表紙 > 読書録 > 郭嘉が曹操にマキャベリ『君主論』を講義したら

05) 籠城の強さ、傭兵の害悪

前回マキャベリは、4つの新しい君主のタイプをあげました。
実力の君主、幸運の君主、残虐の君主、狡猾の君主。

10章、支配者の強さを、2つに場合分けする

「君主の強さは、2つに分けられます」
「興味がある」
「まず、どんな軍隊が攻めてきても、合戦で勝利できる強者。つぎに、合戦から逃亡し、城壁の中で守らねばならぬ弱者
「マキャベリは、兵法の素人か。これだから胡族は困るな。百戦して百勝しても、ベストではない」
「ええ、『孫子』ですね」
「郭嘉にも、オレの注釈を読ませただろう。弱いから城壁に籠もるのではない。強者もまた、敵の疲弊を誘うために、籠城する。籠城は、追い詰められた人だけが採用する、弱者の苦肉の策ではない」
「失礼しました。しかし今日は、マキャベリの言い分を聞いて下さい。マキャベリも、籠城を積極的な作戦だと考えています」
「いかに」
「城壁を固めた都市は、攻撃に強い。住民は困難を嫌うので、君主の籠城に協力してくれるでしょう。君主が民衆に憎まれていなければ、ほぼ守り通すことができます。城外の財産が、敵軍に脅かされると、民衆の士気が下がることがありますので、この点で注意が必要です」
「まあ、及第点だ」

11章、ローマ教会の支配権について

「マキャベリの生きた時代には、ローマ教会がありました」
「邪教か」
「とは、言い切れませんが、私にもよく分かりません。ローマ教会では、トップがいかなる行動や生活をしても、彼の地位は安泰です。領地を持ちますが防御せず、臣民を持ちますが統治しません」
「非現実的だ。好かん」
「神が、支配を裏付けているそうです」
「やはり邪教だ。この章は聞かん」
「お待ちを。もし漢帝国が、あと500年を存続すれば、ローマ教会と同じになるでしょう」
「郭嘉は、本気で言っているのか」
「いいえ。マキャベリも議論を放棄しています。新しい君主のために、ローマ教会について論じても無益です。これにて終わります」

12章、軍隊の種類と傭兵について

「気を取り直します。軍隊の種類について」
「そういうのを待っていた。郭嘉らしく良い」
「マキャベリを軍隊を3つに分けました。自前の軍隊、傭兵隊、他の君主からの援軍です。3つのうち、傭兵隊と援軍は、無益で危険です
「一応聞いてやる。なぜだ」

「まず傭兵の無益さについて。傭兵は、相互に反目し、野心的で、軍律を守らず、忠誠心を持ちません。傭兵は、味方の前では勇敢ですが、敵の前では臆病です。信義を守りません。攻撃が先送りされる限りにおいて、崩壊を先送りできます
「言い得て妙。つまり攻撃が始まった途端に、総崩れか」
「そうです。君主の領土は、平時には傭兵から略奪され、戦時には敵兵から略奪されます
「痛快なまでに、散々な言われようだ」
「傭兵の給料は、君主のために命を捨てるには少なすぎます。傭兵は、戦争が始まるまで、タダ飯を食らうだけ。そうマキャベリは言います」
「オレは傭兵を使っていない」
「曹操様が従えた、青州黄巾党を、傭兵と見る人はあるかも知れません。彼らは軍律を守らず、略奪を行なってトラブルを生んだことがありました」

「于禁伝」に見えます。于禁は、青州黄巾あがりの軍が勝手なことをしたので、弾劾した。曹操は、青州黄巾を特別扱いして、不問にした。

「だが彼らは、金銭だけのつながりではない」
「そうです。マキャベリの傭兵論は、青州黄巾党を使うときの軽い参考として、お聞き下さい」
「わかった」
「もし傭兵隊長が無能であれば、彼らは君主の役に立ちません。もし傭兵隊長が有能であれば、君主は乗っ取られます。どちらにせよ、ロクなことがありません」

傭兵とは違うが、劉備は呂布に下邳城を乗っ取られた。

「傭兵は、手柄を立てて名声を得ることで、生計を立てています。だから君主の自前の軍隊から、名声を横取りすることもあるでしょう」
「そろそろ、まとめろ」
「つまり傭兵は、国を滅ぼします。君主は、政治と軍事をどちらも充実させ、自前の軍隊で戦わねばなりません。これがマキャベリの主張です」

マキャベリは、彼の時代のイタリア政治を批判するため、傭兵を攻撃したようです。ちょっと熱心すぎるから、曹操には響かないだろうなあ。

13章、援軍と自己の軍隊

郭嘉は曹操に、マキャベリを説いた。
「攻め込まれてピンチになると、強大な国から援軍を呼び寄せて、一緒に守ってもらうことがあります。これは最悪の判断です」
「郭嘉は、その理由を話したいんだろう」
「恐れ入ります。なぜ最悪でしょうか。もし防衛に失敗すれば、攻め手に占領されます。もし防衛に成功すれば、援軍に来た大国に乗っ取られます。どのみち、自国は滅亡するしかありません」

のちに劉璋が、援軍として劉備を招いた。言わんこっちゃない結果になった。劉璋は、劉備に乗っ取られた。

「傭兵は無気力だから、国にとって害悪。ところが援軍は逆で、強くて優秀だから、国にとってデメリットとなります」
「で?オレにどうせよと?」
「賢い君主は、自前の軍隊を使って、敗北することを選ぶべきです。自前の軍隊なくして、支配は成り立ちません」
「郭嘉は、オレに負けろという。そんな軍師は珍しい」
「言葉の綾です・・・」