表紙 > 漢文和訳 > 江戸時代の『通俗続三国志』口語訳-巻02~04

04) 異民族の天才軍師

涼州で独立した、劉備の孫・劉淵。
西晋では武帝が死に、バカな恵帝が即位しました。

張飛の孫が、曹爽の孫に守られる

劉淵と別行動をしている張賓は、張飛の孫である。

以前に、張賓を架空の人物だと書きましたが、違う。
史実の張賓は、趙郡中丘の人で、石勒の右腕だ。前漢の張良に準えられるほどの、参謀である。
もともと西晋末の叛乱者だが、張姓にかこつけて、張飛との血縁が設定されている。

張賓は、趙雲の孫、黄忠の孫とともに、蜀から関中に逃れた。従うのは、汲桑だ。汲桑は、趙雲の家の下僕だった人だ。

これもウソ。汲桑もまた、西晋に敵対する人。史実で、蜀漢との縁はない。西晋の敵=漢再興の仲間、というお決まりのアレンジ。


張賓たちは、100人の盗賊に包囲された。
「死にたくなければ、あり金を置いていけ」
張賓は答えた。
「私は漢中に旅行した帰りです。今から秦州の主人のところに戻るのですが、財産は持ち合わせていません」
張賓は、大立ち回りで盗賊を倒して逃げた。

主人公が試練を越えるのは、物語に必要なこと。しかし描写が長い。映像化するなら必要な場面だろうが、ぼくのサイトでは要りません。


逃げる張賓は、曹嶷という人に匿われた。
「私は曹爽の子孫です。曹爽が司馬氏のクーデターで殺害されたので、身を隠していたのです」

曹嶷もまた、西晋から独立する人。青州で割拠し、石勒と張り合う人だ。こんな西方にいるわけない。
曹姓だけれど、曹爽と関係はない。『通俗三国志』の読者に親しんでもらうため、血筋の因縁が設定されたのでしょう。

曹嶷は、張賓のために、張掖郡の陳元達を紹介した。
「陳元達は、任侠で知恵が多く、徳に優れて、文にも通じている。いま陳元達は隠居しているが、志を得るのを待っている。陳元達を頼れば、張賓さんたちは、漢を再興できるかも知れない」

陳元達は、史実で趙漢の名臣だ。皇帝がミスりそうになると、いちいち諫言してくれる。以前にこのサイト内で、正史を翻訳&考察しました。
『晋書』載記の劉粲伝と陳元達伝から、漢の末路を辿る

張飛の孫が、軍師・陳元達を手に入れる

張賓は、張掖郡に行き、陳元達を訪ねた。
「主人の陳元達は、いま留守にしております」
「そうですか、残念です。陳元達どのは、どちらに居ますか」
棲鳳楼で、詩を詠んでいます」

賢者の登場は、こういうクッションが必要。呼び鈴を押したらホイホイと出てきてはいけない。陳元達の大先生は、鳳凰が棲むという塔で、文化活動をしているらしい。

張賓が赴くと、陳元達が天下を憂う漢詩を、朗詠している声が聞こえた。張賓は、手紙のやりとりから始めて、礼儀正しさに礼儀正しさを重ねて、日数を費やし、陳元達と志を共有した。

劉備が諸葛亮を得るのと、同じくらいの名場面だ。

陳元達の器量は、管仲や晏子と同じで、蕭何や曹参と並んだ。北漢を建国するため、陳元達はついに謀師となったのでした。

歴史学用語で、匈奴の劉淵が起こした国を「趙漢」と言います。しかしこの小説では「北漢」と言うらしい。以後、使っていきましょう。

劉備の孫と、張飛の孫が合流する

劉淵は柳林川で、屯田を始めた。3万の兵を率いて、漢室の復興を狙う。劉淵に従うのは、斉万年である。

史実で、斉万年は10年近く、西晋に対抗した。斉万年の乱というノンフィクションに、劉備の孫・劉淵を乗っけたかたちだ。

劉淵は、西晋の秦州への侵略を開始した。

劉淵の出撃を、張賓の軍師・陳元達が知った。
「張賓どの、秦州を攻める軍があると聞きました。もしかして、張賓どのと同じ旧蜀の人ではあるまいか。今こそ大業を始めるときです。行って、加勢しなさい」

張賓は、斉万年の軍と出会った。張賓は、斉万年に連れられて、劉淵に再会することができた。

再会までの紆余曲折は、省略です。本当は味方なのに、敵だと思い込んで、撃ちあったりとかしてます (笑)

劉淵は張賓と会い、喜んだ。
「まさに虎が羽翼を手に入れたようなものだ。漢室の3たびの中興は、きっと成功するに違いない」

劉備と関羽と張飛と趙雲が、官渡の戦いのあと、故城で再会するシーンがあります。あれと同じ感動を想像して下さい。

斉万年が、1人で3将を斬る

秦州の守将は、夏侯惇の孫・夏侯ロクだ。
斉万年は、夏侯ロクが自慢の3人の猛将を討ち取った。

戦闘シーンには興味がないのよ・・・
戦場の駆け引きが、気になる方は、原典をチェックしてみて下さい。


次回、諸葛亮の孫が、ついに再登場します!