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3)貂蝉の出自

盧植も朱儁も、董卓も孫堅も曹操も出番がなく、劉備がひとりで黄巾を平定してしまった。

宦官の不正

手柄を立てた劉備のところに、十常侍の1人・段珪が自らお出ましになった。左豊は、登場の機会を失ってしまった。
「もし30万貫の賄賂を出せば、劉備どのを諸侯にしてやろう」
段珪がそう言ったから、張飛が飛び出して殴った。歯が2本抜けて、口の中が血まみれになった。『演義』では、劉備たちは宦官を懲らしめていない。庶民受けを狙った場面だ。

恩賞が降りず、兵を養えなくなった劉備は、外戚の董承を頼った。のちに曹操暗殺で、董承が劉備に接近する。そこからたぐり寄せ、2人が接触する場面を作ったのだろう。
劉備は論功行賞により、安喜県尉となった。現地で汚吏と衝突して、また張飛が活躍した。このクダリは、『演義』に引き継がれます。

董卓の伸張

霊帝が死んだ。少帝弁は『平話』で無視され、いきなり献帝が即位した。冒頭の設定で、この献帝が劉邦の生まれ変わりなんだが、全くそぶりすらない。伏線が、もったいないことです。
朝廷で王允が申し出た。
「黄巾の残党である張済と李傕が、涼州府を占領しました。董卓に命じて、張済と李傕を討たせると良いでしょう」
むちゃな話だ。 張済と李傕は、黄巾ではなく、董卓の部将である。もし董卓が出陣したら、2人の張済と2人の李傕が、出会ってしまうんじゃないか。ちなみに『平話』で董卓の部将を務めるのは、「李殻」だ。文字化け対策でしょう(笑)

董卓が長安から出陣しようとすると、大喚声が起きた。
宰相の丁原を殺し、丁原の馬を盗んだ呂布が街中を突破しようとしていた。『演義』の赤兎馬のエピソードはまだ出来ていない。董卓が呂布に与えたのではなく、『平話』では丁原の持ち物という設定だ。
「呂布よ。丁原を殺したことと、街中で矛を振り回したことは、罪だ。だが、この董卓の臣下になるなら、罪をリセットしてやろう」
董卓は司法権がないはずだが、勝手に呂布を許した。董卓は呂布を従えて、涼州を平定した。

「こんどは董卓が王朝のお荷物だ。どうしよう」
と献帝が聞くと、董承が答えた。
「曹操に任せると良いでしょう」
ついに曹操の初登場です。劉備にせよ曹操にしろ、軍のトップになるまでの時間が短い。登場したかと思いきや、大将を命じられる。ゲームにせよ講談にせよ、キャラ物の宿命です。
曹操は味方を集めるため、あちこちを回った。通りかかった県では、産業が富んでいた。
「ここの長官は誰か」
「劉備さまです」
「ああ。他の人に用事があって、たまたま通りかかっただけだが、劉備を知ることができた。劉備こそ、董卓を討てる将軍である」
曹操は喜んで勧誘した。劉備は渋ったが、張飛がはりきったから、劉備は参戦を決めた。

董卓の滅亡

反董卓軍を仕切るのは、「冀王」の袁紹だ。袁紹は王にならないし、この時点では冀州を領有してもいない。ツッコミところ満載だ。
袁紹は、劉備の官位の低さを侮った。
「確かに私は官位が低いですが、曹操どのがどうしてもと言うから、この軍に参加したんです」
劉備の面目が潰れてしまったので、曹操がフォローした。
「蕭何は3たび、韓信を劉邦に推薦しました。おかげで劉邦は、韓信を得ることができ、天下を取れたのです」
このセリフに、ぼくたちはハッとしなければなりません。『平話』は曹操に、ただ故事を語らせているのではありません。曹操は韓信の生まれ変わりという設定がありました!曹操の比喩によると、曹操が蕭何で、劉備が韓信で、袁紹が劉邦となっていますが・・・
まったく伏線と一致しない。含みも発見もない!『平話』のバカ野郎!

虎牢関です。
呂布の実力を見るため、陶謙の部将・曹豹が飛び出した。なぜKOEIのシミュレーションで伝説となった、最弱武将に登場させたか分かりません。捕らえられた。能力が低いので、解放されました。
孫堅が破れ、劉備三兄弟は呂布を圧倒した。

董卓は長安に遷都した。っていうか、『平話』ではさっきから皇帝は長安にいるんですが(笑)もっと言えば、曹操が献帝を囲い込んだ後も、ずっと献帝は長安にいる設定です。洛陽も許都も無視です。不可解です。
王允が董卓の横暴を怒っていると、1人の女と会った。

「私は、本姓を任、小字を紅昌といいます。父は任昴です。テンとセミの冠を被っていたから、貂蝉と呼ばれています。霊帝は私を、丁原に与えました。しかし丁原は、義子の呂布に私を与えました。夫の呂布とはぐれたので、再会を願って祈祷しているのです」

すごい。
『演義』が成立する前の『平話』だからこそ読める、貂蝉の出自です。
王允は、貂蝉を使えば董卓を倒せると確信した。貂蝉が呂布の妻だと知りながら、王允は貂蝉を、わざと董卓の目に触れさせた。董卓と呂布が争うようになると、王允は喜んだ。ずいぶん汚いですね。

呂布は、董卓を殺した。
だが呂布は、呉子蘭に包囲されたので、長安から逃げた。
呉子蘭は、のちに曹操の暗殺を計画する人だ。董承にせよ、呉子蘭にせよ、「皇帝の近くにいる人」という属性だけで、使い回されてます。歴史書には行動の記録がなくても、『平話』で役割が割り当てられます。

『平話』の呂布は、袁術や袁紹を頼ることなく、まっすぐ徐州を目指した。
「いま徐州は、劉備が治めています」
「よし、劉備に手紙を書いて、助けてもらおう」
ここから袁術を巻き込み、徐州を劉備と曹操、呂布が争います。『演義』との明らかな違いが見つけられなかったので、細かくやりません。
「袁紹と袁術が、徐州で衝突した」
それがこの時期の本当なのだが、
劉備や呂布を主人公にして描くから、よく分からなくなる。