表紙 > 漢文和訳 > 『晋書』載記の劉聡伝を訳し、胡漢融合の可能性を探る

9)陳元達が劉聡を圧倒

立場が弱くなった皇太弟の劉乂に、
「劉聡は、弟のあなたじゃなくて、子の劉粲に帝位を譲るつもりだ。今のうちに逆転せよ」
とそそのかす腹臣たち。
もともと劉聡が、「皇太弟」という不安定なポストを置いたのは、なぜだったか。自身が、兄を殺して即位し、正大さに負い目があったからだ。いま、その借金を払わされそう。

国を滅ぼす外戚の誕生

聰如中護軍靳准第,納其二女為左右貴嬪,大曰月光,小曰月華,皆國色也。數月,立月光為皇后。

劉聡は、中護軍の靳准の屋敷に行った。靳准の2人の娘をスカウトして、左右貴嬪とした。姉は「月光」で、妹は「月華」という名前だった。どちらも国家レベルの色気があった。
数ヶ月して劉聡は、姉の月光を皇后とした。

6人もいた劉氏の皇后はどこへ・・・
ネタバレすると、靳准に漢は滅ぼされます。


東宮舍人荀裕告盧志等勸乂謀反,乂不從之狀。聰於是收志、瑋、遐於詔獄,假以他事殺之。使冠威蔔抽監守東宮,禁乂朝賀。乂憂懼不知所為,乃上表自陳,乞為黔首,並免諸子之封,褒美晉王粲宜登儲副,抽又抑而弗通。

東宮舍人の荀裕は、盧志らが劉乂に謀反を勧めたことをリークした。劉乂が、謀反の誘いを断ったこともリークした。
劉聡は、盧志とその同志らを詔獄に下して、他の理由を付けて殺した。冠威将軍の蔔抽に、東宮を監守させた。劉乂が、朝賀に参加するのを禁じた。劉乂は、自分と関係ない罪に憂懼した。
劉乂は上表して、自分を庶民に降格し、諸子の封国も解除してくれと願い出た。劉粲を皇太子にしてくれと願い出た。
劉乂の上書は、無視された。

ネタバレすると、次の皇帝は、劉聡の子・劉粲です。しかし、さっき登場した外戚の靳准に殺されます。
「劉聡伝」のこの2段は、漢の滅亡への伏線なのです。

曹嶷が斉で自立?

其青州刺史曹嶷攻汶陽關、公丘,陷之,害齊郡太守徐浮,執建威劉宣,齊魯之間郡縣壘壁降者四十餘所。嶷遂略地,西下祝阿、平陰,眾十余萬,臨河置戍,而歸於臨淄。嶷於是遂雄據全齊之志。石勒以嶷之懷二也,請討之。聰又憚勒之並齊,乃寢而弗許。

劉聡の青州刺史である曹嶷は、汶陽關と公丘を攻めて、陥落させた。

曹嶷は、劉聡に謀反しました。石勒も自立するし、山東は分離しやすいなあ。

曹嶷は、齊郡太守の徐浮を殺した。建威将軍の劉宣を捕えた。

この劉宣は、劉淵の従祖父じゃないよね。もう死んだはず。

齊魯のあいだにある郡・縣・壘・壁で、曹嶷に降伏したのは、40余だった。
曹嶷は、斉魯の土地を奪って、西に攻め下った。曹嶷は、祝阿、平陰を攻めた。曹嶷の軍勢は、10余万人。曹嶷は黄河に達すると、守備隊を設置して、臨淄に帰った。ここにおいて曹嶷は、斉の全土を支配して、割拠する志を唱えた。

春秋戦国の大国「斉」は、後漢末には群雄が立たなかった。青州黄巾が曹操に吸収され、臧覇が委任統治をしていた感じ。国家を形成するキャパがある土地柄のはずが、残念に思ってました。
いま西晋末に、旧斉で群雄が生まれようとしている。期待!

石勒は、曹嶷を討ちたいと願い出た。だが劉聡は、石勒が斉を、彼の国に加えてしまうのを憚り、 曹嶷の討伐を許さなかった。

劉曜濟自盟津,將攻河南,將軍魏該奔於一泉塢。曜進攻李矩于滎陽,矩遣將軍李平師于成皋,曜覆而滅之。矩恐,送質請降。

劉曜は、盟津から黄河を渡った。劉曜が河南を攻めようとすると、西晋の将軍・魏該が一泉塢に逃げた。
劉曜は進軍し、李矩を滎陽に攻めた。李矩は、將軍の李平を出陣させ、成皋で戦った。劉曜は、李平を覆って滅ぼした。李矩は劉曜を恐れて、人質を送って降伏を願った。


時聰以其皇后靳氏為上皇后,立貴妃劉氏為左皇后,右貴嬪靳氏為右皇后。左司隸陳元達以三後之立也,極諫,聰不納,乃以元達為右光祿大夫,外示優賢,內實奪其權也。於是太尉范隆、大司馬劉丹、大司空呼延晏、尚書令王鑒等皆抗表遜位,以讓元達。聰乃以元達為御史大夫、儀同三司。

ときに劉聡は、皇后の靳氏を「上皇后」にランクアップさせた。貴妃の劉氏を、左皇后とした。右貴嬪の靳氏を、右皇后とした。
左司隸の陳元達は、3人の皇后を立てることを、極諫した。劉聡は、陳元達の言うことを聞かず、陳元達を右光祿大夫にした。外には陳元達が優賢な人物だから、昇格させたように見える。だが内実は、陳元達の権力を奪ったのだった。
ここにおいて太尉の范隆、大司馬の劉丹、大司空の呼延晏、尚書令の王鑒らは、みな陳元達の左遷人事に抗議して、辞表を提出した。劉聡は、陳元達を御史大夫、儀同三司として、群臣に妥協した。

西晋への攻撃を断念

劉曜寇長安,頻為王師所敗。曜曰:「彼猶強盛,弗可圖矣。」引師而歸。

劉曜は、長安を攻めた。西晋軍は、何度も劉曜を破った。劉曜は言った。
「西晋は、まだまだ強盛である。作戦は中止だ」
劉曜は、軍を率いて帰った。

福原啓郎『司馬炎』により、長安の愍帝は弱いと思っていた。確かに全国を支配していないが、かなり強いじゃないか。世間の西晋ファンの皆さまも、一緒に認識を改めて下さい(笑)
劉聡の治世は、西晋をなかなか滅ぼせないことがメインテーマだったのか。


聰宮中鬼夜哭,三日而聲向右司隸寺,乃止。其上皇后靳氏有淫穢之行,陳元達奏之。聰廢靳,靳慚恚自殺。靳有殊寵,聰迫于元達之勢,故廢之。既而追念其姿色,深仇元達。

劉聡の宮中で、鬼が夜哭きした。3日して、鬼の声は右司隸の屋敷に移って、止んだ。

漢室を乱しているのは、右司隷の長官ですよ!という暗示だ。右司隷は、いま誰が担当していたっけ。。

劉聡の上皇后である靳氏は、淫穢の行いがあった。陳元達は、靳氏の行いについて、上奏した。劉聡は、上皇后の靳氏を廃した。靳氏は、慚恚して自殺した。
靳氏は、劉聡から殊に寵愛を受けていた。劉聡は、陳元達らの勢いに迫られていたから、靳氏を廃した(劉聡は靳氏を廃したくなかった)。劉聡は、靳氏の姿色を追念し、深く陳元達を仇に思った。

劉聡から、絶対権力が去っている。少し前なら、陳元達が何を言おうが、死刑にして終わりであった。
最近の劉聡は、なぜ陳元達に妥協しているか。それは、西晋を滅ぼせないからでしょう。西晋に代わり、胡漢を全て巻き込んだ大帝国を作るスローガンが、劉聡が偉そうにできる理由である。いま、劉曜が長安攻めを諦めて、帰ってきてしまった。あまり劉聡がワガママすると、漢は滅びる。


劉曜進師上黨,將攻陽曲,聰遣使謂曜曰:「長安擅命,國家之深恥也。公宜以長安為先,陽曲一委驃騎。天時人事,其應至矣,公其亟還。」曜回滅郭邁,朝於聰,遂如蒲阪。

劉曜は、上黨郡に進軍した。劉曜が陽曲を攻めようというとき、劉聡は劉曜に伝令した。
「長安では西晋の残党が、天命をほしいままにしている。國家の深恥である。劉曜は、長安を優先して攻めろ。ここ陽曲は、驃騎将軍に委ねよ。

このときの驃騎将軍って、誰、、?こんなんばっかだな(笑)

天の時と人事が、ぴったり呼応しているタイミングだ。劉曜は、天と人との呼応を極めて(西晋を滅ぼして)帰還せよ」
劉曜は、ひるがえって郭邁を滅した。劉曜は劉聡に朝謁し、蒲阪に行った。