01) 関羽伝をやる3つの狙い
今回は『三国志』の中から、「関羽伝」を翻訳&注釈します。
タイトルに宣言したとおり、高校の授業を最後に、漢文にずっと触れてない人に向けて書いたつもりです。
詳しい三国ファンには自明のことも、わざわざ説明している部分があります。適当に読み飛ばしてください。
本稿の目的
狙いは3つです。
①物語で関羽ファンになった人に、歴史書の面白みを伝える
②ちくま学芸文庫の翻訳で満足せず、原典に回帰する
③重層的な注釈の魅力を味わう(できれば読み手にも伝える)
歴史書の面白み
まず上記①について。
関羽ほど、物語と歴史書の間で、キャラの違う人はいません。
物語に描かれる関羽は、義理に固くて男前で、劉備と仲良しです。
物語の元ネタとなったのは、歴史書『三国志』です。成立は3世紀で、物語が完成する1000年以上前です。この歴史書の中に、関羽の伝記である「関羽伝」が立っています。今日はこれを読みます。
残念ながら、
伝記の中で関羽は、「中の上」くらいの武将で、神がかったカッコ良さはない。ぼくの読む範囲では、関羽は劉備と仲が悪い。泥臭いリアルな関羽に、歴史書の中で出会うことができます。
時間を経て記されるとき、事実がすり変わり、キャラが化ける。この内容や理由について、あれこれ悩むのが歴史学の仕事の1つです。ぼくの好きな営みです。
関羽を題材に、歴史の面白さを示せたらと思ってます。
原典を読む
次に、狙いの②について。
歴史書『三国志』は、今日の日本で全訳がお手軽に手に入る、極めてマレな書物です。
そのうち全訳があるのは、『三国志』と『史記』だけ。『漢書』もちくまから出版されていたが、在庫がないと名古屋の本屋さんに言われました。
マレなまでに良訳に恵まれているせいで、自分で原典の漢文に当たる必要がなくなる。
逆説的に、いちばん好きなはずの『三国志』に疎くなる。これでは残念なので、今日は自ら訳します。
数ある三国志のサイトの中で、他では読めない『三国志』の翻訳を載せることは、アイデンティティの1つになるはず。
漢文の翻訳とは、「解釈」という作業と不可分です。やる人によって個性が出てくるものです。学校のテストと違います。
注釈の魅力
最後に、狙いの③について。
『三国志』が面白いのは、第三者による注釈が優れているからです。
元の歴史書を書いた人は、あまりに慎重だったので、ウソくさい逸話を全て省略した。話に厚みがなくなった。
そこで、オリジナルの歴史書が成立してから120年後に、異聞(関連するエピソード)が注釈された。
注釈というスタイルに惹かれ、ぼくも自分のサイトで、こうやって四角囲みで注釈を付けてます。以後、翻訳するときも、言葉の解説と、内容の解説の両方をやります。
物語たちが面白いのは、注釈のネタを多く拾っているからだ。
もっとも有名なのは、曹操が勘違いして恩人の一家を皆殺しにする話。オリジナルの歴史書にない話が膨らみ、エスカレートして注釈され、悪人・曹操が物語で実を結んだ。
講師が1人でダラダラ喋る授業は眠いが、生徒から合いの手が飛ぶと、面白くなる。注釈の効果は、まさにコレ。
注釈の魅力を改めて伝えたいと思ってます。
では、次のページから「関羽伝」が始まります。