01) 3義兄弟の出会い系
立間祥介・岡崎由美訳『三国志外伝』民間伝承にみる素顔の英雄たち
徳間書店1990年
を読みました。
この本の元ネタは、湖北省群衆芸術館が出版した資料です。中国の全土を周り、1000人にインタビューするという、途方もないフィールドワークの成果です。
元ネタのうち、『三国演義』に載らなかった民間伝承を抜き出して、日本語訳してくれたのが、今回ぼくが読んだ本でした。
本ページの目的
本ページの目的は、今日では手に取りづらい『三国志外伝』に対し、皆さまが気軽にアクセスできる機会を作ることです。
いま2010年です。『三国志外伝』が出版されて20年も経つから、手に取ることが難しくなりました。
専門書なら20年くらい生き残れるが、一般書には厳しい年数です。
この不便さを、三国ファンの皆さまに解消して頂きたい。ぼくがホームページ上で、『三国志外伝』のネタをまとめる意図はこれです。
三国志にまつわる民間伝承を紹介していきます。
『三国演義』に採録されなかった伝説は多いし、『三国演義』が整理されたあとに生まれた伝説もあるでしょう。それらを捕捉して、三国志の世界の広がりを楽しんで下さい。
関羽が、青龍とケンカする
関羽は幼いとき、鍛冶屋の常氏に育てられたから、初めの名前は「常生」といった。
常生が通う寺子屋に、油泥棒が入った。
「常氏は貧乏だ。常生が油を盗んでいるに違いない」
「違う。オレは盗みなんかやらない。犯人を挙げてやる」
常生は誤解を解くために、寺子屋に張り込んだ。深夜、青龍が現れて、油をピチャピチャと舐めた。常生は、
「おのれ青龍め。青龍のせいで、オレは盗人の疑いを受けた。青龍を懲らしめてやらねばならん」
と憤って、青龍に飛び掛った。
常生は、青龍の角を2本、折り取った。折れた角は、たちまち宝剣に変わった。この刀を使って、後年に常生(関羽)は、呂布と戦った。
ばあさんのパンチと鼻血
関羽の友人は、李生である。李生が泣いた。
「悪い役人の呂熊に、許婚をさらわれた。呂熊ったら、井戸を独占し、女だけに水を汲ませて、品定めをしているんだ。冬には、井戸の周りに氷を作って、女を転ばせて遊ぶのだ」
「おのれ呂熊、許せん」
関羽は、呂熊を滅ぼした。
お尋ね者になった関羽は、逃亡した。
関羽は、洗濯しているばあさんに顔を殴られた。鼻血で顔が赤く染まった。ばあさんは関羽の髪の毛をむしり取り、ツバで関羽の口の周りに貼った。立派な付けヒゲである。関羽の人相は変わった。
関羽は、逃げ切ることができた。
関羽の養父母・鍛冶屋の常氏は、村人を巻き込むことを恐れ、井戸に身を投げた。関羽の故郷・常平村の関帝廟には、常氏が祭られている。
木に登って、義兄弟の順序を決める
関羽は幽州へ来た。肉屋の張飛が、キャンペーンをしていた。
「この石を持ち上げられたら、豚肉をプレゼントだ」
逃亡してきた関羽が、軽々と持ち上げた。
「おい肉屋。オレは、殺したての新鮮な豚をもらうぞ」
と関羽が言うと、張飛が怒った。
「オレが景品にしようと思ったのは、壁にかけてある古い豚だ。なんで新しい豚を、お前にあげなきゃならんのだ」
「キサマ、話が違うではないか」
関羽と張飛がケンカした。劉備が通りかかった。
「大の男が、石やら豚やらで、揉めている場合ではない。国家の大事のために、真剣になるべきでしょう」
「その通りだ。よし義兄弟になろう」
劉備たちは、義兄弟の順序を、木登りで決めることにした。
張飛は、天辺の枝に登った。劉備はろくに登らず、根っこに座ったままだ。劉備が言うには、
「根が先で、枝が後である。根にいる私が長兄だ」
とのこと。
関羽は、どうせ自分が2番目なので、うまいことを言った劉備を称えて、長兄と仰ぐことにした。
以上3編、山西省晋南地方で採録したそうです。
劉備を殺すための計略
張飛は肉屋で、資産家だった。関羽は穀物を商い、生計を立てていた。劉備は、張飛と関羽のヒモだった。
「なあ関羽、オレたちの財産が劉備に食い尽くされるぞ」
「劉備を痛い目にあわせて、タダ飯の恐ろしさを教えてやろう。深い井戸の上にムシロを敷いて、劉備をそこに座らせる。劉備は、落とし穴に落ちるという仕掛けだ」
劉備が、落とし穴の上に座った。だが、落ちない。
あとで関羽がムシロをめくってみると、五本爪の金龍が、井戸の中からムシロを支えていた。だから劉備は落ちずにすんだのだ。関羽は、劉備に忠誠を誓った。
劉備の錬金術
さすがの劉備も、たかりっぱなしは良くないと自覚した。劉備は、家に関羽と張飛を招くことにした。だが劉備は、貧乏で仕方がない。
大きな袋に土を詰め込んで、
「あれは黄金だ」
と見栄を張った。関羽が覗くと、本当に黄金になっていた。
以上2編、河北省涿県で採録したそうです。