07) 荊州を貸与していない
魯粛の「親劉備派」の中身を疑います。
劉備を評価しない魯粛
「劉備を縛れ」と騒ぎ立てる周瑜は、劉備を高く評価している。劉備を認めるからこそ、危ぶむんだ。
「劉備を解きはなて」と寛大な魯粛は、むしろ劉備を見くびっている。ぼくは世間の、周瑜&魯粛ファンにご再考を促したい (笑)
魯粛は、穀物倉を周瑜に差し出したり、劉備を「援助」したりした。投資家だと思う。だから投資に例えます。
株価は、値が下がり始める直前に売ると、いちばん儲かる。値上がりの途中で売ってしまうと、損をした気分になる。
「もうちょっと持ち続けたら、もっと値上がりして儲かったのに」
魯粛は、劉備の株価を見守りながら、
「劉備が値上がり(勢力拡大)している。曹操に対抗させるのに、役立つ。だがもう少し、劉備の株を持っていてもいいだろう。暴騰&下落して、損失を出す(孫権に牙を剥く)のは、まだ先のはずだから」
と判断した。
逆に周瑜は、
「さっさと売ってしまえ!危ないぞ」
と言っている。結果から見れば、周瑜が正解でした。劉備を高く&正確に査定していたのは、周瑜だったのです。
魯粛は、荊州を貸与していない
魯粛は劉備に、荊州を「借」したとある。
いまの日本語と、貸借が逆になっているのかなあ・・・と、よく分かりませんから、字典を引きました。
「借」には、貸すという意味がある。さらに「仮にあてがう」という意味がある。この用法の熟語では「仮借」がある。
後者の意味で取るとき、魯粛は劉備に、荊州を貸し与えていない。傭兵の赴任先として、劉備をあてがっただけだ。孫権にとって重要拠点である江陵を、あっさりと魯粛が「貸与」してしまうと読むから、魯粛が「お人よし」にある。
違う。重要拠点だからこそ、強力な傭兵に守らせたのだ。どうせ管理コストをかけるなら、劉備に面倒な仕事をさせた方が、孫権はペイする。
もちろん「借」には、貸すという意味があるから、ちくま訳の「貸し与える」を、一概に間違いだと決めつけることはできない。でも「仮にあてがう」ほうが、文脈がしっくりくる。
もしくは魯粛は、後世のファンだけでなく、孫権とその臣下たちを、欺いたのかも知れない。
玉虫色&多義を持つ文字「借」を使って、劉備との契約内容を、よく分からなくした。相手を見て「かす」で読んだり、「あてがう」で説明したりして、批判をすり抜けた。
で、「かす」なら、領有権は一時的に劉備へ。「あてがう」なら、領有権も孫権が持ち続けて、劉備は赴任するだけ。
益州攻めと、コンサルタント劉備
周瑜と甘寧は、益州を攻めたいと思った。孫権は、劉備に「咨」った。つまり、意見を求めて相談した。
もし孫権と劉備が対等なら、意見なんて求めるだろうか。同盟軍なら「協力を要請」するだろう。敵対していたら「経路を妨害したら、攻撃を辞さない」と警告するだろう。
孫権が意見を求めた態度は、専属の軍事コンサルタントを頼ったようである。さっき魯粛が、劉備と勝手に傭兵の契約を更新してしまった。だから、劉備を使わないとソンである。
劉備は言った。
「劉璋と私は、皇族です。皇族は、漢室を助ける使命があります。だが劉璋は、漢室の復興に消極的です。これは劉璋の罪です。私は罪を犯した劉璋を、哀れに思います。孫権さんは寛大な心で、劉璋を見逃してやって下さい」
ちくま訳では、劉備の言い分は、
「劉璋は、孫権さまの機嫌を損ねましたが、見逃してやって下さい」
と訳されている。劉璋は孫権に対し、何もしていないのに、変な話である。ぼくが原文を読む範囲では、そんな訳は出てこない。劉璋の罪は、孫権に対してでなく、漢室への非協力だ。
孫権は、のちに劉備が益州に攻め込んだと聞き、劉備に対して怒った。つまり孫権は、劉備の意見を容れて、益州攻めを辞めたということだ。さもなくば、怒りが沸くはずもない。
孫権にとって劉備は、同盟者やライバルでなく、お雇いコンサルタントである。
「瑜の代わりは、粛を」
周瑜が病没した。
周瑜の遺言が、魯粛伝に長々と載っている。
周瑜伝に載せればいいじゃん。
なぜ魯粛伝に間借りしているか。おそらく、これを周瑜伝に移すと、列伝の長さのバランスが、崩れてしまうからだ。くだらないが、体裁を重んじる「書き手」には、けっこう重要なんだ。
同じことは、そこかしこである。重要人物ほど、散らばる。
次回、ついに単刀会。