表紙 > 旅行他 > イベント「三国志街道」第2回で、満田剛先生に教わったこと

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「三国志街道」というイベントに、参加してきました。
満田剛先生に、イベント後のお酒の席でも、教わってきました。

『三国志』が読みやすい理由

満田先生曰く、
「陳寿の『三国志』は、元ネタとなった王沈『魏書』や『魏略』、韋昭『呉書』の佚文をはじめ、裴松之注の文章などとの比較検討などをすれば、編集方針の偏りも見通しがつくし、信用できる記事(あるいは、信用するしかない記事)と、信用できない記事をある程度分けることができるので、読みやすい方かと思います。唐代に成立した『晋書』などは、読みにくい。唐代の編集方針の偏りだけでなく、元ネタとなった諸本がいくつもあり、それらの偏りまでもが、混ざりこんでいるからです」

毎日寝る前に、3回読み返したい教えです。
どう間違っても、「信用できる記事ばかりだから、読みやすい」なんてことは、史学ではあり得ません。


陳寿を読むときの注意点は、何か。
陳寿の周りにいた、漢臣・魏晋の子孫たちの顔ぶれを、念頭において読むこと。子孫の目の前で、祖先の悪口を書くことは難しい。

満田先生の本を、的外れに批判する人がいるそうです。
こんな理屈を押し通すと嫌われますが、大阪でまかり通るクレーマーの言い分は、
「金を払ったら、お客様やんけ! 何を言ってもいいんや!」
です。間違ってはいない。
ぼくもまた、満田先生の本を含めて、自分で金を払って読み、好き勝手にコメントする立場でした。裏づけのない批判を、気分次第でやる。
しかし満田先生に直接お会いすると、めったなことは書けない。っていうか、無遠慮なことは書きたくない。
なぜか。曹操の臣を批判した、禰衡のようになりたくはないからです。禰衡は、いつまでも蚊帳の外の野次馬だ。人対人として、曹操の優秀な臣と交わることはできなかった。
ぼくの卑近な比喩で恐縮ですが、陳寿の気持ちが少し分かったかも?

コンマ5の世代、諸葛亮と陸遜

内藤湖南が論じているそうですが、三国志を読むときは、世代に着目するといい。
孫堅や曹操や劉備は、第1世代。孫権や周瑜は、第2世代。
稀有な例として、諸葛亮と陸遜がいます。諸葛亮は、1.5世代。陸遜は、2.5世代。建国者でありながら、後継者でもあるという人です。歴史的役割として、三国時代には、他にいないそうです。
このコンマ5世代の2人だけが、1人の列伝で、『三国志』の1巻を形成しています。満田先生曰く、これは偶然ではない。

話題は派生し・・・陸遜は、北伐する気があったか。
これも史料にない、謎のひとつ。
満田先生曰く、赤壁のときの陸遜は、張昭のように主張はしないが降服派であり、いわゆるサイレント・マジョリティの一員だった可能性がある。孫策の娘を陸遜に娶らせて、孫氏と陸氏が「仲直り」したのは、陸遜が降服派だったことも一因かも。

「サイレント・マジョリティ」も、耳に残るフレーズです。


満田先生曰く、呉で北伐を主張する人は、なぜか死んでしまう。孫策や諸葛恪が、その例です。
荊州の劉表、揚州の孫権は、南方に戦力を伸ばして、財源を確保することに、熱中したのではないかと。

劉表の論文、オンラインで読めます

満田先生は、
「劉表政権について : 漢魏交替期の荊州と交州」
という論文を書かれたそうです。

CiNiiというサイトで閲覧できると酒席で伺い、いま検索したら、お金を払わなくても、表示されました!
またじっくり拝見します。今回はイベントのメモに徹します。
ただ「論文を分かりやすくアレンジして、本にします」と仰ったので、そちらも楽しみにしています。

劉表は、同時代の人から、プラス評価を受けていない。賈詡が例外的に、ちょっと弁護しているが、やはりダメには変わりない。
なぜか。
満田先生曰く、劉琮が降服するときに、口裏を合わせたからだと。
「荊州の降服が遅れたのは、すべて劉表のせいです。荊州の人は(劉表以外は)早く曹操さまに帰順したかったんです、実はね・・・」
というウソのせいで、史書に記録された劉表は、優柔不断で無能の人になったそうです。
史書は、都からの目線で書くので、視点が偏る。劉表の件は、史書の偏りに注意せよ、という例。

劉表の北伐など、「未遂系のネタ」には、面白いものがたくさんあるそうです。漢中を攻めろと言った呂岱も然り。

「未遂系」は、次の三国ファンのキーワードかも。

異民族と、仏教の話

以下、ぼくの勉強不足のせいで、面白さを堪能できなかった話題。
異民族系では、
 1.諸葛亮の北伐は、いつも異民族の居住地へ:馬超や王平
 2.呉の異民族対策は、呂岱と賀斉が重要人物
仏教系では、
 1.蜀に仏教の記録がないのは不自然(儒教者・陳寿が削ったか)
 2.交州の士氏政権には、仏教徒がいた(花びらをまく記述)
 3.仏様が結坐する模様の壺が、三国時代の出土品
 4.『大蔵経』など仏教経典が伝える、三国時代の記述の扱い 

おわりに

日常の会社生活のなかで、身の周りに、三国ファンがいません。
ぼくはゲームから三国志に入ったものの、いろいろ本を読んでいるので、それなりに自分は詳しい方だと思っていました。今回イベントに参加させていただき、認識違いであることに、気づきました。
もっと勉強したい!そう思えたイベントでした。ぼくの三国ファン歴において、記念すべき転換点にします。100302+100622