表紙 > 漢文和訳 > 『晋書』載記の劉淵伝より、劉和と劉宣

1)即位1ヶ月の皇帝

前回、劉淵の載記を見ました。
これにオマケ程度についている人たちです。劉和は劉淵の子、劉宣は劉淵の従祖父です。

漢の2代皇帝、劉和

和字玄泰。身長八尺,雄毅美姿儀,好學夙成,習《毛詩》、《左氏春秋》、《鄭氏易》。及為儲貳,內多猜忌,馭下無恩。元海死,和嗣偽位。其衛尉西昌王劉銳、宗正呼延攸恨不參顧命也,說和曰:「先帝不惟輕重之計,而使三王總強兵于內,大司馬握十萬勁卒居於近郊,陛下今便為寄坐耳。此之禍難,未可測也,顧陛下早為之所。」和即攸之甥也,深然之,召其領軍劉盛及劉欽、馬景等告之。

劉和は、あざなを玄泰という。身長は八尺で、雄毅にして姿儀は美しく、学を好んで大成した。『毛詩』『左氏春秋』『鄭氏易』を習った。劉淵の跡継ぎとなったが、内面に猜忌心が多く、配下に対して恩を施さなかった。

学問する頭脳はあるが、人間関係について悲観している。友達が少なくて、本がお友達。本を批判的に読むことで自己を練った。そんな人かな。
体育会系のリーダーではない。人を寄せ付けず、鬱々と考え込むタイプの人。深窓の都会人で、気難しい二世である。

劉淵が死ぬと、劉和が漢帝を嗣いだ。漢の衛尉で西昌王の劉鋭と、宗正の呼延攸は、己の待遇を恨んで、朝廷に参加しなかった。2人は、劉和に説いて言った。
「先帝の劉淵さまは、権力のバランスをきちんと考えていませんでした。3人の王に、王朝内で強兵を持たせました。大司馬は、10万の強兵を近郊で握っています。新帝の劉和さまは、強兵の持ち合いを、黙認している。必ず禍難の原因になるだろう。今のうちに対策を取るべきだ」

目の前で、司馬氏が八王の乱を起こしている。反面教師になる。それなりに説得力のある主張である。
あとの記述で解るんだが、三王とは、劉裕、劉隆、劉乂のこと。大司馬とは、劉聡のこと。

劉和は、外戚である呼延攸の甥に当たる。劉和は、おじの言葉に深く感じ入った。劉和は、領軍の劉盛および劉欽、馬景らを召して、軍権の没収に協力を求めた。

盛曰:「先帝尚在殯宮,四王未有逆節,今忽一旦自相魚肉,臣恐人不食陛下之余。四海未定,大業甫爾,願陛下以上成先帝鴻基為志,且塞耳勿聽此狂簡之言也。《詩》雲:'豈無他人,不如我同父。'陛下既不信諸弟,複誰可信哉!」銳、攸怒曰:「今日之議,理無有二。」於是命左右刃之。景懼曰:「惟陛下詔,臣等以死奉之,蔑不濟矣。」

軍権没収の案を聞いた劉盛は、言った。
「先帝の劉淵さまは死んだばかりで、まだ殯宮の状況です。兵力を持った4人の王は、べつに叛逆を試みていない。いま目先の権力争いの芽を摘んでも、理由なく兵力を取り上げては、新帝の劉和さまに従う人はいなくなります。中夏の全土は、まだ平定されていません。これから大業を広めねばならない。どうか劉和さまは、いい加減な作戦に耳を貸されませんよう。
『詩経』曰く、 『豈に他人の無からんや、われ父を同じくするに如かず』と。劉和さまが、一族の諸弟を信じなければ、いったい他に誰を信じるのですか」

皇族にどれだけの権力を割り振るか。つねに難しい問題である。
今回は、権力をもらえなかった外戚が、個人的な利害に基づいて、政敵から権力を奪おうとしているだけかも。

劉鋭と呼延攸は、怒って言った。
「本日の議題に、理屈は2つありはしないのだ」
左右の人に命じて、反論した劉盛を切り殺した。
馬景は、懼れて言った。
「劉和さまの下される詔に、私たちは命がけで従います。絶対成功します」

異論を唱えた人が、目の前で殺された。馬景は、こう言うしかあるまい。

決起の大失敗

乃相與盟於東堂,使銳、景攻聰,攸率劉安國攻裕,使侍中劉乘、武衛劉欽攻魯王隆,尚書田密、武衛劉璿攻北海王乂。密、璿等使人斬關奔於聰,聰命貫甲以待之。銳知聰之有備也,馳還,與攸、乘等會攻隆、裕。攸、乘懼安國、欽之有異志也,斬之。是日,斬裕及隆。聰攻西明門,克之。銳等奔入南宮,前鋒隨之,斬和於光極西室。銳、攸梟首通衢。

劉和は東堂で、4王を討つぞと誓約を行なった。
劉鋭と馬景は、劉聡を攻めた。呼延攸は劉安を率いて、劉裕を攻めた。侍中の劉乘と、武衛の劉欽は、魯王の劉隆を攻めた。尚書の田密と、武衛の劉璿は、北海王の劉乂を攻めた。
田密と劉璿らは、門を突破して劉聡を斬ろうとした。劉聡は武装兵に待ち構えさせていた。

劉聡が洛陽に攻め込んだときは、漢族に欺かれてばかり。いつも敗因を作っていた。だが、成長したのか、劉聡の智謀によって、劉和は不利になった。

劉鋭は、劉聡に備えがあると知ると、引き換えした。劉鋭、呼延攸、劉乘らは合流して、劉隆、劉裕を攻めた。呼延攸と劉乘は、安國や欽之が裏切ることを懼れて、斬り殺した。
この日、劉裕と劉隆は、呼延攸らに斬られた。劉聰は西明門を攻めて、守備を突破した。劉鋭らは、南宮に逃げ込んだ。劉聡の前鋒はこれを追いかけ、劉和を光極西室で斬った。劉鋭、呼延攸らは、晒し首になった。

即位してすぐに殺された皇帝でした。
呼延攸にそそのかされたように見えるが・・・そればかりじゃないだろう。皇帝よりも強い皇族に、掣肘を加えようとして、返り討ちにあった。
劉淵の求心力があれば、ただの部将に過ぎなかった皇族たち。だが劉和には、自分を脅かすライバルに映ったのでした。