表紙 > 漢文和訳 > 『晋書』帝紀9、簡文帝と孝武帝の翻訳

372年、桓温と簡文帝の衝突

やっと司馬昱が、簡文帝になりました。

諸王の流罪

咸安元年冬十一月己酉,即皇帝位。桓溫出次中堂,令兵屯衛。乙卯,溫奏廢太宰、武陵王晞及子總。詔魏郡太守毛安之帥所領宿衛殿內,改元為咸安。庚戌,使兼太尉周頤告於太廟。辛亥,桓溫遣弟秘逼新蔡王晃詣西堂,自列與太宰、武陵王晞等謀反。帝對之流涕,溫皆收付廷尉。癸醜,殺東海二子及其母。

咸安元(371)年冬11月己酉、簡文帝は、皇帝に即位した。桓温は中堂に出てきて、兵に屯衛させた。乙卯、桓温は上奏して、太宰・武陵王の司馬晞と、その子の司馬總を廃せと言った。詔して、魏郡太守の毛安之に宿衛を率いさせて、簡文帝のいる殿内を守らせた。改元して、咸安とした。

簡文帝の即位が、決して穏やかじゃなかったと分かる。桓温に退けられた司馬晞は、元帝の子です。すでに列伝を翻訳済です。

11月庚戌、太尉の周頤に、太廟で簡文帝の即位を報告させた。
辛亥、桓温は、弟の桓秘に命じて、新蔡王・司馬晃に迫って、西堂に詣でさせた。司馬晃は、太宰で武陵王の司馬晞らと、謀反した。簡文帝は謀反を聞いて、流涕した。桓温は、司馬晃と司馬晞らを廷尉に捕えさせた。癸丑、東海王の二子とその母を殺した。

初,帝以沖虛簡貴,曆宰三世,溫素所敬憚。及初即位,溫乃撰辭欲自陳述,帝引見,對之悲泣,溫懼不能言。至是,有司承其旨,奏誅武陵王晞,帝不許。溫固執至於再三,帝手詔報曰:「若晉祚靈長,公便宜奉行前詔。如其大運去矣,請避賢路。」溫覽之,流汗變色,不復敢言。乙卯,廢晞及其三子,徙於新安。丙辰,放新葵王晁於衡陽。

もともと簡文帝は、沖虚で簡貴、3代の皇帝の宰相を務めた。桓温は簡文帝を敬って憚った。簡文帝が即位したとき、桓温は自分で言葉を選んで、簡文帝に語りかけたいと思っていた。だが桓温が簡文帝に引見すると、簡文帝は桓温の言葉に答えて、悲んで泣いてしまった。桓温は懼れて、それ以上は何も言えなかった。

何を泣いたのか、推測が楽しいところです。皇帝に祭り上げられたのが、イヤだった。きっとこれが、根底にある。その上で、諸王を片付けたことにより、簡文帝は桓温を恨んでいる。桓温は、簡文帝の感情を知って、自分のやっていることと、自分の立場のマズさを思い知らされたか。

ここに到り、有司たちは桓温の気持ちに迎合して、武陵王・司馬晞を誅殺して下さいと上奏した。だが簡文帝は、誅殺を許さなかった。
桓温は、再三に簡文帝に即位を勧めた。簡文帝は、手ずから詔を発行して言った。
「もし晋の天命が長いならば、桓温さんは、私の詔を守れ。すなわち司馬晞を殺してはいけない。もし晋から大運が去ってしまえば、桓温さんは、司馬晞を殺すがいい。賢い道を、踏み外すことになるけどな!」
桓温は、汗を流して顔色を変えた。桓温はもう二度と、司馬晞を誅殺せよと、簡文帝に催促しなくなった。
乙卯、司馬晞とその3人の子を廃して、新安に流した。丙辰、新葵王の司馬晁を、衡陽に飛ばした。

丞相になりやがれ

戊午,詔曰:「王室多故,穆哀早世,皇胤夙遷,神器無主。東海王以母弟近屬,入纂大統,嗣位經年,昏暗亂常,人倫虧喪,大禍將及,則我祖宗之靈靡知所托。皇太后深懼皇基,時定大計。大司馬因順天人,協同神略,親帥群後,恭承明命。雲霧既除,皇極載清,乃顧朕躬,仰承弘緒。雖伊尹之甯殷朝,博陸之安漢室,無以尚也。朕以寡德,猥居元首,實懼眇然,不克負荷,戰戰兢兢,罔知攸濟。思與兆庶更始,其大赦天下,大酺五日,增文武位二等,孝順忠貞鰥寡孤獨米人五斛。」

戊午、簡文帝は詔した。
「皇室は不幸続きだ。穆帝も哀帝も早世して、皇統は傍系に移った。東海王(廃帝)は、哀帝の同母弟で、血筋が近かった。だが廃帝を退けて、私が皇位を嗣いだ。数年経つが、混乱が収まらず、私の治世はろくでもなくて、祖先に申し訳ない。皇太后は、王朝に未来を心配して、アイディアを出してくれた。大司馬の桓温は、神のごとき計略のある人だ。私1人では、皇帝の重職にとても堪えられないから、殷の伊尹や漢の博陸のように、桓温に政治を輔佐させよう。大赦して、物資と官位を配れ」

漢の博陸は、封地の名で婉曲して呼んでる。誰だっけ笑

庚申、大司馬の桓温を丞相にしたが、受けてくれなかった。

簡文帝は、本当に皇位が重荷だったんだと思う。だから責任を取らせる意味で、桓温に丞相をやらそうとした。だが、すでに実質ナンバーワンの桓温は、肩書きで身重になるのを嫌った。

辛酉、桓温は白石から戻り、姑孰に出鎮した。冠軍將軍の毛武生を、都督荊州之沔中、揚州之義城諸軍事とした。
12月戊子、詔して、建康あたりが豊作なので、税を軽くした。庚寅、東海王の司馬奕(廃帝)を海西公とした。廃帝には、食邑4000戸を与えた。辛卯、はじめて酃淥酒を太廟に勧めた。

酃淥酒って何だろう。機会があれば調べます。