表紙 > 漢文和訳 > 『晋書』載記の劉曜伝から、匈奴の儒教皇帝の限界を見る

4)根強い西晋の影響

西晋の司馬保が、雍州を切り取りにかかっている。在地の氐族や羌族を味方につけて、趙が苦戦している。
劉曜はうまく対処しないと、西晋の復興を許してしまう。司馬保が成功したら、江南の司馬睿はどうするんだろう(笑)

司馬保の始末

三年,曜發雍,攻陳倉,曼、連謀曰:「諜者適還,雲其五牛旗建,多言胡主自來,其鋒恐不可當也。吾糧廩既少,無以支久,若頓軍城下,圍人百日,不待兵刃而吾自滅,不如率見眾以一戰。如其勝也,關中不待檄而至;如其敗也,一等死,早晚無在。」

三(320)年、劉曜は雍城を出発し、陳倉を攻めた。西晋の楊曼と王連は、謀って言った。
「諜報に行った人の報告によると、五牛旗が建ち、胡主(劉曜)が自ら攻めてきたらしい。

「五牛旗」とは、皇帝の目印。皇帝の車を5匹のウシが引き、ウシに旗を立てたんだって。

攻撃力は恐ろしくて、とても司馬保の西晋には相手が出来ない。西晋の兵糧はすでに少なく、もう長くは支えられない。もし城下に劉曜の軍が来て、100日でも包囲されたら、私たちは刃を交えることなく、自滅するだろう。それなら、負けを承知で戦うほうがマシである。

冒頭で「謀って曰く」とあるから、本心ではない。どの辺が本心ではなく、劉曜との戦いをどう運ぼうとしているかは、読んでのお楽しみ。

もし西晋が勝てたら、関中の軍勢は、檄文が到着するのを待たず、自ら西晋のために、馳せ参ずるだろう。もし西晋が負ければ、死ぬだろう。遅かれ早かれ、人間は死ぬ。敗死しても、それはそれで仕方ない」

遂盡眾背城而陣,為曜所敗,王連死之,楊曼奔于南氐。曜進攻草壁,又陷之,松多奔隴城,進陷安定。保懼,遷于桑城。氐羌悉從之。曜振旅歸於長安,署劉雅為大司徒。

西晋の楊曼と王連は、全軍で城を背にして、陣を布いた。西晋は、劉曜に敗れた。王連は殺され、楊曼は南氐に逃げた。

期待はずれの西晋残党です。どうやら自軍の兵士を奮起させるため、ウソをついただけ。せっかくなら敵軍をハメなくちゃ!

劉曜は草壁に進攻し、これを陥落させた。
路松多(挙兵の発起人)は隴城に逃げた。劉曜は、安定を陥落させた。司馬保は懼れて、桑城に遷った。氐羌は、すべて司馬保に従って、桑城に遷った。
劉曜は、軍を引き返させて、長安に帰った。劉雅を大司徒にした。

司馬保は、「背城の陣」を布いた楊曼と王連が堪えきれず、再起を潰された。劉曜は司馬保を、もう脅威ではないと見なした。
しかしこの期に及んでも、氐羌は司馬保に従っている・・・

洛陽の支配権が移動

晉將李矩襲金墉,克之。曜左中郎將宋始、振威宋恕降于石勒。署其大將軍、廣平王嶽為征東大將軍,鎮洛陽。會三軍疫甚,嶽遂屯澠池。石勒遣石生馳應宋始等,軍勢甚盛。曜將尹安、趙慎等以洛陽降生,嶽乃班師,鎮於陝城。

西晋の将軍・李矩は、金墉を襲った。西晋は金墉を、劉曜の前趙から奪い返した。

金墉城は、洛陽の政治犯を閉じ込める場所でした。つまり洛陽に超近い!
・・・よく皇族の司馬氏も、お入りになった場所です(笑)

前趙の左中郎將・宋始と、振威将軍の宋恕は、石勒に降伏した。

西晋と前趙は仇敵だから、西晋に降伏できない。前趙に帰れば、金墉を奪われた罪で、処罰される。そういうわけで、第三者の石勒に亡命した。中原で、ミニ三国志が行なわれております(笑)

劉曜は、大將軍で廣平王の劉嶽を、征東大將軍として、洛陽に出鎮させた。

金墉への牽制だね。洛陽を収めているのは、このとき前趙です。以後、後趙(石勒)に奪われるタイミングがあるので、見逃さないようにしないと。

たまたま三軍に疫病が流行ってしまったので、劉嶽は洛陽ではなく、澠池に屯した。
石勒は石生を遣わして、金墉を追い落とされた宋始らを迎えさせた。石生の軍勢は、甚だ盛んであった。
劉曜の部将・尹安と趙慎らは、洛陽の支配権ごと、石生に降伏した。前趙の征東大將軍・劉嶽と、劉嶽の軍は、洛陽から西に後退して、陝城を守った。

さっき訳注で煽ったばかりなのに、もう洛陽が後趙に属した。
ポイントは、洛陽の支配権が移ったキッカケを、西晋の将軍が作ったということ。必争の地です。西晋は、洛陽回復を諦めていない。


西明門內大樹風吹折,經一宿,樹撥變為人形,發長一尺,鬚眉長三寸,皆黃白色,有斂手之狀,亦有兩腳著裙之形,惟無目鼻,每夜有聲,十日而生柯條,遂成大樹,枝葉甚茂。

西明門の内側で、大樹が風で折れた。1宿を経て、折れた樹の中から人形が出てきた。身長が1尺、ひげと眉の長さは3寸、全身が黄白色だった。

「にんぎょう」じゃなくて、「ひとがた」と読むと、それっぽいかな。
未彩色のフィギュアみたいなものだから、木の色そのまま、黄白なんだ。

人の形は、手に剣の形をしたものを持ち、両足の形は衣服の上から分かった。ただ目と鼻がなく、毎晩声を出した。10日経って、柯條を生じて、ついに大樹となり、枝葉がたくさん茂った。

何の暗示なんだ?「滅びても、次の世代に繋がってゆくよ」的な?