら占卜して、
「私は富貴になるぞ」
と言った。張昌は攻戰(軍事)について論じるのが好きで、友人たちはそんな張昌をいつも笑った。
李流が蜀を寇すると、張昌は逃げて半年潜伏し、与党を数千人集めた。幢麾(指揮旗)を盗んで手に入れ、役所に仲間を遣って、
「私たちは、李流を討ちます」
とウソをついた。
たまたま《壬午詔書》が発せられ、武勇のある人は、益州に赴いた。これを「壬午兵」という。
天下は多難となり、數術する人(天文が読める占い師)が言った。
「帝王は、江左(揚州)に起こるだろう」
いま李流を平定するために徴兵されて益州へ進むなら、西に行かねばならない。江左とは逆方向だから、みな西征するのを喜ばなかった。張昌の与党は、西に行きたくないので誑惑した。百姓たちも、西に行くことを嫌がった。
「ぐずぐずしないで、西に早く行け」
と、厳しく急かす詔書が出された。
「荊州と益州の境界に5日間停留したら、太守はクビだ」
郡縣の官長たちは詔書にびびって、出兵を強行した。それほど進軍しない内に、募兵たちは太守に反発し、群れて劫掠をするようになった。
この年、江夏郡は大豊作だった。江夏郡に流れてきて、食にありついた人は、数千口(戸)もいた。

太安二年,昌于安陸縣石岩山屯聚,去郡八十裏,諸流人及避戍役者多往從之。昌乃易姓名為李辰。太守弓欽遣軍就討,輒為所破。昌徒眾日多,遂來攻郡。欽出戰,大敗,乃將家南奔沔口。鎮南大將軍、新野王歆遣騎督靳滿討昌於隨郡西,大戰,滿敗走,昌得其器杖,據有江夏,即其府庫。

太安二(303)年、張昌は安陸県の石岩山で群れていた。義陽郡を去ること80里、流人たちや「壬午兵」の軍役から逃れた人が、多く張昌に従った。張昌は姓名を「李辰」と改めた。
太守の弓欽は、軍を遣わして張昌を討とうとしたが、逆に張昌に破られた。張昌に従う人は、日ごとに多くなり、ついに郡に攻め寄せた。弓欽は出て、張昌と戰かったが、大いに敗れた。弓欽は家族を率いて、南方の沔口に逃げた。
鎮南大將軍で新野王の司馬歆は、騎督の靳滿を遣わして、張昌と隨郡の西で戦わせた。大戰し、靳滿は敗走した。張昌は、騎督の器杖を手に入れて、江夏郡に拠り、府庫を手に入れた。

造妖言雲:「當有聖人出。」山都縣吏丘沈遇于江夏,昌名之為聖人,盛車服出迎之,立為天子,置百官。沈易姓名為劉尼,稱漢後,以昌為相國,昌兄味為車騎將軍,弟放廣武將軍,各領兵。于石岩中作宮殿,又於岩上織竹為鳥形,衣以五彩,聚肉於其傍,眾鳥群集,詐雲鳳皇降,又言珠袍、玉璽、鐵券、金鼓自然而至。乃下赦書,建元神鳳,郊祀、服色依漢故事。其有不應其募者,族誅。又流訛言雲:「江淮已南當圖反逆,官軍大起,悉誅討之。」群小互相扇動,人情惶懼,江沔間一時猋起,豎牙旗,鳴鼓角,以應昌,旬月之間,眾至三萬,皆以絳科頭,扌替之以毛。江夏、義陽士庶莫不從之,惟江夏舊姓江安令王傴、秀才呂蕤不從。昌以三公位征之,傴、蕤密將宗室並奔汝南,投豫州刺史劉喬。鄉人期思令李權、常安令吳鳳、孝廉吳暢糾合善土,得五百餘家,追隨傴等,不豫妖逆。

妖言を作って、張昌は言いふらした。
「聖人が出現しそうだぞ」
山都縣の役人である丘沈は、江夏郡で妖言を聞いた。丘沈は、張昌の名こそ聖人になると思った。丘沈は車服を盛んにし、張昌を迎えて「天子」とし、百官を置いた。
丘沈は、姓名を「劉尼」と変えて、漢皇帝の後裔だと称した。丘沈は、張昌の相國となった。張昌の兄の張味は車騎將軍となり、弟の張放は廣武將軍となり、それぞれ兵を領した。
石岩の中に宮殿を作り、岩の上に竹を織って、鳥の形を作った。衣は五彩とし、肉を集めてそばに置くと、鳥が群集した。鳥の群れを指差して、
「鳳凰が降りたぞ」
と偽った。
また、珠袍、玉璽、鐵券、金鼓が、地面から出てきたと言った。
〈訳注〉王莽や劉秀が利用し始めて、三国時代ですっかり定着した瑞祥の演出です。
大赦をして、建元神鳳、郊祀、服色は漢代の故事に拠った。張昌の徴発に応じなかった人は、族誅された。
また訛語を流した。
長江と淮水より南は叛逆を図った。官軍が大挙したが、ことごとく返り討ちにあった(張昌が勝った)」
小さな数多くの勢力は、互いに扇動し合った。人情は惶懼(恐慌)し、長江と沔水の間の地区は、いちじ猋起した。牙旗を豎て、鼓角を鳴らし、張昌に呼応した。旬月(10日)の間に、張昌に応じる人は3万人に至った。みな赤い科を頭髪の毛に挿していた。
〈訳注〉蛮族の習俗?
江夏郡と義陽郡の士庶で、張昌に従わない人はいなかった。
だが、ただ江夏郡の舊姓(名族)で江安令の王傴と、秀才(官命)の呂蕤だけが従わなかった。張昌は三公に、王傴と呂蕤を征伐させた。王傴と呂蕤は、ひそかに一族を率いて汝南郡に逃げて、豫州刺史の劉喬を頼った。同郷人で期思令の李權、常安令の吳鳳、孝廉の吳暢は、糾合して土地で認められ、五百餘家を味方につけた。彼らは、王傴と呂蕤を追って、妖逆(張昌)には協力しなかった。

新野王歆上言:「妖賊張昌、劉尼妄稱神聖,犬羊萬計,絳頭毛面,挑刀走戟,其鋒不可當。請台敕諸軍,三道救助。」於是劉喬率諸軍據汝南以禦賊,前將軍趙驤領精卒八千據宛,助平南將軍羊伊距守。昌遣其將軍黃林為大都督,率二萬人向豫州,前驅李宮欲掠取汝水居人,喬遣將軍李楊逆擊,大破之。林等東攻弋陽,太守梁桓嬰城固守。又遣其將馬武破武昌,害太守,昌自領其眾。西攻宛,破趙驤,害羊伊。進攻襄陽,害新野王歆。昌別率石冰東破江、揚二州,偽置守長。當時五州之境皆畏逼從逆。又遣其將陳貞、陳蘭、張甫等攻長沙、湘東、零陵諸郡。昌雖跨帶五州,樹立牧守,皆桀盜小人而無禁制,但以劫掠為務,人情漸離。

新野王の司馬歆は、上言した。
「妖賊の張昌と劉尼は、妄りに神聖を稱しています。飼っている犬羊は1万匹を数え、赤い髪の毛に毛むくじゃらの顔で、刀を挑んで戟を走らせます。賊の勢いが強いので、敵いません。鎮台から諸軍を出動させ、三道を救助して下さい」
豫州刺史の劉喬は諸軍を率いて、汝南郡に拠り、賊を防いだ。前將軍の趙驤は、精兵八千人を率いて宛城に拠り、平南將軍の羊伊を助けて守った。
張昌は、配下の将軍である黄林を大都督とし、2万人を率いて豫州に向わせた。李宮は前驅して、汝水の住人から掠奪をしようとした。だが劉喬は將軍の李楊を遣わし、迎撃して大破した。
黄林らは東に弋陽郡を攻めたが、太守で梁出身の桓嬰は城を固守した。黄林の將である馬武は、武昌郡を破って太守を殺害した。張昌は自ら兵を率いて、西へ宛城を攻めて、(前将軍)趙驤を破って(平南将軍)羊伊を殺害した。襄陽に進攻し、新野王の司馬歆を殺害した。
張昌は石冰に別働させて、東方で江州・揚州を破って、偽に守長を置いた。
〈訳注〉晋朝にとって、張昌の置いた官は「偽」です。
このとき五州の境界は全て畏逼して、逆賊(張昌)に従った。張昌は部将の陳貞、陳蘭、張甫らに、長沙郡、湘東郡、零陵郡らを攻めさせた。張昌は5州を股にかけて支配した。だが、張昌が任じた牧守(地方官)は、全て桀盜や小人だった。そのため自制が利かず、ただ劫掠することを務めとした。人情は、漸く張昌から離れた。

是歲,詔以甯朔將軍、領南蠻校尉劉弘鎮宛,弘遣司馬陶侃、參軍蒯桓、皮初等率眾討昌於竟陵,劉喬又遣將軍李楊、督護尹奉總兵向江夏。侃等與昌苦戰累日,大破之,納降萬計,昌乃沈竄於下俊山。明年秋,乃擒之,傳首京師,同黨並夷三族。

この年に詔があり、甯朔將軍で領南蠻校尉の劉弘を宛城に出鎮させた。司馬の陶侃と、參軍の蒯桓や皮初らを率いて、劉弘は張昌を竟陵で討った。劉喬はふたたび、將軍の李楊と督護の尹奉に、全ての兵を率いさせて江夏郡に向った。
陶侃らは、張昌と苦戦して日数を重ねたが、大いに破った。陶侃に投降した人は1万人を数えた。張昌および丘沈は、下俊山に潜伏した。
翌年秋、張昌と丘沈は擒えられ、首は京師に送られた。
張昌もその仲間(丘沈らか)も、三族を皆殺しにされた。
〈訳注〉「夷」を辞書で引くと、「えびす」という名詞以外に、「ひくい」「たいらか」「平定する」「つねに」に意味があります。『孟子』に「夷九族」とあり、親戚が皆殺しにされた意味でした。今回はその用法ですね。
〈訳注〉「同黨並夷三族」は、読み下し方がよく分かりません。「黨並を同じくして、三族を夷ぐ」で読みましたが。
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このコンテンツの目次
『晋書』列伝70、反逆者の列伝
1)王弥-上
2)王弥-下
3)張昌
4)陳敏-上
5)陳敏-下
6)王如
7)杜曾
8)杜弢
9)王機、王矩、その他