表紙 > 三国前史 > 田横を知り、諸葛亮を知る。

4)宮城谷昌光『香乱記』(三)より

文庫本1冊を1ページのペースで要約してます。陳勝は滅びたが、天下の分裂は促進している。項梁(項羽の季父)が動いている。

斉王の席

魏王のため、ともに籠城している田横。
「あと十二、三日で、われわれは斉軍をみることができます」
「斉軍は十万もいないだろう。二十万の秦の包囲を破るのはむずかしい」
援軍は、田横の従兄が率いている。三兄弟のいちばん上で、斉王を名乗っている。到着した。魏を救うため、秦の章邯に攻めかかったが、負けた。
「斉王(従兄)が死んだ・・・」
早くも1人、片付いてしまった。3人が王にならねばならないから、ハイペースで兄弟が死んでいく(笑)
魏王は焼身自殺して、城の民の命を請うた。

田横の従兄が死んだ隙に、斉のお膝元で、叛乱が起きた。
田横とは別派の田氏が、自立した。戦国の最末期に、ろくに戦わずに秦に降伏した最後の斉王の弟が、祭り上げられた。田横たちより、血筋が貴い。
田横は、項梁に助けを求めた。
「斉にはふたつの王朝がある。項梁にとっては、田横兄弟を援けぬほうが利がある」
という状況である。田横のピンチだった。だが説客が発ち、
「勝つことと強いことが正義であるというのは秦の始皇帝の理法であった。それにさからって兵を挙げた項梁は、べつの理念(潔清と義気)をしめさねばならない」
という理屈を項梁に捻じ込んで、田横への協力を引き出した。

天旋地転

「これは、ひとつの名勝負といってよい」
宮城谷氏にしては珍しく、カンタンな言葉でコメントしたのは、楚の項梁と秦の章邯の決戦。秦は、魏を踏み潰して東に進んだ。楚は、田横を取り込んで北上をした。ぶつかった。

秦の章邯の境遇は、複雑だ。
章邯は孤独に戦っている。秦の法では、負けた将軍は処刑されるので、章邯には敗北がゆるされない。(中略)章邯が回復不能なほど惨敗すれば、秦へは報告せず、秦将であることを罷めるであろう
いっぽうの楚の軍容は、
「将は軍に在りては、君命をも受けざる所有り」
と言った孫子に忠実で、三軍が意思を持って動く。中央集権的に組織化され、ギアが集合したような秦軍とは対照的だ。
項羽と劉邦が、章邯の退路を断った。章邯は敗走した。

足元の叛乱を鎮めるため、田横は帰国した。次の斉王には従兄の子を立てたが、
「臆病な者は奸者よりも質(たち)が悪い」
という、不向きな人物だった。
「人が人と戦うという根元的な理由がわからない。戦わないですますことができるのではないか」
自問を始めてしまう。その反面、部下が首都を奪還すると、
「臨淄城は、わたしが落とすのではなかったのですか」
と勘違いをした発言をする。「恵恤に欠ける」から、田横の実兄は、従兄の子の素質を疑った。だが兄弟相続というのは不自然だから、セオリーどおり従兄の子を次の斉王とした。
予言では、三兄弟が順に王になるはずだったのだが・・・

項梁は、もともと田横に味方するメリットがない。田横への協力を、出し惜しみした。実兄は、不快を隠さなかった。
「わたしは楚人を信用しているわけではない。項梁と項羽は殺人者で、ゲイ布は犯罪者であり、劉邦は盗賊だ」
と強硬な態度を取ったから、田横たちは孤立をした。
「兄は清尚な人だ」
と田横は感心する一方で、項梁に再び友好の使者を出した。ところが、たまたま項梁は、秦の章邯に敗れて死んだ。

項梁亡き後の楚では、
「最初に関中を平定した者を、王とするであろう」
という約束がなされた。項羽と劉邦が、西征を開始した。

輝く星

秦への叛逆者を、ひとつずつ潰していく章邯。
楚の項梁の次は、張耳が輔佐している趙王がターゲットになった。張耳には親友の陳余がいるが、助けに来ない。張耳は名誉がほしくて、陳余を臣下のようにあつかった。そのせいで、関係が悪化していた。
人を遠ざけて(左遷して)おきながら、遠くにいる(援軍にこない)ことが悪いとは、何という身勝手か」
陳余は、張耳の独善にあきれた。
「陳余は、その王朝(張耳の趙)への親近感を失った」
もう趙は滅亡するしかない。

だが、「章邯をうわまわる軍事の天才」によって「信じがたい奇蹟」が起きた。宮城谷氏の言葉が平易になると、なんだか親しみが持てるが(笑)項羽の登場である。項羽は3万の兵で、30万の兵を破った。
「秦兵は砕裂した」
というわけで、真昼間の決戦で敗れて、秦軍はたったの2万に減った。章邯はさんざん迷って、項羽に降伏した。
「わたしは項羽の季父を殺している。だが、項羽が項燕(楚末期の将軍)の孫であるかぎり、和戦をけがすことはしないであろう」

秦の滅亡

項羽が章邯と戦っている間に、劉邦はせっせと西に進んだ。
咸陽では、二世皇帝が暗殺された。下手人は、
「燕ノ太子丹の子」
となってる。始皇帝にドラマチックな暗殺を仕掛け、失敗した人が、戦国末期の太子丹だ。リターンマッチを、宮城谷氏はやらせた。

秦が滅ぶと、項羽は諸侯を封じた。
「天を祀ることができる者だけが、地を定めることができる。項羽にいつ天命がおりたのか」
と田横は怒った。
項羽は、田横に敗れた別派の田氏を、かくまっている。田横たちを辺境に虐げ、別派の田氏を斉王に封じた。田横の実兄は、項羽の使者に言った。
「王は自分の臣下を封建することはできても、ほかの王に封冊をあたえることはできぬ。項羽が阿呆でも、それくらいは知っておろう。するとなんじは項羽の使者を騙る盗賊であろうよ」
実兄は、使者を捕らえた。田横は、項羽に敵対した。