表紙 > 読書録 > 別冊宝島『三国志"散り様"列伝』を楽しむ

01) 諸葛亮、夏侯淵、董卓

いつも小難しい本に走りがちですが、今回はライトに。
諏訪原寛幸が描く、英雄・豪傑の最期の瞬間」
と副題にあるように、 絵がメインの本です。
「その人物の死に際がどう描かれているか」
に関心を起きながら引用し、新しい発見があるたびに書き留めます。死に様だけじゃなく、人物評も頻繁に語られている本なので、そこにも突っ込みを入れます。
スペースの都合で、右のメニューの人名は抜粋です。メニューに名前がない人の話も、本から全て載せています。

内臓の忘れ物、諸葛亮

カタツムリの帽子に、白い羽扇、神経質そうな美男子。

ぼくは三国志に『真・三國無双』から入ったので、元ネタ=諏訪原氏の描く絵が、イメージのベースにあります。
だから基本的に、諏訪原氏の絵に逆らうことは出来ません (笑)

解説文には、司馬懿のセリフとして、
「軍人は、機密や軍糧をもっとも大切にする。人間で言えば内臓にあたる。諸葛亮は、これらを捨てて撤退した。内臓を棄てて、人間が生きておれるか
と、諸葛亮の死を確信した話が載っている。出典どこ?

完璧主義者、孫堅

黄祖を追撃したとき、深い茂みから射られた。
孫堅は猪突猛進の人。単独行動を好み、常に完全なる勝利を求めた。勝利を目前にすると、無我夢中になる悪い癖があった。

先週読んだクラウゼヴィッツが戒めていたことだ。攻撃側は、あまり深入りすると弱くなり、防御に回るべき折り返し地点が存在するそうだ。

黄巾討伐、華雄撃破のときも、部下の護衛があったから、死なずに済んだ。いつ死んでもおかしくなかった。

この本は孫堅に対してカラい。

卒に将たる器もなし、呂布

主君を裏切った人間は、誰にも相手にされない。呂布は武将としては抜群に強いが、軍を率いると連戦連敗。「将に将たる器」どころか、「卒に将たる器」でさえなかった。

せっかくの本の言葉遊びに水をさすが、「卒に将たる」とは、ふつうに「将」のことじゃん。いきなり呂布に、劉邦なみの経営力を求める方が酷なのでは。
呂布は君主タイプではなく、せっかく部将として有能なのに、誰も主君に頂けなかったことが不幸だったな。就職できなかった理由は、本が責めるとおり、丁原と董卓を斬ったせいだが。

忠義は後世の創作、関羽

かつて曹操は関羽にほれ込んだ。曹操は、関羽の強さ、冷静さ、窮地に追い込まれたときの暴れっぷりを畏怖していた。

関羽って、いつ暴れたっけ? 徐州で降服したときは、大人しかったじゃん。官渡で戦ったときも、窮地に追い込まれていない。

関羽は何より忠義を重んじた人とされるが、「もちろん」多くは後世の脚色によるものだ。

よくもまあ、関帝に向かって、こんなことを言いますね。この本は、関羽が曹操でなく劉備に戻った理由を説明していない。欲求不満になりそうだ。

漢中を目指した美貌、周瑜

周瑜は曹操に対抗するため、荊州と益州を足がかりに漢中を手に入れるという「天下二分の計」を構想していた。

漢中まで具体的に発言してたっけ?
っていうか最期の出陣は、目的地がどこだったっけ?

諸葛亮に出し抜かれて連敗し、病死した。正史では、おおらかで度量が大きな人物である。

死因はドジではない、夏侯淵

夏侯淵は、短慮のために死んだのではない。度胸のよさが災いした。
劉備は、張郃が守る東柵を攻撃した。魏軍は本来は撤退すべきだったが、夏侯淵は徹底抗戦を選んだ。東柵に兵の半数を回したから、夏侯淵のいる南柵が手薄になって死んだ。

柵の補修なんて、将軍のやることではない。夏侯淵のバカめ」
とぼくは思っていたのだが、違うのかも。物理的に直しに行ったのではなく、味方を救いに行ったのだとしたら、立派な死に方だ。曹操の「臆病さも必要だ」を無視しただけの最期ではなくなる。

「愍公」と贈り名された。

蜀漢から見た献帝や、東晋から見た司馬鄴が、この「愍」の号をもらってる。死が惜しまれるとき、この称号になるんですね。
別の話だが、蜀漢では、献帝の健在が確認された後も、この号を国内で用いたんだろうなあ。気まずく、そして恥ずかしいことだ (笑)

権力欲を満たし終えた、曹操

曹操は「周の文王でありたい」と言った。周の文王は実質的な初代だ。文王は天下の3分の1を治めながら、殷の臣下として死んだ。

3分の2じゃないの? ツッコむべきかも微妙なミスだが。

曹操は、すでにナンバーワンであり、権力欲を充分に満たされたから、皇帝を名乗らなかった。

ひどい矮小化だ。ファンが怒るだろうに。

死を覚悟した呉攻め、劉備

呉の出兵の目的3つあった。荊州奪還、中原制覇、関羽の敵討ち。

夷陵で1年を潰した劉備に、中原制覇のビジョンが残っていたのかなあ。

もともと死を覚悟した出陣だったが、案の定敗れた。

老いたから、死を覚悟したという解釈なのかな。この本は、あまり劉備については発見がなかった。

『太陽の黙示録』董卓

騎都尉の李粛は、呂布の命令で、手兵を衛兵に化けさせた。ニセ衛兵たちは、呂布ととも董卓に切りかかった。
董卓の死体に走りよった主簿の田景も殺害された。

そんな人がいたとは知らなかった。

かわぐちかいじ『太陽の黙示録』の董藤首相のモデル。三国志を日本の近未来に移植した異色の物語だ。

そんな漫画があったとは知らなかった。論文をいくら読んでも得られない、こういう今日的な情報が、別冊宝島の価値ですね。
トートー首相と読むの? 便器のメーカーかよ。