表紙 > 読書録 > 「兵法三十六計」1行で分かる計略のコツ

04) だまし方を教えます、攻戦計

計略の最短ダイジェスト。
次は、もっとも謀略くさい攻戦の計。楽しみです。

攻戦の計

◆13◆ 打草驚蛇(くさをうって、へびをおどろかす)
小石を投げて、相手の出方を見ろ。

ヘビを捕らえる、もしくは予め毒ヘビを遠ざけるには、どうするか。初めからヘビ本体を狙うことにこだわらず、まずは草を打てば良い。
司馬懿が、諸葛亮の伏兵を警戒したときの計略。とりあえず張郃を投入して様子を見て、諸葛亮の備えを見破った。張郃は、捨石だったのか (笑)
勝戦計「囲魏救趙」も、敵の本隊を攻撃しないで勝つ方法でした。似てるが、何が違うのか。
「囲魏救趙」は、自分が戦場の全体を把握している。っていうか盤上に駒を並べたのは自分である。孫ピンほどの腕前が必要だ。
対する「打草驚蛇」は、敵方が戦場を詳しく把握しているときの計略だ。駒を並べたのは、敵である。司馬懿では、諸葛亮の作った舞台に後から上がらされた。だから取りあえず、使いにくい老将(張郃のこと)をけしかけるのです。


◆14◆ 借屍還魂(しかばねをかりて、たましいをかえす)
利用価値のなさそうなものを、活かせ。

前漢初、斉王の劉発が本の解説に使われていますが、それよりも好例をぼくらは知っていますね。
董卓に奉戴されて棄てられた、後漢皇帝の劉協(献帝)です。曹操は、求心力ゼロの劉協を拾ってきて、天下統一の拠りどころとした。
この計略を実行するには、常識的な価値観を捨てて、自分だけの新しい視点でガラクタを見ることが必要です。
ものの値段は、相場が決める。だが相場は、多数派の価値観を反映したものに過ぎない。掘り出し物を見つけられる人は、相場とは違う値段をつけるのです。元がガラクタだから、入手コストが低い。死体拾いは素晴らしい。


◆15◆ 調虎離山(とらをあざむき、やまをはなれさす)
戦いやすいところに、敵をおびき出せ。

孫策が劉勲を欺いて、本拠地の廬江から釣り出した故事で解説されてました。廬江は防御力が高いから、孫策は劉勲を攻められない。そこで孫策は、劉勲を欺いて出撃させた。その隙に、廬江を乗っ取ったんだと。
虎は山中では強いけれど、平地では地の利がない。兵法には、戦いの場所を自分で決めろという教えが多いですね。「囲魏救趙」は、自分で新しい戦場を設定する話でした。「声東撃西」は、戦いの場所を、敵に誤認させる話でした。


◆16◆ 欲檎姑縦(とらえんとほっすれば、しばらくはなて)
敵を追い詰めすぎたら、逆に危険だ。

窮鼠はネコを噛みます。だから、敵に少し遊びを与えてやり、様子を見守るのがよい。『孫子』が言うように、攻城戦では、敵の逃げ道を開けておく。
敵の変化を待つという点で、「以逸待労」と似ている。「以逸待労」は、強い敵が疲れるのを待つ。勝つために不可欠な努力だ。解りやすい。
一方で「欲檎姑縦」は、対等以下の敵を、徹底的に叩くために、わざと待つ。勝てるのは当然として、完勝するための謀略だ。ダークだ。
キャッチ&リリースする話と言えば、諸葛亮と孟獲ですね。諸葛亮は孟獲に勝てるのは当然として、心を捕まえたいので、しばらく放ったのです。


◆17◆ 抛磚引玉(かわらをなげて、ぎょくをひく)
類似したもので、敵をだませ。

同じウソでも、「疑似」は見破りやすいが、「類同」は見破りにくい。
例えば大軍勢に見せたいとき、銅鑼や太鼓で騒いでもバレるが、老兵や病兵やワラ人形に甲冑を着せると、バレにくい。ニセモノはバレるが、ニタモノは分かりにくい。
「抛磚引玉」は、敵にウソの情報を与えるための方法論だ。他の計略よりも抽象度の低い、いちノウハウにも見える。「声東撃西」「暗渡陳倉」「笑裏蔵刀」などと合わせて使いましょう。


◆18◆ 擒賊擒王(ぞくをとらえるには、おうをとらえよ)
主軍やトップを倒せば、勝てる。

なんと!当たり前のことを言ってます。
計略と言うからには、当たり前でない教訓を含んでもらわないと困ります。
「勝利するには、敵のすべてに順序良く勝たなくていい。効率よく、勘所だけ攻めればよい」
と読めばいいのかな。
この計略もただのノウハウで、単独では使えかろう。例えば「打草驚蛇」で様子を探るとき、「調虎離山」で誘い出すとき、「欲檎姑縦」で逃がしてやるとき、ターゲットに選ぶために使うのだろうね。
間違っても、
「兵法では『擒賊擒王』と言うからなあ!主将へ突貫!がははは!」
と、敵軍の真正面に猪突するときに使ってはいけない。


次は、混戦の計です。