表紙 > エッセイ > 諸葛亮が「なぜなぜ」の手法で劉備を改善したら

03) 標準化に失敗した諸葛亮

劉備が領土を得られないのは、チャンスを言い当てる参謀がいないからだ。
これが前回までで明らかになったこと。

対策を立てる

既成概念や自分の仕事に捕われない。
「効果」「コストと手間」「リスク」の視点で、打ち手を決めて、実行計画を立てる。コンセンサスを得る。

まず、できるだけ多くの対策案を出す。
「どうすれば真因をなくせるか」
を考える。 対策するときのポイントは、
 ◆対策すると、誰が喜ぶかをイメージする
 ◆関係者は誰か、後工程に使ってもらえるか、定着させられるか
  対策後の運用も含めて、「しくみ」として捉える

天才の諸葛亮が、劉備に「いま、攻めなさい」と囁くだけでは、仕組みとは言えない。諸葛亮が1人で全部やらなくても、劉備軍が回るように。劉備が死んで劉禅が立ったとしても、回るように。

 ◆まずどこを動かせるか、変更できる要素を明確に
 ◆類似例をパクる

曹操を参考にするといいですね。

出した対策案は、整理します。
ツリーで分類したり、マトリクスで整理する。モレやダブりがないか、チェックする。誰が、どんな用件で、いつ、どんな方法で、と階層にテーマを設けて、ツリーを下げていくのもよい。

劉備が、時機を見る軍師を得るには
  制度を整える
    劉備軍の官位体系を整備
      文官の発言権を向上させる
    諸葛亮に、強い権限を付与
  人材を得る
    広報する
      劉備の名声をあげる
      待遇を良くする
      人材募集のメッセージを、大きく露出
    コネで採用する
      荊州の人脈にアクセス
    敵から引き抜く

よい影響と悪い影響の両方を見積もる。誰が関わるか、前後のプロセスを見渡す。「効果」「コストと手間」「リスク」につき、それぞれの対策を採点する。

今回は省略しますが、縦が対策、横が評価項目の表になる。

コンプライアンスの観点を忘れない。自社にはメリットがあっても、誰かに迷惑や不利益をかぶらせないか。社会に正々堂々と説明し、理解が得られるものか。

例えば人材採用について、「暗殺者を派遣して、縛ってでも任用する」というのは、社会道徳に反することですね。曹操が司馬懿を任用した場面についての「小説」の例ですが(笑)


対策が決まれば、コンセンサスを作ります。
ポイントは、
 ◆関係する人たちに、検討する時点で個別に説明する
 ◆委員会を設置する
 ◆会議を召集して、意見を聞く
 ◆進捗状況を開示して、共有化する

劉備が諸葛亮を用いて、関羽と張飛が不満を持った。コンセンサスを作ることに、失敗した例です。
本題から逸れますが、劉備の三顧の礼は、合意形成の儀式だったのかも。三顧の礼とは、諸葛亮へのラブコールと、隠逸した名士たちへのアピールだと言われる。だかそれだけじゃなく、自分の臣下への説明の効果もあったのかも。
「私はこれだけ賢者を求めています。賢者を得る過程を開示するから、よく見ておけ。もし私の行動に疑問があるなら、二顧目ぐらい済んだあたりで、意見を言ってくれ」
ふらっと出かけて、いきなり新顔を連れ帰っていたら、劉備の臣たちは納得しない。三顧して、検討段階から説明をしたことで、諸葛亮は仲間に入れてもらえた。
劉備と諸葛亮にその意図はなくても、結果の分析からは成り立つと思う。どうかなあ。

対策をやりぬく

一丸となり、スピーディに。集中的迷わずに、安易に妥協せずに。
進捗をチェックし、遅れたら取り戻す。進捗を共有する。

処置をしてキズが見えなくなったのか、対策をして根治したのか、混同しないように注意する。 根治しないと、良好な状態は長続きしないので。
とは言え、すぐに根治できないなら、処置も必要。

劉表が死んだとき、劉備は荊州を取らずに逃げ出した。これが「処置」にあたると思う。
本来ならば、劉表の死期を見極めて、先手を打つべきだった。だが、諸葛亮の力が及ばず、諸葛亮以外の軍師も揃っておらず、ミスった。荊州北部に突っ立っていたら滅亡するしかないので、とりあえず逃げた。


明確な実効計画を作る。
実施の順序。1人ひとりの役割分担。予想される障害の克服方法。スケジュールの柔軟性。情報共有のタイミングも、スケジュールに取り込む。

諸葛亮が、どこまで具体的に、荊州の人材の採用を計画していたか、史書にも『演義』にも書いておりません。でも、益州を取る時機を進言した龐統や法正の加入は、対策の行使なくしてありえない。

結果とプロセスを評価する

目標に対する実行結果と、プロセスの双方を、客観的に評価する。お客様の満足向上につながったか、会社の成長につながったか、自分自身は成長できたか。
「結果さえ出れば、プロセスはどうでもいい。その場限りでいい」
ではない。結果に必然性と継続性がなければ、ダメである。
「結果を評価するか、プロセスを評価するか」
という二極対立は愚かである。プロセスを重視するのは、問題の再発防止と、継続的な成果を実現するためだ。結果が大事だからこそ、プロセスを重視する。

創業して間もない組織は、再現性のない俗人的な対策が多い。バカだからそうなるのではなく、仕方のないことだ。
「蜀には史官がない」と史料に書いてある。史官の仕事は、プロセスを書き留めることだと、ぼくは解釈します。劉備の蜀は、
「とりあえず1回だけ、辛うじて結果だけは出しました。でも成功の方法は忘れました」
という国家だ。史官がいないのは当然かも知れない。
ぼくのこの文章は、前半は諸葛亮の例が豊富だったのに、後半の実効段階になると、ショボくなった。ぼくが飽きてきた以外にも、劉備たちが犯人である原因がありそうだ(笑)

成功と失敗から学び、知識やノウハウを蓄積する。

成果を定着させる

成功のプロセスは、しくみとして定着させる。人が変わっても、継続して同じ成果が出せるように、しくみを明確にする。

劉備が劉禅に代わっても、諸葛亮が楊儀に変わっても(笑)、同じ結果を出し続けねばならん。

しくみは、最小限の労力で作る。
実施する人の能力、経験や業務内容によって、やり方はさまざま。「やって見せながら、口で伝える」が、いちばん有効なこともある。帳票、チェックリスト、フローチャート、マニュアル、規定・手続きを設定するなど。
マニュアル化するポイントは、
 ◆誰が、いつ、なぜ使うのかを想定する
 ◆どんな状況で、どんな考えをもとに実施されたかを明確に
  (マニュアルにする1回目の成功の背景を盛り込む)
 ◆ビジュアル、ポータブル、検索性

成功の仕組みを、他にも広げる。
手順ややり方だけでなく、「考え方」などの成功要因や、タイミング、バランス、手法など、背景にある情報を伝える。失敗したことも伝える。
次の改善に着手する。

荊州と益州を手に入れて、「漢中王」を名乗ったとき、劉備はいちばん元気だった。
ちゃんと、「時機を見る軍師の獲得と活用」について、振り返り活動を行なったのだろうか。再現可能な仕組みとして、定着させたのだろうか。惰性で走らなかったか。
次の活動として、中期的な目標である天下統一のために、「問題はどこ、要因はなぜ」を、再びやったのだろうか。
きっと、答えはNOでしょう。だから失敗したんだよ!
諸葛亮が次に問題解決のレジュメを提示したのは、「出師の表」です。「出師の表」を、そういう視点で読んでみたくなってきた。

おわりに

隆中対が、いかにも華麗な「問題解決」っぽいから、例に使ってみました。しかし、結果は失敗以外のナニモノでもないので、竜頭蛇尾になった。
苦労してひねり出され、成功して定着した仕組みは、曹操と曹丕による禅譲だ。どんどん「効率化」されて、後世になって人が代わっても、くり返された。扱うとしたら、こっちだったな。でも「天下三分」と比べると、ワクワク感に欠けるんだよねえ。
今回は行き当たりばったりで書きました。でも内容をきちんと成形したら、ブックオフで売ってる100円のビジネス本くらいにはなりそうな気がする(笑) ノウハウは全パクリだから、無理か。091024