表紙 > 読書録 > 「兵法三十六計」1行で分かる計略のコツ

06) 会議室の兵法、併戦の計

計略の最短ダイジェスト。
次は、同盟軍や友軍、それに政権担当者の中で、イニシアティブを握るための作戦です。
これまで戦争のやり方を見てきましたが、これは会議室の密謀を教えてくれます。

併戦の計

◆25◆ 偸梁換柱(はりをぬすんで、はしらにかえる)
議論の内容を、すり換えよ

「梁」は建物のヨコの支えで、「柱」は建物のタテの支え。話の中身を、あべこべにすり替えてしまえという話。
始皇帝の遺言を改竄してしまった、趙高たちがサンプル。人は戦闘のとき緊張していると、陣地の一部を入れ替えられても気づかない。非常時には、議論が変わっていても気づかない。
以上が計略の説明ですが、ハッキリ言ってこれだけでは全く活かせない。だって抽象的すぎる。どのようにすり換えるかを教えてくれないとねえ。戦法につき、
「敵をあざむいて勝て」
とだけ指導されても、何をどうやったらいいか分からないでしょ。「偸梁換柱」はそれと同じくらい漠然だ。三十六計を編集した人は、会議室には疎いのか。


◆26◆ 指桑罵槐(くわをさして、えんじゅをののしる)
他のものを褒貶し、狙いの相手に仄めかせ

人間は命令されるのを嫌う。だから他のものに託けて(当て付けて&見せしめて)ほんのり気づかせる手法だ。
蒋介石は決戦の覚悟を示すために、愛犬の首を切った。犬の血を見て、部下たちは降服の選択肢を捨てた。
本には書いてないが、燕王の「隗より始めよ」も同じですよね。
これまで読んできた三十六計は、しばしば相手に「間違えさせる」ものだ。こちらの攻撃の狙い、行き先、居場所、時機の解釈など。対してこの計略は、自分が働きかける相手を「わざと間違える」ものです。
きっと人間とは根っこのところで「ミスを犯してはいけない」「自分がミスをするわけがない」転じて「相手がミスをするはずもない」と、根強く思っているのだな。まるで本能かのように。だから「指桑罵槐」が効くのです。


◆27◆ 仮痴不癲(ちをかりて、くるわず)
バカの振りをして、油断を誘え

司馬懿が曹爽を欺いた話。仮痴の具体的なやり方について、想像がつかない三国ファンはいないと思います。
ぼくが着目したいのは「不癲」の方です。利口ぶって軽率な行動に出るな、と。これは、司馬懿のようにベッドに臥せらなくても、若く健康そうな毎日の生活に使える話です。
本はマズローを紹介します。4段階が「尊敬の欲求」だそうです。これをじっくり抑えてこそ、勝てるのだと。本曰く、雇われ人根性では、決して「仮痴不癲」ができるわけがなく、経営者の目線になって初めて、割り切ってバカの振りをできるんだそうだ。
それはそうに違いないが、「尊敬の欲求」を捨ててまで、会社で実現したいことがない人はどうするんだろ。むしろそっちが問題のような気がする (笑)


◆28◆ 上屋抽梯(やねにのぼらせ、はしごをはずす)
補給、後援、退路を断て

諸葛亮が劉琦にハメられた話が、あまりに有名です。しかし、もったいぶる賢人から意見を引き出すだけの、セコい計略ではない。これだけなら、いかにも使いまわしが聞かない。
どう拡大解釈するか。世では、
「たまたまエレベータで乗り合わせた社長に、30秒でアイディアを伝えて、採用&抜擢をされる」
というのが、ビジネス書が喧伝する成功パタンだ。30秒じゃ足りないからと言って、エレベータをわざと故障させろとか、そういう計略か。違うよなあ。むしろ、まとまり良く話せるように努力すべきだ (笑)
正解は、
小さな利益で敵を釣り出して、敵の退路を断つ。もしくは、味方をわざと死地に置いて、奮戦させる。そういう教えだそうだ。
ぼくを初めとする雇われ人は、会社がわざとぼくらの退路を断とうとしていたら、さっさと逃げ出したいものです。『孫子』が言うから間違いないが、死地にいれば死戦せざるを得ない。命が惜しいから、昇給ゼロでも頑張るでしょう。そんなのはイヤだから、ちゃんと片手で梯子を守っておかないと。
「欲檎姑縦」「関門捉賊」「上屋抽梯」を読むと、いかに三十六計が退路を大事に思っているかが分かりますね。言及がとても多いから。


◆29◆ 樹上開花(きのうえに、はなをさかす)
相手をだまして、自軍を派手に見せかけろ

楽毅に掃討された斉が、田単によって復活したときの作戦。火牛を使って、敵を圧倒した。
花が咲くはずもない樹に、花を咲かす。強くもない兵力を、強く見せかける。典型的な「相手に間違えさせる」計略です。意外にも、兵数や軍の強弱についてだます計略は、今まで出ていません。
勝戦計「無中生有」は、ゼロをイチにする作戦。「樹上開花」は、イチをジュウにする作戦。似てるけど、敢えて区別するならこの例えでいいのかなあ。


◆30◆ 反客為主(かえって、かくがしゅになる)
受動から主導へ、入れ替われ

袁紹が韓馥から、冀州を乗っ取った。これが本が示す例。
だが『三国志』を見渡せば、似た例は他にいくらでもあるだろう。呂布が劉備から、徐州を乗っ取った。劉備が劉璋から、益州を乗っ取った。司馬氏が曹氏から、王朝を乗っ取った。
むしろ計略を学ぶ人が知りたいのは、どうやって乗っ取るかである。「偸梁換柱」と同じで、いまいち使えない計略だ。
本は乗っ取る順序を紹介してる。曰く、まず客となる、隙を狙う、隙を活かす、主人に代わる、地位を安定させる、のだそうだ。今すぐ出版を取りやめて頂きたいほどの一般論だ (笑)


最後は、敗戦の計。弱者の戦略です。
36のうち30が終わりました。もう少しお付き合い下さい。