表紙 > エッセイ > 諸葛亮が「なぜなぜ」の手法で劉備を改善したら

01) 劉備の問題点をさがす

大きな会社には、独特の手法がありますね。関連する本が、たくさん出ていますね。
今回は、平日にお世話になっているノウハウを使って、諸葛亮の天下三分の計を考えてみます。 カンタンのために、今日は『演義』のイメージに準拠した、ステレオタイプな曹操や劉備や孔明に登場してもらいます。
欧米にありがちな、小説仕立ての自己啓発書みたいに書くなら、、

劉備は1人の優秀なコンサルタントを採用した。諸葛亮である。諸葛亮は、劉備の部屋を訪れた。
「今日から劉備さまには、私の個人セミナーに参加してもらいます。初めは半信半疑かも知れませんが、これが終わるころには、きっと成功への確信を抱いているでしょう。リラックスして」

設定が面倒くさいので、ぼくは小説を気取ったりしません。できるだけ要点のみ、かいつまんで行きます。

問題とは

現状とあるべき姿のギャップ。問題には2種類ある。
 発生型問題:すでに示されたギャップ
 設定型問題:より高みを目指すために、意図的に作るギャップ

後漢が分割され、曹操が献帝を捕らえているのは、発生型問題。
後漢よりも洗練された支配体制を築くのが、設定型問題。ただの穴埋めではなく、自ら買って出る山作りである。


問題を見つけるには、高い意識を持って、自分の仕事を見よ。
そのために、
基本を身に付ける。仕事の目的を理解する。お客様の立場で考える。

『孫子』に言う、己を知ることである。

変化に敏感になる。世の流れを見る。競争相手のレベルを知る。

『孫子』に言う、敵を知ることである。
つまり、兵法が説く「いくら戦っても敗れることはない」というのは、きちんと問題設定ができている状態を指すのかもね。

問題を明確にする

「問題がない」状況はない。本来の目的を思い出して現状を見つめれば、問題は見えてくる。それぞれ、5W1Hで考えると具体的になる。

劉備の目的は、漢室を復興して、天下万民の生命を守ること。
あるべき姿とは、漢土が再統一され、戦乱がなくなること。劉備は功臣として、献帝を輔佐していたい。


目的とあるべき姿は、混同されがちだ。区別を説明する。
本当の目的とは、「その目的の目的の目的は、、」と遡ったときに行き着くもの。会社の理念に一致するはずだ。

劉備の目的は、漢室の国是とイコールにならないとおかしい。

あるべき姿とは、目的を達成するために、自分の仕事を改善した形。

主語を「私」に据えればいいのかな。


あるべき姿を描くためのポイントは、日頃から「後工程(お客様)のために、何をしたら付加価値を高められるか」を考えること。

劉備にとってのお客様(後工程)とは、漢民族です。被支配民です。
領国経営は、現代の商売における、お客様へのサービス提供に似ている。支持されなければ、逃亡されて(お客様が買わなくなって)終わりである。お客様のいない事業主は、干からびる。
領民から見た支配者の価値とは、生命や生活の保障です。ゆえに劉備は、領民の目線に立つことで、戦乱のない「あるべき姿」を描ける。


問題は、あるべき姿と現状の差である。

現状は、曹操が献帝を私物化して、戦争ばかり起こし、万民を苦しめている。劉備は、荊州の居候に過ぎず、万民に何もしていない。
ギャップは、曹操の政治的影響力が強くて、劉備が弱い分の差である。

間違いやすい例は、現状をあるべき姿の裏返しにすること。
例えば、あるべき姿が「理想の体重だ」、現状が「理想の体重でない」と設定すると、堂々巡りが起きる。現状を「体重が80キロである」と具体的に設定しよう。

ゆえに現状は「劉備が天下に貢献してない」ではなく、「曹操が天下を乱している」なのです。相手が明確になる。

問題をブレイクダウンする

大きくて曖昧な問題を、解体する。手が付けられる具体的なテーマに整理する。ろくに問題を解体しないと、「何に取り組んでいいか分からん」という事態に陥るから、手を抜いてはいけない。

大きくて曖昧な「曹操が強く、劉備が弱い」を解体。
「強い」という漠然とした物言いを、歴史ファンには有名なフレームワーク「天地人」に分解してみる。すなわち、時勢、領土、人材である。
時勢:曹操は官渡で勝利し、北伐成功。劉備は戦果なし。
領土:曹操は華北を統一、劉備は領土なし。面積と人口、生産力で差。
人材:曹操は百貨店。劉備は、戦略を立てる軍師不在、行政官は微少。

優先順位を付ける。順位は、重要度、緊急度、拡大傾向(深刻化)の観点から判定する。拡大傾向(深刻化)とは、放置しておくと、どれくらい重篤な症状に発展してしまうかである。

優先順位は領土。まず荊州を取れば、在地の人を取り込み、俸禄を払うこともできる。
諸葛亮の参入前は、最優先の問題は軍師採用だった。だが今、諸葛亮が劉備のために「問題解決」をやってるのだから、火急ではなくなった(笑)

「現地現物」にて、定量的、定性的な事実を集める。

劉表のお見舞いに行って、余命を定量的に分析する。諸葛亮の人脈を使って、荊州の名士の支持を探る。できれば曹操の動向をつかむ。


問題が見つかりにくいときは、仕事のプロセスを時系列に沿って書き出すと良い。

天下取りのフローチャートを描くのは難しい。ライバルの曹操をベンチマークして、彼がどうやって覇業を始めたか、分析してみるのが有効。
曹操は、
揚州で兵を募集⇒徐栄を攻めて名を売る⇒兗州に入る⇒青州黄巾を吸収⇒徐州進出⇒献帝奉戴⇒政策立案⇒袁紹と対決⇒華北平定
なんてプロセスを踏んでいる。劉邦を参考にするのも良し。
曹操は兗州、劉邦は漢中と、飛躍の前に根拠地を得ていることに着目。劉備はすでに、将兵や名声を得るところまでは出来てる。諸葛亮が面倒を見るべきテーマは、土地だと確認できた。

このプロセスでは「どこ、どこ、どこ」と問いかける。掘る場所を探しているのだ。「なぜ、なぜ、なぜ」をやるのは、掘る場所を決めた後だ。このプロセスで「なぜ」をやると、労力の無駄になるから注意。

埋蔵金を探すなら、金属探知機が反応した場所を掘ればいい。片っ端から掘っても、疲れるだけである。

時間的な前後関係を洗い出すのであって、因果関係を洗い出すのではない。くれぐれも注意。

君主として成長する手順として、「まず戦さに勝つ、次に領地を得る」と並べる。「戦さに勝てないから、領地を得られない」と、因果関係を言い出すと、メチャメチャになる。

複数の取り組む問題が出てきたら、川上から着手する。

劉備には政策理念がないことも、問題である。だが、領地を得る前から心配しても、仕方がない。劉備の問題の川上は、領地がないこと。


次回はお待ちかね、「なぜなぜ」をやります。