表紙 > 漢文和訳 > 『魏書』列伝84「僭晉司馬叡」を翻訳/北魏目線の東晋

2)揚州に人は住めない

西晋に不忠をはたらく、司馬睿。ついに皇帝を僭称しやがります!

揚州をけなし倒す

平文帝初,叡自稱晉王,改元建武,立宗廟、社稷,置百官,立子紹為太子。叡以晉王而祀南郊。其年,叡僭即大位,改為大興元年。其朝廷之儀,都邑之制,皆准模王者,擬議中國。遂都于丹陽,因孫權之舊所,即禹貢揚州之地,去洛二千七百里。地多山水,陽為攸居,厥土惟塗泥,厥田惟下下,所謂「島夷卉服」者也。《周禮》,職方氏掌天下之地,辨其邦國都鄙,四夷、八蠻、七閩、九貉、五戎、六狄之人民與其財用、九穀、六畜之數要,周知其利害。

平文帝のはじめ、

北魏の拓跋部の君主と年号で書いてある。正直、いちいち比定するのが面倒なので、注釈しません。東晋史の年表で出来事ベースで追えば、西暦に変換するのは簡単だし。

はじめて司馬睿は「晋王」を自称した。建武と改元し、宗廟と社稷を立て、百官を設置した。子の司馬紹を、王太子とした。司馬睿は、晋王として南郊を祀った。
同じ年、司馬睿は皇帝を僭称して、大興元年と改元した。東晋の朝廷の儀礼、都邑之制は、みな王者をマネて、中国のやり方をパクった。

「准模王者,擬議中國」の8文字に、『魏書』の東晋観が凝縮されている。

司馬睿は、都を丹陽に置いた。孫権がかつて割拠した土地で、『禹貢』が定めた揚州の地である。洛陽からは、2700里の距離である。丹陽の土地柄は、山水が多く、日差しだけは伸びやかである。土質はただドロドロなだけで、農産物の実りは最低である。司馬睿が都した丹陽は、いわゆる「島夷卉服」で、未開の野蛮な土地である。
『周禮』の中で、職方氏は天下之地を掌握し、都会と田舎について論じた。四夷、八蠻、七閩、九貉、五戎、六狄の人民は、與其財用、九穀、六畜之數要。周王朝は、辺境人と付き合う利害について、すでに知っていた。

東南曰揚州,其山鎮曰會稽,其藪澤曰具區,其川三江,其浸五湖,其利金錫竹箭,其民二男五女,其畜宜鳥獸,其穀宜稻。春秋時為吳越之地。吳越僭號稱王,僻遠一隅,不聞華士。
楚申公巫臣竊妻以奔,教其軍陣,然後乃知戰伐。由是晚與中國交通。俗氣輕急,不識禮教,盛飾子女以招遊客,此其土風也。戰國時則並于楚。故地遠恃險,世亂則先叛,世治則後服。秦末,項羽起江南,故衡山王吳芮從百越之兵,越王無諸身率閩中之眾以從,滅秦。漢初,封芮為長沙王,無諸為閩越王,又封吳王濞于朱方。逆亂相尋,亟見夷滅。漢末大亂,孫權遂與劉備分據吳蜀。權阻長江,殆天地所以限內外也。

中夏の東南を、揚州という。その山鎮を會稽といい、その藪澤を具區といい、三江と五湖に囲まれた土地だ。名産は金錫竹箭で、住民は二男五女で、家畜は鳥獸で、食べる穀物は稲である。

日本に稲作を伝えたのは、南方の人だ。揚州かも知れないらしい。

春秋時代、揚州は呉越の土地だった。呉越の君主は、「王」を僭號した。中夏から見たら僻地の一部を治めているだけだ。中原の人士は仕えない。

春秋から三国までの歴史が確認されてる。飛ばします。


叡因擾亂,跨而有之。中原冠帶呼江東之人,皆為貉子,若狐貉類雲。巴、蜀、蠻、獠、溪、俚、楚、越,鳥聲禽呼,言語不同,猴蛇魚鱉,嗜欲皆異。江山遼闊將數千里,叡羈縻而已,未能制服其民。有水田,少陸種,以罟網為業。機巧趨利,恩義寡薄。家無藏蓄,常守饑寒,地既暑濕,多有腫泄之病,障氣毒霧,射工、沙虱、蛇虺之害,無所不有。叡割有揚、荊、梁三州之土,因其故地,分置十數州及諸郡縣,郡縣戶口至有不滿百者。

司馬睿は中原が擾亂したので、揚州に乗り込んだ。
中原の文官人は、江東の人のことを、みな「貉子」と呼ぶ。キツネやムジナと同類だという意味だ。巴、蜀、蠻、獠、溪、俚、楚、越の人は、鳥類や禽獣のような声で鳴く。言葉は通じない。猴蛇魚鱉、嗜好はみな違う。
揚州は、長江や山脈が数千里にも渡っている。司馬睿は騎馬で周っただけだから、原住民を制圧できていない。水田があっても、陸種は少なく、狩猟で食いつないでいる。
人の気質は、機巧で利に走り勝ちで、恩義を感じないタイプだ。家には貯蓄がなく、いつも飢えと寒さに耐えている。気候は暑くて湿気が高く、疫病が流行りやすい。毒霧や寄生虫がウヨウヨして、住めたものではない。
司馬睿は、揚州、荊州、梁州の3つを切り取った。司馬睿は、もとの3州を分割して、十数州に水増しした。人口の実態を伴わないから、郡県あたりの戸数は、100に満たない。

華北の地名を「僑立」して、国家の体裁を整えたことを批判されている。ぼくは『魏書』の言うとおりだと思う。


遣使韓暢浮海來請通和。平文皇帝以其僭立江表,拒不納之。

東晋は、韓暢を通好の使者にして、海路から代(北魏の前身)を訪問させた。平文皇帝は、東晋が皇帝を僭称しているから、通好を拒んだ。

次回は、王敦が司馬睿をいじめます。