03) 寝ているときの暗殺対策
『世説新語』に登場する曹操を、全て見ています。
すでに有名な話も出てきていますが、
「あの話の出典は、『世説新語』だったのか!」
という気づきにも、ご利用頂ければと思います。
仮譎1、袁紹の花嫁泥棒
曹操は若いとき、袁紹と遊び仲間だった。
曹操と袁紹は、新婚の家に忍び込み、刀を振りかざして新婦を脅し、新婦を盗み出した。
袁紹は逃げるとき、イバラの中に落ちた。袁紹は、トゲが刺さるのがイヤで、動くことができない。曹操は、大声で叫んだ。
「ここに盗賊がいるぞ」
袁紹はびっくりして逃げ、捕まらずに済んだ。
仮譎2、もうすぐ梅林があるぞ
曹操軍は、飲み水がなくなった。曹操曰く、
「前方に、梅林があるぞ」
兵士たちは、梅林を想像して、唾液が出た。曹操軍は途中であきらめず、水源に辿りつくことができた。
仮譎3、暗殺する意欲そのものを挫かせる
曹操は、周囲に言っていた。
「オレを傷つけようとする殺気を、感じ取ることができるのだ」
下級役人に、曹操は命じた。
「お前は刀を持って、オレに近づけ。オレは、暗殺の危機に気づいた!と演技する。いちおうお前を捕らえるが、後からきちんと褒美を取らせる。他言するなよ」
下級役人がパフォーマンスを実行すると、曹操は下級役人を斬ってしまった。死人に口なしというわけで、みなが曹操の予知能力を本当だと思った。
どうしてこれが『世説新語』に載っているんだ?
可能性は2つだ。1つは、創作だから。1つは、事実だったのだが、曹操の作戦が、何らかのキッカケでバレたから。曹操の名誉のため、前者であることを願います (笑)
仮譎4、ベッドに近づいたら、殺すぞ
曹操は周囲に言っていた。
「オレが寝ているとき、近づいてはならない。近づけば、斬るぞ。寝ているあいだのことは、自分でも覚えていないんだ」
また「覚えていない」とは、
「起きているときは斬らないような、建前上は親しい人でも、構わずに斬り殺すぞ」
と暗に言っているに等しい。
重臣や身内すら疑った、性格の悪いイメージが描かれてます。
あるとき曹操はタヌキ寝入りしていた。近づいた人を、殺した。睡眠中の曹操に、近づく人はいなくなった。
仮譎5、袁紹の刀
袁紹が若いとき、寝ている曹操に刀を投げつけた。
刀が少し低かったので、曹操に当たらなかった。曹操は、次はきっと高めを狙ってくると思い、身を低くした。
果たして2投目は高かったので、曹操に当たらなかった。
ちょっと腕が悪くて、発想が常識的な袁紹。いつも気を抜かず、人の心を読むのが得意な曹操。このイメージを膨らませた創作として、楽しめばいいと思う。
忿狷1、性格の悪いディーバ
曹操は、清らかな高音のでる歌姫を持っていた。しかし歌姫は、性格が酷悪だった。
曹操は歌姫を殺したいと思ったが、歌声を失うのが惜しい。
曹操は100人をオーディションして、レッスンを受けさせた。1人の歌唱力が、性格の悪い歌姫と同レベルにまで上達した。曹操は、性格の悪い歌姫を殺した。
惑溺1、袁氏を破ったのは「奴」のため
曹操が、鄴を陥落させた。
「袁煕の妻・甄氏を早くつれて来い」
曹操は、評判の美女を探した。兵士たちが甄氏を探すと、すでに曹丕が手に入れた後だった。曹操は言った。
「苦労して袁氏を破ったが、この戦役は、奴へのプレゼントになってしまった」
現代日本語の「やつ」とは違うだろうが、「奴隷」の「奴」だし、曹操の怖さが感じられます。
おわりに
意外に少なかった!
というのが、ぼくの感想です。
『世説新語』と言えば、悪役の曹操がたくさん登場すると思っていた。とても全部を読みきれないくらいの分量を覚悟していました。しかし、けっこうコンパクトでした。
そして、どのエピソードも、漏れなく有名だということにも驚き。三国ファンは、曹操に関する記述を1つも漏らすことなく、語り合ってきたのですね。100122