表紙 > 読書録 > 「兵法三十六計」1行で分かる計略のコツ

05) まるで達人の料理、混戦計

計略の最短ダイジェスト。
次は、戦局が混乱しているときの計略です。敵と味方のどちらかがパニックである、第三勢力が現れた、などの状況で使います。

混戦の計

◆19◆ 釜底薪抽(かまのそこから、たきぎをぬく)
強敵とは戦わず、裏から戦力を削げ

曹操が烏巣を焼いた故事が紹介されています。袁紹とまともに戦っても勝てない。だから戦闘のカギとなる、補給線を叩いた。
釜の湯を冷やしたければ、差し水をするよりも、燃料を抜いてしまえばいい。逆転の発想です。
1つ前の「擒賊擒王」と正反対に見える。連続して矛盾したことを指摘するとは、何も言っていないに等しいわけですが、、どう読んだらいいか。
きっと、
「だます相手は、敵軍の中央。でも混戦が始まれば、敵軍の中央を狙うのはムリだ。敵軍の泣き所を探せ」
ってことだろう。例えば曹操は、官渡が開戦する前は、献帝を利用して官位で序列をつけるなど、袁紹とその政権の正統性を攻撃した。クビを狙った「擒賊擒王」である。だが、ひとたび戦いが始まれば、袁紹軍に突っ込むことはしない。戦局をひっくり返す、スネを探した。烏巣がそれだった。


◆20◆ 混水摸魚(みずをまぜて、さかなをさぐる)
敵の混乱に漬けこみ、自軍は安定を得る

赤壁後、周瑜が忙しいことに乗じて、諸葛亮は江陵を手に入れた。
敵のパニックを狙うとは、火事場泥棒たる「趁火打劫」に似ている。「趁火打劫」は、敵が敗れて大騒ぎのとき、一気に強奪することだ。
だが「混水摸魚」は、そんなに派手でない。敵の恐慌ではなく、指揮系統のちょっとした麻痺を狙う。地味な分だけ、失敗しにくいのが利点だ。失敗しても火傷しなかろう。
「隔岸観火」にも似ている。「隔岸観火」は敵の自滅を見守るのだが、「混水摸魚」はもうちょい積極的に関わる。だって水をかき混ぜて、魚を驚かせているんだから。曹操が袁氏の兄弟が反目するのを見守ったのが「隔岸観火」なら、曹操が遼東の公孫氏に圧力をかけて、袁尚を斬らせたのが「混水摸魚」だな。
エコなんてどうでもいい古代でも、省エネは重要だ。


◆21◆ 金蝉脱殻(きんのせみ、からをぬぐ)
抜け殻だけ現場に残し、敵に移動を気づかせない

撤退を追撃されたら不利だから、撤退したことを気づかせない。
主力の移動を気づかれると奇襲が成功しないから、移動したことを気づかせない。これは張飛が漢中(瓦口関)で、曹操を破った作戦である。
諸葛亮が死んだ後の木像も、蝉の抜け殻ですね。
目的(攻める対象)を偽る計略は、すでにたくさん見ました。すでに混戦が始まっているなら、居場所を偽るのが宜しい、というバリエーションですね。


◆22◆ 関門捉賊(もんをとざして、てきをとらえる)
弱敵を倒すには、逃げ場を塞げ

曹操が呂布を包囲したときの故事がサンプルでした。
もうこういうパターンに慣れてきましたが、この計略は「欲檎姑縦」と正反対です。何が違うか。
「欲檎姑縦」するのは、敵がそこそこ強くて、叩きのめさなくても目的が果たされるときです。対して「関門捉賊」するのは、敵が弱くて、叩きのめさないと禍根が残るときです。まさに呂布を始末するときの状況ですね (笑)


◆23◆ 遠交近攻(とおくとまじわり、ちかくをせめる)
遠くと同盟して、近くを攻めよ

秦の始皇帝が、天下統一したときの戦略。他の計略よりも話が大きい。このサイトでぼくの注釈をお読みの方はお気づきのように、三十六計の大きさ・高さは、けっこうバラバラです。
有名な故事だから、一般的な解説は別に譲るとして、、
始皇帝の遠交近攻が成功したのは、秦が辺境だったからだと思う。アタック25と同じで、カドを取っていたから。「遠交近攻」をやるとき、四方に敵を抱えると、たちまちピンチになる。曹操も織田信長も、急に大きくなり、たちまち包囲された時期がありました。
曹操も信長も、包囲は切り抜けたものの、どちらも道半ばで力尽きた。


◆24◆ 仮道伐鯱「みちをかりて、かくをうつ」
小国を、最小限の手間で併合せよ

これは計略というよりは、1つの完成したストーリーです。「鯱」というのは国の名前です。固有名詞が出た時点で、あまり使いまわしの聞かない計略になります。同じく固有名詞の入った「暗渡陳倉」も、蜀にある独特の地形がないと成立しない話だ。
この計略を使ったのは、大国の晋。晋は、隣の「虞」と、又隣の「鯱」を滅ぼそうと思った。道順どおりに、まず虞を攻めれば、虞は鯱の助けを求める。2国を相手にするのは手間がかかる。だから晋は虞に優しくした。
「きみ(虞)を攻めない。ただ私たちは、又隣の鯱を攻めたいだけだ。だから道を貸してくれ」
小国の虞は、晋から贈り物をもらって、晋に道を貸した。晋は鯱を滅ぼした後、帰り道に虞を滅ぼした。こうして晋は、大きな抵抗を受けず、虞の小国心理を手玉に取り、勝ちましたとさ。
すごい話だが、やはり使いどころが少ないなあ。小国は各個撃破せよとまで一般化すれば、まだ使えるか。三国志のシミュレーションゲームで、プレイヤーの統一が近づくと、残りが小国ばっかでつまらなくなる。だから残った国が連合するという設定があった。あれを許すな、という計略だ。


この混戦の計が教えるのは、ものごとを行なう順序です。
パニックになると、とにかく正面突破したくなるが、それは間違い。やや離れたところとか、あからさまに見えない裏側に目をつけて、手回しせよと言ってます。
料理の段取りに似てる? 3つのコンロをうまく使いながら、15分くらいで、ちゃちゃっとメニューを完成させてしまう感じだ。