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『三国志集解』翻訳、五虎将軍
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5)趙雲伝-上
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趙雲
趙雲はもとは公孫瓉に仕えた。公孫瓉が、劉備と田楷をつかわして、袁紹を防いだ。
どの諸本も「公孫瓉は劉備に田楷を助けさせ、袁紹を防いだ」と書いてある。
〈訳注〉「与田楷」か「為田楷」で、ニュアンスが変わって来るという問題を考えてます。
趙一清曰く、「為」は誤りである。
沈家本曰く、「為」は読み方からして、「助」に通じる。
盧弼が考えるに、公孫瓉は田楷に青州を治めさせた。袁紹は公孫瓉を破って、袁譚に青州を治めさせた。
〈訳注〉もし「与田楷」なら、劉備と田楷は同格だ。「為田楷」ならば、田楷が主将で、劉備は副将に過ぎない。盧弼は、田楷が青州刺史を任されたという結果から、後者が正しいと考えた。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝曰く。趙雲は兄の喪のとき、公孫瓉のもとを去った。去り際に劉備の手を握り、「あなたの徳に背かない」と誓った。劉備が袁紹の下にいるとき、趙雲は鄴で劉備に出会った。
何シャク曰く。列伝本文では、劉備が平原相になったとき、趙雲はすでに劉備に従っている。趙雲別伝で劉備に会ったのは建安5年の後だから、年代がおかしい。ウソである。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝曰く。桂陽太守の趙範は、趙雲に兄嫁の樊氏を差し出したが、趙雲は断った。
樊氏は国を代表する色気があり、夫を亡くしていたが、趙雲は娶らなかった。秦宜禄の妻を欲しがった関羽より、趙雲は遥かに賢い。
〈訳注〉盧弼は関羽に厳しい。関羽が欲しがったのは異姓、趙雲が拒んだのは同姓だ。横並びに論じていいものか。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝曰く。趙雲は、法律に詳しいとして、生け捕りにされた同郷の夏侯蘭を推薦した。趙雲は慎重に振る舞い、夏侯蘭に近づかなかった。趙雲の慎み深さは、こんな調子である。
李光地曰く。趙雲の美徳は、すべて趙雲別伝に書いてある。列伝本文の趙雲は、ヒーローではない。どういうことだろうか。
〈訳注〉答えを知っていて、疑問形に留めるのは、いじわるだ(笑)関係者が趙雲を美化するのを、許してくれ。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝曰く。劉備は、趙雲が魏を攻めるべきだと諌めるのを聞かず、呉に出陣した。
通鑑輯覧に曰く。趙雲が劉備を諌めるために使った言葉は、諸葛亮の隆中対のパクりではないかと怪しむ。趙雲は実は何も言わなかったから、別伝は他からセリフを引用したのだ。
もし趙雲が、本当にこのとき劉備を制止していたら、どうして夷陵で敗れた後に諸葛亮が「法正さえ生きていたら、止めてくれただろうに」と悔やんだのか。趙雲は、劉備を諌めていないのだ。
〈訳注〉またもや、別伝批判です。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝に曰く。趙雲は、江州を守った。劉備は秭帰で敗北した。趙雲は進軍して、永安に至った。呉軍はすでに撤退した。
何シャクが曰く。趙雲が劉備の呉攻めに反対したのは、忠正なことである。だが経国の職務は諸葛亮が担当しており、趙雲のような武臣は口出しできない。趙雲の子孫が書いた家伝(趙雲別伝)は、他人の美談を盗んでいる。 趙雲別伝にある趙雲の諌め文句は、たいてい諸葛均の書状や、孫権が皇帝を名乗ったとき諸葛亮が作成した文書から、切り貼りしているだけだ。
〈訳注〉孫権が帝号を称したときは、北伐の途中だったから、諸葛亮は呉との友好を国是とした。
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諸葛亮の第一次北伐が失敗すると、趙雲は自らを鎮軍将軍に降格した。
胡三省が曰く。晋書の職官志によれば、鎮軍将軍は四征将軍、四鎮将軍の上位である。いま趙雲は、鎮東将軍から鎮軍将軍に降格したようだが、晋の制度では昇格になってしまう。蜀漢の制度で、鎮軍将軍というのが雑号将軍であったのだろうか。それなら降格になるから、つじつまが合う。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝に曰く。第一次北伐は失敗したが、後詰を立派に果たした趙雲に、褒美を与えようとした。趙雲は、「負け戦に褒美があるのは、おかしいです。物資は、赤岸の国庫にしまって下さい」
胡三省が曰く。諸葛亮は、兄の諸葛瑾に書状を送った。 「前の戦さで趙雲が撤退するとき、赤崖閣道を焼き払った。山腹の川に大きな柱を立てて橋にしたが、しょっちゅう洪水で壊れる。赤崖より南に行けなくなった。趙雲と鄧芝は、赤崖で屯田をやっているが、崖の側面に作った心細い道でしか行けない」
諸葛亮が五丈原で死に、魏延が焼き払ったのも、赤崖の道である。赤崖(=赤岸)には、蜀軍の倉庫があり、物資を供給していた。
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〈裴松之の注〉趙雲別伝に曰く。諸葛亮は、褒賞を辞退した趙雲を、大いに評価した。
何シャクが曰く。諸葛亮の賞罰は、厳粛である。趙雲の官位を落としながらも、一方で大量の褒美を与えるなど、処置が矛盾している。趙雲別伝が、ウソであることが明らかだ。
別伝のたぐいは、趙雲の子孫が美談ばかりつめ込んで、伝承したものである。騙されてはいけない。
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このコンテンツの目次
『三国志集解』翻訳、五虎将軍
1)関羽伝-上
2)関羽伝-下
3)張飛伝
4)馬超伝、黄忠伝
5)趙雲伝-上
6)趙雲伝-下、評
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