05) 徐州でなく、荊州を取る理由
呂蒙のことを、よく知るために、目ぼしい『三国志集解』の註釈を抜書きしながら、翻訳します。
『集解』の全訳でないことは、ご容赦ください。学術研究者ではなく、ファンにとって興味深い事実は、漏らさずに書くつもりです。どうしても主観で取捨選択してしまいますが。
関羽を攻めるべきだと、政策を転換させる
「(今)[令]征虜守南郡,潘璋住白帝,蔣欽將游兵萬人,循江上下,應敵所在,蒙為國家前據襄陽,如此,何憂於操,何賴於羽?且羽君臣,矜其詐力,所在反覆,不可以腹心待也.今羽所以未便東向者,以至尊聖明,蒙等尚存也.今不於彊壯時圖之,一旦僵仆,欲復陳力,其可得邪?」
權深納其策。
呂蒙は、孫権に秘かに述べた。
「征虜将軍・孫皎さまは、南郡を守る。潘璋は、白帝にとどまる。
蔣欽は游兵1万人を率い、長江を移動させ、敵とぶつかれば戦います。わたくし呂蒙は、国家のために、さきに襄陽に拠ります。
この布陣なら、なぜ曹操を憂う必要がありますか。
なぜ関羽を頼る必要がありますか。
しかも、関羽の君臣は、力量を過信し、同盟を裏切ってきます。孫権さまが、関羽を腹心として、待遇してはいけません。関羽がまだ(荊州の)東を攻めないのは、なぜか。孫権さまが聖明で、わたくし呂蒙らが生きているからです。孫呉の人材が死ねば、関羽を倒せなくなります」
韓慕盧がいう。呂蒙は、目先の利益を取りに行った。ために呉蜀が戦い、曹氏に簒奪を許した。孫権は、曹丕に屈した。呂蒙は、国を誤らせたのだ。
ぼくも思うに、
この呂蒙のセリフは、歴史家の創作だ。後世のバイアスがかかり過ぎだ。潘璋の守備位置を間違え、呂蒙の死を暗示した。しかも不自然に長い。
孫権は、呂蒙の作戦を、認めた。
又聊復與論取徐州意,蒙對曰:「今操遠在河北,新破諸袁,撫集幽﹑冀,未暇東顧.徐土守兵,聞不足言,往自可克.然地勢陸通,驍騎所騁,至尊今日得徐州,操後旬必來爭,雖以七八萬人守之,猶當懷憂.不如取羽,全據長江,形勢益張.」權尤以此言為當.及蒙代肅,初至陸口,外倍修恩厚,與羽結好.
また孫権は、徐州を取ることも、呂蒙に検討した。
呂蒙が答えた。
「いま曹操は、遠く河北にいます。新たに袁氏を破り、幽州や冀州にかかりきりです。われら東南に目が届きません。
…このあたりの呂蒙のセリフ、『呉書』を作るとき史料がなかったのね。そりゃあ、秘かに提案したんだから、記録になかろうが。
徐州を守る曹操の兵は少ないので、勝てるでしょう。しかし徐州は、中原と陸続きです。騎兵が使えます。
もし孫権さまが徐州を得ても、曹操は10日後には奪い返すでしょう。7万や8万で守らせても、曹操に奪われるリスクは高い。徐州より、関羽が先です。長江を上流まで押さえ、形勢を有利にしましょう」
孫権は、呂蒙の言うとおりだと思った。
関羽をだまし討つ
及蒙代肅,初至陸口,外倍修恩厚,與羽結好. 後羽討樊,留兵將備公安﹑南郡.蒙上疏曰:「羽討樊而多留備兵,必恐蒙圖其後故也.蒙常有病,乞分士還建業,以治疾為名.羽聞之,必撤備兵,盡赴襄陽.大軍浮江,晝夜馳上,襲其空虛,則南郡可下,而羽可禽也.」
呂蒙は魯粛と交代し、陸口にきた。呂蒙は外ヅラでは、関羽に対し、恩厚を倍増させた。関羽と、友好を結んだ。
のちに関羽は、曹仁の樊城を討った。関羽は部将を、公安と南郡(江陵)に留めた。呂蒙は上疏した。
「関羽が、公安と江陵に兵を留めたのは、わたくし呂蒙を恐れたからです。私は病気がちです。兵士を分け、療養の名目で、私を建業に呼び戻してください。関羽は、私の不在を聞けば、必ず備えを解き、兵をすべて襄陽に使うでしょう。大軍で手薄な城を攻めれば、南郡は落ちます。しかも関羽を捕らえられます」
遂稱病篤,權乃露檄召蒙還,陰與圖計.
羽果信之,稍撤兵以赴樊.魏使于禁救樊,羽盡禽禁等,人馬數萬,託以糧乏,擅取湘關米.
權聞之,遂行,先遣蒙在前.蒙至尋陽,盡伏其精兵中,使白衣搖櫓,作商賈人服,晝夜兼行,至羽所置江邊屯候,盡收縛之,是故羽不聞知.遂到南郡,士仁﹑麋芳皆降.
蒙入據城,盡得羽及將士家屬,皆憮慰,約令軍中不得干歷人家,有所求取.蒙麾下士,是汝南人,取民家一笠,以覆官鎧,官鎧雖公,蒙猶以為犯軍令,不可以鄉里故而廢法,遂垂涕斬之.於是軍中震慄,道不拾遺.蒙旦暮使親近存恤耆老,問所不足,疾病者給醫藥,飢寒者賜衣糧.
小説にするなら、斬られるのは、呂蒙が若いときから親しい人がいいな。
羽府藏財寶,皆封閉以待權至.羽還,在道路,數使人與蒙相聞,
盧弼はいう。関羽は曹仁と、対陣していた。動けない。もし引き返しても、江陵を救うのはムリだった。
蒙輒厚遇其使,
周游城中,家家致問,或手書示信.羽人還,私相參訊,咸知家門無恙,見待過於平時,故羽吏士無心.會權尋至,羽自知孤窮,乃走麥城,西至漳鄉,皆委羽而降.權使朱然﹑潘璋斷其徑路,即父子俱獲,荊州遂定.
日本語訳をサボりました。まあ、単なる戦闘なので。
次回、呂蒙がお亡くなりになります。