01) 劉淵が冒険を始めました
寺尾善雄訳『後三国演義』秀英書房1995
を読みました。
清代の『後三国石珠演義』の翻訳です。幼稚なイラストの表紙に、2100円という高めの価格設定だから、買うことが憚られていた本です。豊田市立図書館で借りてきました。
いま並行して口語訳している『通俗続三国志』とは全くの別物です。接点ゼロだ。西晋の滅亡を題材にしているという点では、同じだが。
このページの目的
『後三国演義』を買うことに躊躇している(ぼくと同じ)人に、
内容をつまみ食いしてご紹介し、
何となく読んだ気になっていただくことが目的です。
15分で読めるほど、短くまとめるつもりです。
ぼくがつまらないと思ったところは、削っています。原書が気になった方は、本屋さんへどうぞ。
物語の特徴
西晋末をパロディにした、冒険小説です。
神秘的な誕生をし、西晋を滅ぼすという使命を背負った劉淵は、強敵を順番に倒す。いちど劉淵に負けた強敵は、味方になってくれる。まるでドラゴンボールのような設定です。
劉淵は、裸一貫から始まり、友人を得て、軍隊を得て、根拠地の晋陽を得て、西晋の洛陽を攻め落とす。結婚をして、めでたくハッピーエンド。安っぽいRPGか少年漫画みたいんだ。
歴史ファンが楽しむとすれば、3点だ。
①八王の乱がディフォルメされて、分かりやすい
②東晋を建てる司馬睿が、入念に伏線されてる
③西晋のみならず、五胡や東晋の人物まで総出演する
とくに注目したいのは、③です。明らかに後代の人なのに、4世紀後半のキャラまで登場する。日本史に例えるなら、応仁の乱の物語に、著名な戦国武将が総出演するようなものだ。
桃太郎として生育した劉淵
さっそく本編のご紹介を。
平陽府の山奥の池に、肉の袋が天から降ってきた。誰かが近寄ると、肉袋は水中に沈んでしまう。だが宦官の劉氏にだけ、肉袋は懐いた。肉袋から、赤子が生まれた。劉淵である。
桃じゃなく、子宮を摘出したような、肉の袋だから、グロいが。
劉淵の手には「天の申し子」と書いてあった。
成人した劉淵は、賈皇后が乱す西晋を滅ぼすため、旅に出た。
劉淵は同志と出会い、義兄弟の契りを結んだ。同志の名は、段琨、石季龍、慕容庵だ。
劉淵は、呼延晏と知り合った。李雄が手紙を持ってきた。
李雄は益州の巴氐だが、なぜか北東でパシリをしてる。可哀想。
李雄が劉淵に言うには、
「岸壁の石から生まれた女性・石珠が、劉淵さんの味方になりたいそうです。石珠さんは、20万の軍隊を持ってます」
彼女が主役のオリジナルキャラ。石珠は総大将として、趙王を名乗る。最後に石珠は、劉淵に地位を譲り、養子の石勒を残して、仙人になる。
石勒とは、言わずと知れた後趙皇帝。石勒と石虎は、史実では血縁だが、この物語では他人だ。
石珠の協力を得て、劉淵は軍隊を手に入れた。
晋陽が先か、洛陽が先か
劉淵が挙兵した。最初の攻撃目標について、揉めた。
「西晋の首都・洛陽は警護が堅い。まず晋陽を奪って、私たちの本拠地にしよう」
「しかし賈皇后の悪行を見過ごし、洛陽を放置しては、私たちの名分が失われるでしょう。晋陽より洛陽を先に攻めるべきです」
「いけません。賈皇后は、西晋の恵帝を手中にしています。賈皇后が、皇帝の号令として、私たちを迎撃したら、手ごわいでしょう」
「いいえ。恵帝は惰弱ですから、黄河を越えて、私たちを迎え撃つことはないはずです」
「天下を取るには、正々堂々とやるべきです。劉邦や劉秀を見習うべきで、曹操のように天下を騙してはいけません。正面から、洛陽を攻めましょう」
曹操を「ずるい」と言うのは、正史の石勒の発言が元ネタでしょう。
まず晋陽を目指すことに決まった。
緒戦。劉淵の軍は、長平関を守る晋将を釣り出して破った。この戦いで活躍したのは、姚弋仲である。
次回、劉淵が晋陽を得るために戦います。