表紙 > 読書録 > 赤壁の開戦前、張昭が孫権に『六韜』を講義したら

03) 無事を知り、滅亡を知らず

『六韜』の中では、周の文王が死にかけ、
太公望から、最期の講義を受けています。

第6、仁義忠信勇謀

張昭がいきなり調子を変え、大声を張り上げた。
君主が国を失うのは、どんなときでしょうか」
孫権が押さえる戸が、ガタッと動いた。孫権は張昭の言葉に、隠しきれないほど動揺した。
張昭は言う。
「太公望曰く、役人の登用に失敗するからです。では、どんな役人が、国を滅ぼすか。裕福になると無礼になる人。高位に昇ると驕慢になる人。重責を負うと、意見を変えて逃げ出す人。隠し事をする人。危険な仕事を怖れる人。臨機応変に対処できない人」
孫権は、張昭の言葉を聴きながら、昼間の群臣たちを思い出した。張昭が1つを読み上げるたびに、必ず誰かの顔が浮かんだ。

降服を主張した群臣のために、弁護します。大義名分、一般常識からいくと、孫権は揚州を明け渡すのが正しい。だって曹操は、皇帝を頂いているから。孫権はイチ地方官に過ぎない。中央から、より官位の高い人が視察にきたら、接待こそすれ、拒んではいけない。
孫権は、400年の漢帝国の支配を無視して、勝手に自立しようとしている。孫権その人の志の高さは、物語としてカッコいい。だが、必ずしもこちらが「普遍の正義」とは言いきれない。

張昭は補った。
「君主を守るのは、仁義忠信勇謀の6つを備えた臣下です。すなわち、さきに言った6つの汚点を持たない人です」

第7、国土の防衛

張昭が、孫権に説く。
「国土を守るには、何が必要でしょうか。太公望曰く、政治を他人任せにしないことです。親族と一枚岩になり、民衆に仁義を施せば、国土を守ることができます」

孫権の一族から、曹操に従う者が出た。孫権から見たら、裏切りである。この張昭の講義は、孫権にとってチクッと痛かったはずだ。

第8、国家の保持

「孫権どの、戸を開けませんか」
「なぜだ」
「次のテーマは『守国』です。太公望はこれを文王に説明する前に、文王に7日間の沐浴をさせました。いま沐浴など不要ですが、せめて対面して講義したい」
「・・・」
「いいでしょう。では、このまま戸の外より話します」
「待て」
孫権が、すすす、と戸を引いた。張昭は、孫権の青い顔と対面した。唇が、小刻みに震えている。
「張公、教えてくれ。張公は会議で、曹操に揚州を差し出せと言った。降服せよと言った。オレの聞き間違いではあるまいな」
「然り」
「では一体なぜ、来月には君主でなくなるオレに、『六韜』など講義するのか。オレには分からない」
張昭は、竹片をめくった。
「『六韜』第八、守国。天地には、四季の運行があります。国を保つためには、この道理に逆らってはいけません。天下泰平ならば、仁君や聖人は出番がない。天下が乱れて初めて、仁君や聖人が必要とされる。寒さと暑さが交互に現れるのと同じです。これを知りなさい」
「張公、張公よ。オレの質問に答えろ」

第9、賢者を尊ぶ

張昭は無言で室内に移動し、孫権の正面に座った。
「太公望曰く、君主には遠ざけるべき人材が6つあります。豪邸に住み、浪費する人。農産を怠り、遊侠を気取る人。徒党を組んで、君主に対抗する人。外国の君主と密通する人。主君が作った序列を軽んじる人。一族の威勢に頼み、庶民を脅す人」

なんか、いくつかが魯粛を指しているようだが (笑)
『六韜』は、農本主義です。これに違反する魯粛は「孫権が遠ざけるべき奸族」ではないはずだ。ちょっと後漢末と合わない?

張昭は、間髪を入れない。
「君主には避けるべき行いが7つあります。
1つ、知恵のない人を将軍にするこ。蛮勇を頼んでムチャします。
2つ、意見をコロコロ変え、世間の受けだけが良い人を用いる。
3つ、粗末な衣服を、これ見よがしに着ている偽善者を褒める。
4つ、奇抜な服装で、偉そうに時世を語る人を、寵愛する。
5つ、告げ口が好きで、目先の利益ばかり求める人を 近づける。
6つ、華麗な装飾に凝り、農業を軽んじる人を使う。
7つ、怪しげな方術に親しむ」

第10、人材の登用

張昭は、背筋を伸ばし、孫権を鋭く見つめて話す。
「なぜ賢人を招いたはずの君主が、失敗するか。君主が、世間の評判が高い人ばかり好み、実力のある人を用いないからです。これでは、仲間の多い人だけが昇進し、国家にデメリットをもたらします。実力本位で、人事評価すべきです」

張昭が孫策に仕えたとき、北方から張昭を褒める手紙が、たくさん届いた。張昭は、敵への内通を疑われないかと、心配になった。
評判が高い者の不便さも、張昭は知ってます・・・

11章、賞罰

「人を賞するときは『信』を基準とします。人を罰するときは『罰』を基準とします」

「悪いことをすれば必ず罰を受ける」という風土を作るのが大切。これは分かる。しかし「信」ってなんだ?
PS2のゲーム『真・三國無双2』で諸葛亮が必殺技を使うときのセリフが、「信賞必罰」でした。今から思えば(っていうか当時も)どないやねん?って感じですね。


次回、孫権が殷の紂王に絡めて、泣きつきます。