表紙 > 漢文和訳 > 『世説新語』に登場する、鍾会を総ざらい!

02) 鍾会は、武器倉庫のような奴

『世説新語』より、
鍾会が登場する全てを抜き出します。

賞誉5、鍾会が人をほめます

鍾会は言った。
王戎は、人の思考をよく理解する」
裴楷とは、いくら喋っても飽きない」

鍾会は、同レベルの頭脳をもった話し相手を愛したようです。さすが清談の時代のプリンスです。

司馬昭が鍾会に、誰を登用すべきか聞いた。
鍾会は答えた。
「王戎は簡要で、裴楷は清通な人です」
司馬昭は、裴楷を用いた。

あれ?王戎はなぜ用いられなかったの?

賞誉6、天下に不良在庫のなくならんことを

鍾会のところに、2人の少年が訪れた。王戎と裴楷だ。2人が帰ったあと、家にいる食客が、鍾会に聞いた。
「2人の少年を、どんな人物と見る?」
「王戎は簡要で、裴楷は清通な人だね。

上段の話と一緒だ。きっと同根のエピソードで、リミックスバージョンなんでしょう。

20年も経てば、あの2人の賢い少年は、吏部尚書になるだろう。私は願うよ。天下に埋もれた才能が残らないといいなあ」

鍾会が、ふつうの、いいオッチャンじゃないか。
鍾会は、王戎よりたった9歳上。なんで「20年もしたら」なんて、気の長い話をしたんだ。発言時の鍾会の年齢を上回ってしまうじゃん?
20年後は・・・鍾会自身は・・・どういう地位に収まっているつもりだったのでしょう。皇帝にでもなってるつもりの発言?

賞誉8、鍾会はガチャガチャした武器倉庫だ

裴楷は言った。
「夏侯玄と会うと、廟堂にいるように清粛で、背筋が伸びる。
 鍾会と会うと、武器庫に並んだ矛戟を見ている気分だ。
 傅コと会うと、広大で備わらぬものがない。
 山濤に会うと、山に登って下界を見下ろす、深い気持ちになる」

小ざかしく、ガチャガチャした人間って感じだ。
互いが互いを評価している、魏晋の貴公子たちの人間関係に、ちょっと興味がある (笑) そこからどうやって司馬氏が頭1つ抜き出るかという過程にも興味がある。鍾会もまた、野心を持った人だったし。

賢媛8、あなたたちは優秀じゃないから安全

許允が、李豊の巻き添えを食って、司馬師に殺された。

254年のこと。司馬氏の反対勢力を排除する過程。

司馬師は、鍾会に命じて、許允の遺族を調査させた。

許允の妻は、我が子に言い聞かせた。
「あなたたちは、いくらかは優秀ですが、才能がズバ抜けていません。鍾会から探りが入ったら、ありのままに話しなさい」

賢いふりをしたら、将来の禍根になると判断される。バカなふりをして、演技がバレたら、やはり将来の禍根になると判断される。「中の上」あたりの才能を隠さないことが、生き延びるのに、ちょうどいい。

母は言う。
「いいかい、子供たちよ。鍾会が(カタチばかりの)哭礼を辞めたら、すぐに泣き止みなさい。

建前以上に泣けば、父の仇を討つ意志アリと見なされる。「孝行息子」でないほうが、生き延びるのに、ちょうどいい。

天下国家のことは、少しだけ鍾会に尋ねなさい」と。

政治の話ばかりしたら、司馬師への批判だと解釈される。かと言って、まったく政治の話をしないのも、敢えて避けていることを詮索され、密かな大謀を勘ぐられる。軽く触れるくらいが、生き延びるのに、ちょうどいい。お笑い芸人・2丁拳銃のネタである。
参考文献では「少しく問ふべし」を「あまり聞いてはいけません」と訳してある。英語の「FEW」を、否定文に訳すのと同じですね。

子供たちは、母の言いつけを守った。
鍾会は司馬師に、
「許允の遺族は、警戒の必要なし。殺す必要は、ありません
と報告した。

鍾会は、ただの引き立て役です。注目したいのは、司馬師が鍾会に、敵対者を排除する手伝いをさせていたってこと。司馬氏から信任を得ていたから、蜀を討つ大将になった。