表紙 > エッセイ > 諸葛亮が「なぜなぜ」の手法で劉備を改善したら

02) 劉備に「なぜなぜ」をぶつける

諸葛亮に、問題解決をやってもらってます。
わりに、真面目な話になってきて、頭が疲れる(笑)

達成目標を決める

高い目標を掲げる。夢と情熱と喜びと勇気を込めて、意思を固める。守りに入らない。定量的、具体的、挑戦的な目標を設定する。目標と言いつつ、ただの「やること」になっていないか。

漢室の復興という願いは、高い志だ。「意志を固める」は、劉備にとってカンタンな作業である。
しかし「漢室の復興」は定量的でないから、そのまま目標にはならない。また、あるべき姿と同じであり、問題をブレイクダウンした意味がない。そこで目標を「劉備が荊州と益州を得る」に切り替える。天下三分である。これなら、成功か失敗か判定が明確である。
「劉璋を負かす」は、目標ではない。目標を達成するための手段に過ぎない。あくまで、何らかの到達点を目標とすべきだ。

目標には、リミットを設定する。

劉備の年齢を考えると、、「三国鼎立」は5年後としよう。

中長期的な目標と連動した、短期目標を設定する。

「2年以内に荊州を占領、5年以内に益州を占領」
中期的な目標は、天下三分を足がかりにした天下統一。長期的な目標は、後漢政治の改革。ちゃんと繋がっております。
諸葛亮の最終目標は天下三分だと勘違いしている人がいる。目標の時間軸を、取り違えた認識である。

1つの目標が終わっても、すぐ新たな改善をスタートするべきだ。次の次の目標まで持っておこう。

領土問題が解決したら、政治体制の整備が目標である。
そのために諸葛亮は、領土拡大に専心しつつ、領国経営の実験をしなければならない。どれくらい法家の要素を混ぜれば、いちばん安定するんだろうか、と。曹操をベンチマークしつつ。


目標が始めから決まっていることもある。及第点を下回ったから、単純に元に戻すときである。

漢室の復興は、単純作業の是正ではない。だから今回はこのケースに当たらない。諸葛亮が「領土において天下三分」を目標を立てたことは、独創的で有意義であった。

また、人によって、
「まだ目標を立てるには早い、『なぜなぜ』をした後で充分だ」
と感じるだろう。だが、「なぜなぜ」で袋小路に入ったとき、帰ってくるためのセーブポイントが必要だ。いま立てた目標と、「なぜなぜ」の結果に矛盾が出てきたら、目標を直せばいい。
目標が定量的であるとは、第三者が成否を評価できるということ。「本人は成功したと思っているが、周囲は認めていない」では、取り組んだ意味がない。また評価を明らかにしておけば、問題が発生すると自然に分かる仕組みも作れる。

荊州と益州の領有は、「解釈の問題」ではなく、誰でも評価できる指標だ。諸葛亮の目標設定でよい。
もし荊州や益州で反抗勢力が割拠すれば、問題の発生として検出できる。曹操と戦うために、早急に平定しましょう、と動ける。

真因を考えぬく

なぜ問題が起こるのか考える。思い込みや他人の責任にせず、事実に基づく。
経験豊富な人が「ここが変化するはずがない」と決め付けていることも、再検討する。

劉備の集団は、根拠のない思い込みが激しそう。

最初の「なぜ」で、直接的な要因を見つけて、切り口にする。そうすれば、モレやダブりがなくなる。思いつきに飛びつき、迷走することを防げる。

思いつきとは、「関羽が偉そうだから、悪い」とかね。

代表的な切り口を借りるのも有効。ヒト、モノ、カネ、情報。質、コスト、納期。ヒト、設備、材料、方法。心、技、体。

儒教は、フレームワークが豊富だ。「五常の徳」とかね。諸葛亮なら、どんな切り口を使ったのだろう。


まず事実を確認する。インタビューが有効だ。しかし人の意見は、憶測や飛躍がつきものだ。質問するときに、因果関係がおかしいと思ったら、適当に切り捨てる。
「なぜ」をくり返すときは、以下の4点に注意。
 ◆単純な表現か(事実の素直な表現か)
 ◆要因の中に、因果関係が含まれていないか

「文官の数が少ないので、漏れなく徴税できない」を、1つの要因にまとめてしまうのは、悪い例である。
次の「なぜ」では、徴税に漏れがあることに目を向けるべきなのに、文官が少ない理由に目が行ってしまう。
要因は1つずつ書き、入れ子にしない。

 ◆因果関係の逆も成り立つか

「領民が逃亡した。なぜか。税率が重かったからだ」は、良い例。
しかし、「領民が逃亡した。なぜか。今年は不作だったからだ」は悪い例だ。不作でも、全ての領民が逃げ出すわけではない。
以上のように考えるべきらしいが、、
ぼくなりに言い換えれば、「問題解決したければ、必要充分条件でしか、要因を結んではいけない」ですね。高校の数学で「逆は真とは限らない」と習うように、逆が成り立たないからと言って、その命題を棄ててしまうのは、論理学的には正しくない。

 ◆他にもっと大きな原因がないか

「民心が乱れた。なぜか。祠を毀したからだ」は、確かに成り立つ。後漢の人は、祠が大切である。だがもっと別に、社会が乱れた理由がありそうなものである。


劉備は領土がない
 領土を得られない
   州牧としての領土がない
     劉備の「徐州牧」は名ばかり
       劉備が曹操に敗れた
     曹操が任命権を持つ
       曹操が献帝を擁す
   領土を攻め取れない
     戦争する気がない
       劉表の客将という立場に甘んじている
         劉表への恩義
         蔡瑁たちへの警戒
     戦争に弱い
       攻城戦ができる将がいない
       兵力が少ない
     時機を見るのが下手
       劉備の性格
       チャンスを見抜く参謀の不在
 領土を保てない
   外敵を防げない
   領国経営ができない
     政策方針がない
     文官の質・量の不足

本当は図を描くのだが、面倒なのでツリーにすると、劉備が領土がないという問題は、上のように掘り下げられます。本当に難しいプロセスで、ぼくは全く上手くできたとは思っていないが、例示なく次には進めないため、恥を忍んで載せました。
ポイントは、2つ。
 ◆問題を拡散させないこと。
 ◆人の意識や意欲のせいにして片付けない
「なぜなぜ」の途中で、意識の問題が出てくることはある。しかし主語を他人や制度にすり替えると、どうしようもなくなる。主語を変えないことがポイント。

「劉備が成功しないのは、社会の大義が衰退したからだ」と言ってしまうと、どうにもならん。あくまで主語は劉備を保つのがコツ。

どうしても個人攻撃になるときは、もう1回「なぜ」をやり、仕組みの問題に落とす。

ここまで来てやっと、真因(元凶)を突き止める。
今回のモデルケースでは、上で赤字にした「チャンスを見抜く参謀の不在」が、ぼくが想像する範囲での真因です。

真因は必ずしも1つじゃない。化学反応のように、複数の条件が揃って初めて起こることもある。
しかし同時に全部はできないから、絞り込む。環境の変化に目を配り、必要に応じてテーマを乗り換える。

真因かどうか、3点でチェックできる。
 ◆手を打てば問題が解決し、同じ成果をあげ続けられる

荊州や益州のみならず、雍州だって涼州にだって使いまわせる。

 ◆問題点まで、因果関係を遡れる

参謀がいないから、時機を見れない、時機を見れないから、攻め取れない。攻め取れないから、領土を得られない。得られないから、領土がない。
そんなにおかしくはないと思うが、、どうでしょうねえ。

 ◆真因にもう1回「なぜ」をぶつけると、問題が拡散しないか

劉備陣営の内側に向っていくので、良いはず。


次回、対策を立てます。