01)人間関係学-理論編
斉藤勇『人はなぜ足を引っ張り合うのか』を読みました。
これは歴史の本ではありません。実験社会心理学の本です。曰く、
を、実験によって解き明かす学問だそうで。ある特殊な状況を設定して、人がどんな行動を起こすのか調べています。
示された結果について、
「指摘内容が好きか嫌いか」「自分の予測と合うか合わないか」「納得がいくかいかないか」
を論じることは、この本については無意味でしょう。「こういう実験をしたら、こういう結果になりました」を、淡々と読んでいくしかないのです。実験手法に文句をつけることは作法としては正しいが、ぼくの埒外です。
列伝を読むときの参考になりそうだと思ったので、結論を好きに切り抜いて、こちらに書き留めておきます。
集団圧力
6人が集まって、問題に答える。自分より前の5人(サクラ)が、明らかに間違っている回答をした。6人目が、前までの回答に引きずられる比率は、3分の1である。
実験では、図形の長短を答える簡単な問題が使われた。これより難しい(または答えのない)問題ならば、もっと引きずられる比率は上がるはずだ。
次の人を引きずりこむことができる人数の下限は、3人である。
2人きりで実験し、前の1人が間違えても、「バカだな」で終わる。3人で実験をし、前の2人が間違えても、「変わり者だ」で終わる。しかし4人で実験をし、前の3人が間違えると、「オレが違うのではないか」と思い始める。
逆に、ミスリードする人数を3人から増やしても、引きずり込む影響力は、それほど変わらない。
集団の中で少数派が主張するとき、最低でも3人が団結すれば、一目置いてもらうことが可能である。
「出る杭」の影響
大勢の中で、違うことを主張した人がいる。会議のその場では、当然に無視される。しかし、少数意見は、知らぬ間に周囲に影響する。
事態が不確かなときは、「一貫して力強く1つのことを主張している人」に引っ張られる。
確信に満ちた声で「あなたは両手が付きます」と10回言えば、大抵の人は手がくっ付く。言葉の影響は、運動暗示(催眠術)と同じである。
会議の危険性
集団で会議をすると、全員の平均や安全策に収束しない。
元々の個々人の意見よりも極端になり、挑戦的で危険性を含んだ結論を出す。
「他のメンバーよりも、自分の方が明確な意見を持っている」
という気持ちを示したいから、極端化するのである。
「組織のため」の残酷
人は、「意見」と「行動」が異なる生き物である。
個人の価値観では他人に危害を加えられない人でも、
「これは実験です。迷わずやって下さい」
という圧力を加えると、相手を殺しかねない電気ショックを与えた。組織の中で圧力を受けているとき、個人ではやれないことをやる。
成り切りの心理
学生を、看守と囚人の2役に分けて演じさせた。
実験が長引くと、陰では学生同士で、本音で話を始めるかと思われた。だが違う。
看守役の学生は、指示されたよりも厳しい処置を行なった。囚人役は、看守役に従属して、あけすけに諂い始めた。実験は危険と判断され、中断された。
出世しやすいポジション
情報が集まる場所にいる人が、リーダーとなる。
「決断力」「チャレンジ精神」「公平なる精神」とは関係なく、伝言ゲームの結節点にいる人が、リーダーに推奨された。
いじめを起こすリーダーシップ
専制的なリーダーシップの組織で、いじめが起きる。メンバーが欲求不満状態になり、誰かを攻撃するからである。
生産性は、専制的でも民主的でも同じである。専制しても効率がいいのではないから、民主的リーダーが望ましい。
共貧関係
囚人のジレンマの話。人は、
「相手がどう行動してこようとも、自分の損害や傷は最低限度に抑えたい」
と思っている。「ミニマックスの原理」である。
お互いが足を引っ張り始め、「共貧関係」のサイクルから抜け出すことは難しい。世の中はゼロサムゲームではないから、「共栄関係」を目指そうねと。
ライバルのあり方
自分と相手の利害が正面衝突するとき、2人とも成果を出せない。相手を信じて、片方が譲歩した方が、2人にとってよい。
片方に絶対の権限を与えると、うまく交通整理をして、成果を最大化するか。違う。脅迫手段をもてあそぶ。
他の人がやるだろう
責任分散の心理。
6人が個室に分かれて会話をした。発作を訴えた人がいても、自分の個室を出て30秒以内に助けに行った人は、10%以下。助けなかった人は、性格が冷たいのではない。1対1なら必ず助ける人でも、二の足を踏む。
手を握るとき、競うとき
手段と目標について。
人を協力させるには、2つの要素が必要である。協力しないと達成できない手段が与えられ、協力が評価される目標が設定されていること。
手段が協力関係にない(自分が手を加えると他人が損をする)、目標が協力を要しない(自分の結果だけが評価される)という状況だと、協力しない。どちらかの条件が欠けてもダメである。
人が協働するかは、個人の性格よりも、手段と目標に左右される。
出世すると友人が減る理由
プライドが高くなり、相手に「敬意を求める」からである。
目の前に銃があれば、その銃が誰のものであれ、どんな因縁を持った銃であれ、人は攻撃的になる。権限を持った人間は、権限の色に関わらず、攻撃的になる。だから友人が減る。