表紙 > 読書録 > 赤壁の開戦前、張昭が孫権に『六韜』を講義したら

04) 武器を使わない12の攻法

「六韜」の名のとおり、6巻まであります。しかし分量だけで言えば、ここまでで4分の1が終わってる。

12章、用兵のコツ

張昭が咳払いをした。
「孫権どの、よくお聞きなさい。殷の紂王は、国の無事を願いましたが、国の滅亡を想定すらしていませんでした。最悪のパタンです」
「どうすれば良いか」
「君主が、つねに国の滅亡を心配しているからこそ、国は存続することができるのです。国は幸運によって、存続するのではありません」

深いなあ。

「オレは曹操に詰め寄られて、国の滅亡のみを知り、国の無事を知らん。こういうとき、太公望はどうせよと言うのかな」

孫権に『六韜』にない勝手なことを喋らせてみた。収拾がつかなくなったので、オリジナルで乗り切るしかない。。

「君主が思い描けないことを、臣下が実現できるはずがありません。まずは、国の無事を、その胸の中に築きなさい。これにて『六韜』第1巻、文韜は終わりです」

「成功のイメージすらない奴が、成功できるわけがない」
これはぼくが、前職で上司に言われたこと。「願えば叶う」は充分条件を満たさないからウソだが、「願わねば叶わない」は本当である。


第1巻「文韜」の次は、第2巻「武韜」です。

「韜」とは、兵器を弓や剣を入れておくケースだ。いちばん初めに注釈すべきことだったなあ (笑)

第13、民を愛する政治

「孫権どの、落ち着いたようですね。私の質問に、答えなさい」
「なんだ」
「殷末、紂王は暴虐でした。紂王は、周の文王たちによって、直ちに討たれるべきだったでしょうか
「確か『六韜』で、太公望は否と言ったはずだ」
「孫権どのの頼りない記憶など、聞きたくありません。いま孫権どのがどう思うか、私は聞いているのです」
「紂王は、直ちに討たれるべきだったと思う」
「なぜですか」
「張公が言ったではないか。紂王は暴虐だと」
「他に理由は」
「いや、暴虐ならば、討たれるべきである」
「ああ孫権どの。先刻からあなたは、一面でしか物事を見ない人だ。紂王の性質について、見落としがないかと、思考しましたか
「しない。紂王は太古の人物だから、分かるわけがない」
「しかし、紂王の美点を考慮する視角を持てたかが、重要です
「もう、たくさんだ。紂王は、悪者なんだ」
孫権は、頬を膨らました。

「君主たる人は、思考を止めてはいけません」
「張公は、曹操の美点を、オレに言いたいのだろう。だから議論を捻じ曲げて、紂王なんかを褒めるんだ」
「違います。紂王からは天命が去り、滅ぶべくして滅びた。天下が定まるときは、露骨に戦争しなくても、自然と定まるものです」
「だから張公は、曹操の――」
「こら、権。黙れ。君主の思考を『六韜』に学びなさい」

第14、文徳の政治

「天下を治める聖人は、何らかのルールを守ろうと、ムリをする必要はありません。焦らず、天地の運行に合わせ、民心を重んじれば、自然と国は1つとなります」

無為を説いてる。小さな政府を説く『老子』っぽいです。

第15、文をもって、敵を伐つ

孫権が吼えた。
「武力を使わず、敵を倒せるものか。天地に任せ、曹操が自然に立ち枯れることに期待するなんて、努力の放棄であり、人間としての敗北だ。武力による決死の挑戦は必要だ。しかし曹操の兵は100万、オレは最大で5万・・・絶望的だ・・・」
「いいえ、武力を使わなくても、強敵を倒せます。太公望曰く、武力を使わない、12の方法があります。
1つ、強敵の意思に従って争わなければ、油断&自滅させられます。

弱者がいちばん取りやすい作戦は、これですね。

2つ、敵の君主と、強力な臣下1名を、対立させます。
3つ、君主の近臣に賄賂を送り、身の回りを切り崩します。
4つ、淫乱の楽しみを、敵の君主に教えます。
5つ、敵国の忠臣への贈り物を増やし、敵国の君主への贈り物を減らします。忠臣が使者に来たら、なるべく長く抑留して、相手国の君主に不審がらせます。また、初めに来た使者の要求は拒絶し、交代した使者の要求だけを快く認めれば、敵国は初めの使者の心を疑うでしょう。

12コの中で、これが一番面白かったし、上手い。他の11コは、敵の自滅を期待するもので不確実だけど、これなら自国の意志でカンタンに実行可能だから。成功率も高い?
劉表の臣・韓嵩が、曹操に遣いするとき心配したことだ。

6つ、敵国の在外の官吏を、孤立させます。
7つ、手厚く賄賂を贈り、貯蓄と浪費に熱中させなさい。
8つ、敵国の利益になる相談を持ちかけ、重臣と親しくなりなさい。
9つ、敵の君主を褒め上げ、虚栄虚名で飾りなさい。
10、敵の言いなりになり、正念場で突然に裏切りなさい。
11、自国の人間を送り込み、敵国の要職に就かせなさい。
12、敵の悪臣に、謀反を起こさせなさい。
以上の全てを用意しておけば、天の意志が動いたとき、カンタンに敵国を滅ぼすことができます。ゴリゴリの軍役なんて不要です」
「覚えきれん」
「孫権どのは、多面的な視点を身に付ければ、それで宜しい。12コの計略は、さまざまな切り口があるという、例に過ぎません。また、この1ヶ月で全てをやれと言うのではありません。10年20年かけて、じっくりやれば宜しい」

しぶとい外交巧者へと、のちに孫権は成長します。

第16、人心を重んず

「天下を治めるには、人民の意志を妨げず、人民を富ませようと努力しなさい」
「抽象的だな」
「ナマイキな・・・。太公望曰く、天下を治めるには、6つの人格が必要です。度量、信義、仁愛、恩恵、権力、信念。お分かりですか」
「なお分からん」

あと1節を残して、早くも第2巻「武韜」は最終回です。
張昭の本音に、孫権が切り込みます。